広島県をはじめ瀬戸内海で、養殖するカキの大量死が問題となっています。夏場の猛暑による海水温の上昇が原因とみられています。こうした中「若狭かき」の産地、小浜市では、県立大学と地元の養殖業者らが連携して、高い水温に強い稚貝の量産化に成功しました。猛暑が当たり前となる中、産地を守る取り組みを取材しました。
「これ、死んでいる。広島産の種やけど…9割以上死んでいる」
こう話し肩を落とすのは、小浜湾で若狭かきを養殖する大住徳博さんです。出荷を間近に控え、広島県産の稚貝から育てたカキの半数以上が死滅。近年、ここまでの被害はありませんでした。
「海の中が厳しかったんやろね。お湯やもん…温泉入っているようなもんやから」
一方で、三重県産の稚貝は死滅せず、順調に育っています。
「30年養殖しているが、これだけ暑く水温が30度以上続いたのも初めての経験。暑さに弱いカキは育たないのかなと思う」と大住さん。
暑さが続いた今年の夏は、仕入れた稚貝の産地で被害に大きく差が出ました。
市の漁協によりますと、若狭かきの養殖業者12社のうち、大半が三重県産の稚貝を使用。三重県産は被害がなく、今年の出荷に大きな影響はないということです。
この理由について、海洋生態系の保全が専門で小浜のカキ養殖も研究する県立大学の浜口昌巳教授は「広島湾・瀬戸内海の沿岸は水温がわりと夏場でも低い一方、三重県の稚貝は水温が高いところに生息していたものが採用されているので高水温に強いと考えられる。小浜湾は日本各地にあるカキ漁場で一番水深が浅く、猛暑の影響を受けやすいので耐えられない種苗が出てくる」と指摘します。
県立大学では地元生産者らと連携し、ことし広島県産のカキを基に卵を産まない個体で育てた「若狭うららかき」を開発しました。産卵をしないため、夏場に強いカキです。
研究ではさらに、小浜湾の環境に適応できるより強い個体を作ろうと、小浜産のカキを基にした純正の稚貝の生産に着手。このほど、3万個以上が確保でき量産化することに成功しました。
浜口教授は「小浜湾は水温が上がりやすい特徴がある。高水温に対して強い種苗の量産化に成功したので、今後は小浜で養殖できる稚貝は本学から供給できるのではないか。高水温に強く純粋な小浜産ということで、地域の人がプライドを持って生産できる」と期待を込めます。
浜口教授によると今後、日本沿岸では高水温に加えて餌が少ない貧栄養化が起こり、両方の克服が必要とのこと。これについても、小浜には多く井戸があるように、「日本海側では地下の伏流水が発達しやすいため、栄養がたくさん入ってエサが増える状況が作り出される」としています。
手軽に出荷できるカキ養殖は全国各地で若者が新規養殖を始めていて、特に高水温対策がうまくいけば日本海側のカキ養殖はまだまだ発展する可能性があります。
若狭を代表する冬の味覚「若狭かき」。夏の猛暑が続く日本で、産地を守り発展させる研究成果に期待です。