夜の住宅街で起きた、原付バイクと小型犬の接触事故。犬は命を落とし、運転手は転倒してけがを負った。事故の責任はどちらにあるのか――。
飼い主と運転手が互いに損害賠償を求めて争った裁判で、東京地裁は双方に過失があると認め、賠償を命じる判決を下した。
法的に「物」として扱われるペットの死に対して慰謝料が認められた理由とは。
夜の交差点で起きた事故
2022年10月の深夜0時過ぎ、東京都内の住宅街にある交差点で、原付バイクと小型犬が接触する事故が起きた。
犬は死亡し、バイクは転倒。運転していた男性は、外傷性くも膜下出血、肋骨骨折、頸椎捻挫などのけがを負い、入院を余儀なくされた。
事故をめぐって、バイクの運転手と犬の飼い主が、互いに損害賠償を求めて裁判となった。
主張の食い違い
バイクを運転していた男性の主張はこうだ。
犬の飼い主は、自分の犬が人の生命や財産に害を与えたりしないように努める義務があるにもかかわらず、今回の事故は犬が突然バイクの前に飛び出してきたため、避けることができずに起きたと主張。「もっぱら飼い主の過失」と主張し、けがの治療費やバイクの修理費、慰謝料など総額約190万円の賠償を求めた。
一方、反訴した女性は、バイクが徐行義務を怠って、下り坂をスピードを出して走り、前方の注意義務を怠ったために、犬に気づかずに接触したと主張。バイクを運転していた原告男性の過失に基づくとし、犬の死による精神的苦痛への慰謝料50万円など、総額約110万円の賠償を求めた。
事故の原因は「犬の飛び出し」なのか、「バイクの不注意」なのか…
裁判では、現場の状況や当事者の供述、警察の実況見分調書などをもとに、事故の経緯が明らかにされた。
事故直後に取り乱した女性
女性が飼っていた犬はボストン・テリアだった。判決によると、女性は息子を亡くした後、この犬を飼い始め、家族同然の愛情を注いでいたという。
原告の運転手は、「犬が飛び出してきた」と主張したが、裁判所は、被告女性の証言などから、その犬は交差点の中央付近で排便をしていたと認定した。
女性はその場に立ち止まり、犬が排便を終えるのを待っていたが、そこへ下り坂を走ってきた原付バイクが交差点に進入し、犬と接触したというのだ。
事故の直後、女性はひどく取り乱し、現場に駆けつけた警察官と会話をすることも困難な状態だったという。
