食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

植野さんが紹介するのは「じゃがいものポタージュ」。東京・大森にある大正ロマンあふれる洋食店「洋食入舟」に再び訪れ、クリーミーな口当たりの中にじゃがいものうまみが広がる常連客に大人気の一品を紹介。

さらに、ふんわりと焼いた卵が絶妙な食感の「たまごサンド」も教えてもらった。

大正13年創業の老舗洋食店

「洋食入舟」があるのは、JR京浜東北線大森駅から徒歩8分の場所。1924(大正13)年、に創業し今年で102年目を迎えた。

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老舗の風格漂う雰囲気に魅せられ、入り口から奥へ進むと赤じゅうたんの玄関、1階は木漏れ日が差し込むテーブル席、2階には、“お座敷洋食”と呼ばれるゆえんの7部屋の畳の個室がある。もともと花街だった大森という地域柄、芸者を呼ぶための造りが今に残っている。

営むのは、4代目店主の松尾信彦さん。

頭から尻尾まで全て食べられるエビフライに、外はサクサク、中はふわふわの魚のフライ。チキンライスを卵の甘みが優しく包む「オムライス」。濃厚なデミグラスソースでいただく「ポークソテー」など、昔懐かしい洋食の味わいがそろう。

都内有数の歴史を誇る老舗で、“これぞニッポンの洋食”と呼べる味わいが楽しめる。

単なる通過点でなかった100年の重み

実は4年前にも植野さんはこの店を訪ねている。

「この4年間で何か変化とかありましたか?」と聞くと、松尾さんは「一番大きく変わったのは、1年前にちょうど100周年を迎えることができたこと。自分たちの想像を、はるかに超えるお祝いをしていただいた。自分の中では“単なる通過点”だと思っていましたが、100周年になる1週間前から極度の緊張で眠れなくなってしまった」と振り返った。

植野さんがその話に驚いていると、松尾さんは続けて「先代と2人で仕事していまして、実際はほとんど自分が厨房に立っている。これでもし自分が倒れたら100周年迎えられないんじゃないかな…。交通事故に遭ったらどうなっちゃうんだろう…とか余計なことを毎日考えるようになった」と語った。

そして迎えた100周年当日の朝、「朝を迎えた時に、“肩の荷が下りる”ってこういうことを言うんだ…と。全身が軽くなって、そこからは楽しくてしょうがない。100年やっている店という目で見られますので、いい意味でプレッシャーを毎日感じています」と100年の重みを語り、植野さんに100周年の記念手ぬぐいを渡した。

大正時代から続く、その変わらない洋食の味わい。いつまでも私たちもその味を楽しみたい。

本日のお目当て、洋食入舟の「じゃがいものポタージュ」。 

一口食べた植野さんは「出汁のような旨味とじゃがいもの甘みがしっかりと組み合わさっている」と絶していた賛。

洋食入舟「じゃがいものポタージュ」と「たまごサンド」のレシピを紹介する。