秋場所の明暗を分けた、立ち合いのわずかな「差」と大の里を支えた意外な「モノ」

大の里
大の里
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真の「大豊時代」到来。そんな大相撲の新時代を告げる場所だったのかもしれない。

豊昇龍
豊昇龍

強力な2人の横綱のライバル関係、そんな両雄の激突が大相撲の歴史に花を添えてきた。

「輪湖黄金時代」と呼ばれた輪島-北の湖、同期で永遠のライバルとして覇権を争った曙-貴乃花、賜杯を独占し続けた同郷のライバル朝青龍-白鵬など、そのライバル関係は相撲ファンの記憶に強く焼き付いている。

そして、令和の新たなライバル関係として、今年になって横綱に昇進した2人、大の里の「大」と豊昇龍の「豊」から「大豊時代」を期待する声が大きくなっていた。

しかし、意外にもこの2人が終盤まで優勝を争い、直接ぶつかり合ったことはこれまで一度もなかった。

そんな中、ようやく訪れた2人の優勝争い。結末は16年ぶりとなる横綱同士による優勝決定戦までもつれる激しい闘いとなった。

横綱初優勝をかけたハイレベルな優勝争い

今年の1月に横綱に昇進した豊昇龍だったが、その後はケガが相次ぎ本場所を全うすることもままならず、精彩を欠く場所が続いていた。それでも、今場所は持ち前の力強い投げ技を見せるなど初日から11連勝。復調を感じさせる相撲を見せた。

対する5月に横綱に昇進した大の里も、先場所4個の金星を配給するなど横綱昇進後は不振を極めたが、今場所は全身で圧力をかける大の里らしい相撲で安定して勝ち星を積み重ねていた。

迎えた千秋楽。豊昇龍12勝、大の里13勝で星の差一つ、共に横綱として初優勝を狙う直接対決という構図になった。

ライバル同士の初の優勝争い、激しい一番が予想されたが、意外な展開となる…立ち合い「もろ手突き」で立った豊昇龍が一気に前に出る相撲で押し出し。あっけない一番に両国国技館は騒然となった。

勝敗を分けた立ち合いの選択                

この一番について会場の花道から見ていた、昨年の秋場所で引退した元大関・貴景勝の湊川親方に聞いてみると…

湊川親方:
「花道から見ていたのですが、どういう立ち合いをするのかなと。両横綱共に立ち合いのパターンを何パターンも持っていますから。自分なりに予想していたのですが、豊昇龍関の『もろ手突き』は全く予想していなくて、大の里関もびっくりした立ち合いだったのではないかと思います」

組んだら強い豊昇龍は立ち合いで廻しを取りにいくことが多く、これまでの大の里との対決でも廻しをとって投げて勝った一番もあった。しかし、この一番では「もろ手突き」で廻しを取りにいかずに大の里の体勢を起こし一気に前に出る相撲を選択した。

湊川親方:
「作戦というか、手の内一つであれだけ圧倒できるというのは、立ち合いの出すカードで勝敗が変わってくる、拮抗した実力があるのではないかなと思います」

そして、賜杯の行方は優勝決定戦へ。横綱同士の優勝決定戦は2009年秋場所の朝青龍―白鵬以来、なんと16年ぶりに実現した歴史的一番。

結果は、両者投げの打ち合いでもつれた末に僅差で大の里が寄り倒しで勝利。こちらもポイントは立ち合いにあったと親方は言う。

湊川親方:
「豊昇龍関が左上手を取りにいって、大の里関が得意の右四つでいっていれば、豊昇龍関はもっと簡単に上手が取れて投げも効いていたんじゃないかなと思う。しかし、大の里関は逆に決定戦は『もろ手突き』でいきましたよね。そのことによって少し『もろ手突き』がフィットしていないにも関わらず当たっているので、豊昇龍関の上手が深めになってしまった。そこで大の里関が圧力をかけて寄り倒したという一番だった」

優勝決定戦では、大の里が「もろ手突き」を選択。この作戦は思ったような効果を発揮しなかったが、これによって豊昇龍は左上手が思うような場所を掴めず、最後の投げの打ち合いで大の里の圧力がわずかに勝ったのだと親方は分析してくれた。

湊川親方:
「相撲スタイルが2人とも真逆。パワー、圧力の大の里関と柔らかさ、しなやかさ、バネで相撲を取る豊昇龍関。両極端のタイプの違う横綱。立ち合いの選択ですべてが変わるくらい拮抗していますし、大一番での選択肢の多さというのも横綱の凄さ。相撲は瞬間瞬間が勝負。一瞬の迷い、技の遅れで秋場所の優勝が変わった。その瞬間瞬間で勝敗が決まる。その辺も楽しみに相撲ファンには見ていただけたらより面白くなると思います」

この結果、先に横綱としての初優勝を飾ったのは大の里。優勝直後の千秋楽パーティーで、この先も長く続いていくであろう、豊昇龍とのライバル関係について聞いてみた。

大の里:
「歳も一個上で近い世代で、高校時代から向こうを追いかけていましたし、こういう形で秋場所が盛り上がったのはすごくよかったと思います。また何回も何回も2人で優勝争いをするシチュエーションを重ねれば、たくさん盛り上がって、たくさんのファンが見てくれると思うので、これからも負けないようにしっかり頑張りたい」

好調・大の里の意外な理由とは…

ライバルを一歩リードした大の里だが、今場所好調の理由が意外なところにあった。

2場所前の夏場所で優勝した時は、日本一美味しいラーメンショップとして名高い「ラーメンショップ牛久結束店」に足繁く通ったと話していた大の里。

今場所も勝負メシを聞いてみると…

大の里:
「今場所も行きました、ラーメンショップに。(並んでいてお客さんに気づかれました?)そのまま素通りでしたね。まだまだです。あと、今場所はサイゼリヤにめちゃくちゃ行きました。「エスカルゴ」とパスタ好きなんで「パスタ」と「ミラノ風ドリア」、あと「小エビのサラダ」とか。サイゼリヤは結構気づかれますね。「あぁ、横綱だ!」とか言われますよ」

と、今場所はサイゼリヤにも通っていた模様。

大の里:
「恥ずかしい気持ちもありますよ、「横綱がサイゼリヤかぁ」という気持ちもありますけど、美味いんですよね。サイゼリヤ、マジで好きです。店員さんが「また来たんか」みたいな顔してます。(九州場所はどうします?)サイゼリヤを探さないと・・・」

横綱ゆえの悩みと共に、意外と庶民派な一面も披露してくれた。

そして、来場所は一年納めの九州場所。今年3度の優勝を果たし、すでに年間最多勝を確定させている大の里が最後も強さを見せるのか。それとも、ライバルに先を越された豊昇龍が雪辱を果たすのか。

真の開幕を迎えた「大豊時代」、そのライバル関係は続いていく…

(9月30日放送「すぽると!」より)