石川県白山市に伝わるある伝統工芸品が次の世代に受け継がれることが決まった。山の暮らしと歴史を伝える工芸品の魅力とバトンをつなぐ人々の思いを取材した。
伝統と暮らしを物語る工芸品
秋の七草のひとつ、萩の花が優しく咲いている。古い町並みが残る白山市鶴来新町にある横町うらら館。200年前に建てられた商家を再利用している。ここではある伝統工芸品の体験ができる。ヒノキ細工だ。ヒノキ細工職人の香月久代さんがヒノキ笠を編む傍らにいるとヒノキのいい香りが感じられる。

出来上がったヒノキ笠をかぶってみると、思っていた以上に軽い。ヒノキ笠の価値は最近になって見直されているという。香月さんは「今年は猛暑だったがヒノキ笠をかぶると笠と頭の間に空間ができるので風が通って涼しく熱中症予防になる」と話す。

ヒノキならではの特徴もある。「日が当たると木が縮んで風が通る隙間ができる。雨が降ると水を含んで、雨を通さない」天気に応じて快適に使えるようにできている。
待望の後継者が見つかる
山の知恵がたくさん詰まっているヒノキ細工は福井県との境にある旧尾口村深瀬の冬の仕事として親から子へと受け継がれてきた。香月さんの生まれも深瀬で、母すよさんに仕事を教わったそうだ。

深瀬は1975年、手取ダムの建設で水没し、住民たちが伝統を守ってきたが、高齢化で受け継ぐのが難しくなっていた。香月さんは「深瀬の人がずっと守りつないできたものですから私たちの代で途絶えないようにつないでいきたい」と話す。

香月さんにはこの秋、うれしいことがあった。若い女性2人が事業を受け継ぐことが決まったのだ。鶴来商工会の仲立ちによって事業の継承が決まり、保存会も立ち上げられる見通しだ。体験会などの事業を受け継ぐ池田絵里香さんは「私は深瀬の近くの桑島の出身で昔からヒノキ細工の存在は知っていた。実際に作ってヒノキ笠に魅了されて、この美しさや良さを多くの人に広めたいと思っていたところ、香月先生からお話をいただいた」と話す。
ヒノキ笠を使った踊りも
檜細工保存会(準備中)代表の新田美佐さんは「私の嫁ぎ先の桑島には、ヒノキ笠を使って民謡を踊るハイヤという踊りがある。ヒノキ細工を守ることによって他の伝統や文化も守られるというつながりが大事だと思った」と話す。2人に桑島ハイヤを踊ってもらうと、一つ一つの仕草がとても美しかった。

「素晴らしい。ぜひ守ってほしい」と笑顔で踊りを見ていた香月さんは「若い人ですからどんどん世界まで広げていってほしい。ヒノキ細工は楽しいんだよって」と期待を込めた。ヒノキ細工の体験会は毎週水曜と土曜に開かれていて、材料費込みで料金は1000円からとなっている。予約先は白山市観光連盟で電話番号は076-259-5893。
(石川テレビ)