「暴言」「土下座を求める」「過度な要求」――。近年、社会問題となっているカスタマーハラスメント(カスハラ)への対策を学ぶセミナーが11月14日、富山市で開催された。企業経営者や人事担当者など約30人が参加し、防止策について理解を深めた。

カスハラ増加の背景と定義


セミナーでは日本カスタマーハラスメント対応協会の酒井由香副代表が講師を務めた。酒井氏はカスハラ増加の背景として「『神対応』と呼ばれるサービスの提供により客が(接客などに)過剰な期待を持ってしまった点」や「SNSの普及によって苦情を言うことへの抵抗感が低下した点」を指摘した。
厚生労働省によると、カスハラには「身体的・精神的な攻撃」(暴行、威圧的な言動、土下座要求など)と「要求内容の妥当性に照らし不相当とされる場合があるもの」(不当な商品交換要求、過度な金銭補償要求など)がある。
一般的なクレームとカスハラの線引きについて、酒井氏は具体例を挙げて説明した。

「まんじゅう屋でまんじゅうを10個買った。そのうち1つがパッケージが破れていたので交換をお願いしたいと言った。交換するそのことまでは普通の申し出。その時に気分が悪いからさらに10個くれと言えば、要求程度がおかしいということでカスハラっぽくなる。さらにこれに対して、『すごく気分が悪いから土下座しろ』とか『店主が出てきて詫びろ』と言うと態度が悪いことになるので、これもカスハラになる可能性がある」
企業・行政での対応策
厚生労働省の2023年度調査によると、過去3年間に従業員からカスハラの相談があったと回答した企業の割合は27.9%で、3年前の調査から8.4ポイント増加している。今年6月には事業主に防止対策を講じることを義務付ける法改正が行われた。


富山県庁では、窓口の業務時間外に連絡なしで訪れる、同じ主張を繰り返す、「知事に会わせろ」などの特別扱いを要求するといったカスハラ事案が確認されている。調査の結果、対象とした1年半の期間に全体の4分の3の部署でカスハラ事案が発生していた。


こうした状況を受け、県は今年2月にカスハラ対応指針を策定。カスハラを4つの類型(時間拘束・リピート型、暴言・脅迫型、権威型、SNS等での誹謗中傷型)に区分し、それぞれの対応策を示した。例えば、長時間の電話などには一定時間で対応を終了し、悪質な場合は警察や弁護士に相談するなどの法的対応を取るとしている。
民間企業の取り組みと課題

北陸銀行でも窓口対応の遅さを理由に行員が叱責されたり、相談窓口でカスハラに該当する電話を受けたりする事案が確認されていた。

北陸銀行お客様相談室上席推進役の上村栄一さんは「長時間の拘束、同じ話の繰り返しやなかなか納得しないケースで、長時間対応するケースや暴言といった電話がかかってくる」と話す。


同行は2024年11月、カスハラへの対応基本方針を策定。カスハラと判断される場合には落ち着いた話し合いを求め、行為が継続する場合や悪質と認められる場合には警察や弁護士に相談するなどと定めた。
しかし上村さんは「どこまでを正当なクレームとみなすか、どこからがカスハラとみなすか、線引きが非常に難しい」と課題を指摘する。
双方の理解が重要

酒井氏は「何人たりともカスハラをしないさせないことが東京都の条例でも示されている。従業員が消費者になった時にカスハラの行為者になることはゼロではない。立場が違えばそのことが起こるかもしれないということを知っておくことも重要だと考えている」と述べ、顧客と従業員の双方で理解を進めることの重要性を強調した。
カスハラ対策が事業者側の義務となることが決まる中、どのような行為がカスハラに当たるのかという認知を広げることで、問題の抑制につなげていくことが求められている。
(富山テレビ放送)
