食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「あめ色玉ねぎとアンチョビのパスタ」。
西武池袋線・石神井公園駅近くの野菜イタリアン「久保田食堂」を訪れ、玉ねぎの甘みとアンチョビの塩気が重なり合い、深いうまみを引き出す看板料理を紹介。息子とともに二人三脚で店を切り盛りし、親子で声を掛け合いながらの温かな空間づくりにも迫る。
野菜の持ち味を引き出すイタリアン
植野さんがやってきたのは池袋から西武池袋線の急行で約10分の石神井公園駅。
駅名にもなっている石神井公園を中心に、緑豊かな自然と穏やかな街並みが調和したエリア。江戸時代から続く農業の歴史も色濃く、今も旬の練馬野菜を扱う直売所や「キャベツの記念碑」まである、野菜文化が根付いた街だ。

店は石神井公園駅から徒歩3分の場所にあるビルの3階にある。開店以来、素材への思いを大切に野菜のおいしさを伝え続けてきた「久保田食堂」だ。
厨房で腕を振るうのは、イタリアンの店などで15年間腕を磨いてきたオーナーシェフ・久保田孝一さん。息子もサポートに入り、親子で店を切り盛りするアットホームさも魅力。店内には、三浦半島の契約農家や地元練馬の農家から仕入れた野菜がいたるところにある。

メニューは採れたて野菜を使ったナスのグラタンやトマトを丸ごと湯煎したサラダのほか、野菜に肉や魚を合わせた久保田さんのセンスと想いが詰まった料理が楽しめる。野菜の持ち味を引き出した一皿一皿は、訪れる人の心もお腹も満たしていく。
野菜をもっと美味しく食べて
野菜イタリアンを開いた経緯を聞かれた久保田さんは、「もともとイタリア料理が好きで、この店をやる前に農園レストランで働いていました。そこで野菜との出会いがあって面白いな(と思った)」と振り返る。
しかし、開店当初は「ずっと閑古鳥が鳴いていた。でもお客さんがお客さんを呼んできてくれて、何とな~く(やってきた)」と語った。

通りから見つけにくい3階にありながらも、地元客の口コミで、野菜好きが集まる繁盛店に。客からも「本当に野菜が美味しい」「家では作ることができない味」「普段買わないような種類の野菜も入っている」「野菜の甘みを感じる料理」と絶賛の声があがる。
そんな料理を久保田さん1人で調理するため、キッチンは大忙し。キッチンタイマーは7つ以上駆使し、何品も同時に作るためガスコンロも大渋滞。

それでも手間暇は細やかで、切り目を入れて味を染み込みやすくしたり、一度火を入れたあと、少し冷まして野菜がダシを吸い込む時間を作るなど工夫している。
久保田さんを間近で見続けている息子は「そこまで野菜に重点を置いてやっているお店もない」「野菜の特性を生かしてここまで美味しい料理を出して10年もずっと店をやっているので本当にすごいと思う」と尊敬していた。

そんな久保田さんはこの先、「料理の内容を少しずつよくしてクオリティーをあげていって、お客さんに満足してもらえるよう繰り返し努力していく」と語った。
野菜をもっと美味しく食べて欲しい。その想いと挑戦はこの先も続いていく。

本日のお目当てが、久保田食堂の「あめ色玉ねぎとアンチョビのパスタ」。
一口食べた植野さんは「玉ねぎの濃厚な甘みがすごい。アンチョビの塩気がふっと入ってきて甘みも深くなるし、ただ甘いだけじゃなく深みのある甘さで旨味が濃厚」と感動していた。
久保田食堂「あめ色玉ねぎとアンチョビのパスタ」のレシピを紹介する。