「老い」を避けようと、さまざまな老化対策に励む人は多い。
しかし、どれだけ努力をしていても、社会から否応なく「老い」を突きつけられる瞬間がある。
その代表的なものが「定年」だ。一般的に60~65歳が定年とされるが、この年齢でも元気に働き続けられる人もいる。
現在78歳の生物学者・池田清彦さんの著書『老いと死の流儀』(扶桑社新書)から、社会が押しつける「老い」について一部抜粋・再編集して紹介する。
定年は社会が押しつける老い
生物学的な老いを避けることは不可能ですから、必要以上に抗おうとするより、騙し騙しうまく付き合っていくほうが幸せな老後を過ごせる、と私は考えています。
しかし、それとは違う種類の「老い」も存在します。それが、社会のシステムによって生み出される「老い」です。
そのシステムの代表例が「定年」という制度でしょう。日本の場合、定年年齢そのものは依然として60〜65歳が一般的です。
法律(高年齢者雇用安定法)によって、企業には65歳までの雇用確保が義務づけられ、2021年からは70歳までの就業機会確保が「努力義務」として加わったので、制度上は70歳近くまで働ける環境が整いつつありますが、60〜65歳という区切りを境に「再雇用」や「雇用延長」というかたちに移行するケースが大半です。
その際には給与も大幅に見直され、現役時代と同じ水準で働き続けられる人は少数にとどまるとされています。
つまり、そのまま仕事を続けること自体は可能だとしても、ある年齢になると一律に「あなたはもう現役とは言えませんよ」と宣告されてしまうわけです。
