鹿児島銀行と熊本・肥後銀行が経営統合し、九州フィナンシャルグループ(九州FG)が設立されてから2025年で10年。地方銀行の経営統合モデルとして。どのような道を歩んできたのか。人口減少による地域経済の縮小という課題に向き合う地方銀行の未来像を探る。

「統合と独自性」の両立      

「鹿児島の方が肥後銀行を感じる必要はない。鹿児島のトップ銀行である鹿児島銀行を感じてくれればいいのではないか」

2025年10月7日に開かれた九州FGの定例会見で笠原慶久社長(肥後銀行頭取)はこう語った。2015年、鹿児島銀行と肥後銀行が経営統合に踏み切った背景には、地方の人口減少が進み、地域経済の縮小が見込まれる中で、銀行同士が手を組んで組織の体力を守ろうという狙いがあった。

銀行の再編には「合併」と「経営統合」の2つがある。「合併」では銀行名が変わったり一方がなくなったりするほか、支店の統廃合やシステムの統合が進められる。一方「経営統合」は、持ち株会社を設立し各銀行が子会社としてぶら下がる形。銀行名はそのまま残り、これまで通りの経営を続けることができる。九州FGは後者を選択した。

鹿児島銀行の郡山明久頭取(九州FG会長)は、「鹿銀(かぎん)」の名前を残した意義についてこう説明する。

「あえて肥後銀、鹿銀のブランドで営業していることは、地域の金融機関ですよと。あまり『変わったな』『鹿銀は県内企業に冷たくなった』ということが絶対にないようにしなきゃいけない」

鹿児島銀行・郡山明久頭取(九州FG会長)
鹿児島銀行・郡山明久頭取(九州FG会長)
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専門家「九州FGは健全なうちに経営統合という珍しいパターン」

九州は全国に先駆けて銀行の再編が活発な地域だ。最大手のふくおかフィナンシャルグループは2007年設立。地方銀行の福岡銀行と十八親和銀行(長崎)、熊本銀行、福岡中央銀行が傘下に入っている。2016年設立の西日本フィナンシャルホールディングスは、西日本シティ銀行(福岡)、長崎銀行がグループ傘下で市場規模の拡大を図っている。

九州フィナンシャルグループは九州の持ち株会社としては総資産ベースで3番目の規模だ。わかりやすく言えば、経営的に困っていない県内トップ銀行同士が無理のない範囲で、自然体でタッグを組んだといえる。

九州の経済に詳しいシンクタンク、バードウイングの鳥丸聡代表は「とても珍しい形で全国で先べんをつけたといえる。健全なうちに経営統合しておくという当時としてはとても珍しいパターンだった」と評価する。

熊本地震、コロナ 逆風を乗り越え過去最高益に   

だがグループの船出は必ずしも順調ではなかった。設立翌年の2016年に熊本地震が発生し、その後もコロナ禍と逆風にさらされた。

熊本地震の際、鹿児島銀行から受けた物資や人員の応援について肥後銀行・笠原頭取は、「私たちだけでは難しかった。経営統合して良かったと感じた。これで両行の絆が深まった」と振り返る。

両行行員の人材交流は、出向や研修など10年間で約1700人にのぼっている。さらにコロナ禍を乗り越えたあと、2024年の金利引き上げなどで業績は上昇。両行単体の2025年3月期決算は過去最高益となり、2026年3月期決算も最高益を更新する見通しだ。

九州FG・笠原慶久社長(肥後銀行頭取)
九州FG・笠原慶久社長(肥後銀行頭取)

大きな成果あった10年 これからの10年に向けた挑戦は  

バードウイング・鳥丸代表は、「かつての銀行は企業経営を後追いしていけばそれで良かった。これからの時代はむしろ地域をリードしていく、地場産業をサポートするような事業展開(が必要)。穴が開いているところをちゃんと埋め込んでいく工夫が必要」と、地方銀行が果たすべき役割の変化について指摘する。

九州FGのこれまでの10年について、九州FG会長の鹿児島銀行・郡山頭取は「経営統合していなければ見えなかったことは実はすごくたくさんある。この10年の成果は大きかったと正直思う」と振り返った。そして「これから先の10年も経営統合したからできたことを発揮していきたい」を展望を語った。

しかし郡山頭取は「今のままで安泰とは思っていない」とも話す。グループが掲げる「統合と独自性」のうち、統合については2030年をめどにシステム統合を検討するなど、今後経費率を下げる効果が期待できそうだ。

一方「独自性」については、従来の銀行業に留まらない新たな地銀としての形を模索している。

「預金と貸し出しをしっかり地元でやってその力で地域の活性化につながる本業以外の事業に関与してやっていく。そこには地域の自治体や企業と連携してやっていく。相対的に地域で果たすべき役割がおのずと見えてくるのではないか」

鹿児島銀行、肥後銀行、両県のトップ銀行として地域と関わりながら地元経済をリードしていくことが今後さらに求められている。

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