暑さが和らぐ今の時期に活動期のピークを迎える「蚊」。もしかしたら近い将来、福岡から姿を消すかもしれない。

世界で最も人の命を奪う生き物

「寝ているときにブーンという音が一番、頭にくる」(男性)。「刺されて痒いし、うっとうしい」(女性)。「私が住んでいるところが、山の中なので、常に蚊との戦いです」(女性)と多くの人が、蚊には悩まされているようすだ。

この記事の画像(15枚)

どこからともなく現れる厄介者の蚊。刺されると痒いだけではない。実は、毎年60万人以上が、蚊による感染症で命を落としていて、蚊は世界で最も人の命を奪う生き物とされている。

そんな“人類最大の敵”に立ち向かっているのが、虫取り網を手に野山を駆けまわる人物。九州大学農学研究院の藤田龍介博士なのだ。

害虫について研究する藤田博士が現在、取り組んでいるのが、その名も『蚊の撲滅作戦』なのだ。「僕らが住んでいるこの福岡県で、僕らを刺す蚊をできるだけ減らしたい。できれば撲滅に近づけたい」と意気込む。

「基本的に人とか動物、感染した人がいるとすると、血を吸ったときに血液中にいるウイルスが蚊に取り込まれて、次に吸血するときに血管の中に直接ウイルスが打ち込まれてしまう。リスクそのものは今、過去最高になっている状態です」と話す藤田博士。

福岡から蚊を撲滅するその最大の目的は「蚊による感染症」を防ぐことにあるのだ。

ついに始動!『蚊の撲滅作戦』

コロナ禍以降、人の往来が増える中、蚊を媒介した感染症が増加していて2025年は東南アジアを中心に中国やアメリカでも感染が拡大。

中でも発熱や発疹の症状が現れ重症化すれば死に至る危険のあるデング熱は、福岡県内でも8人の感染が報告されている。

藤田博士は「福岡市の大濠公園とか舞鶴公園とか。観光客が沢山いるところで、自然が豊かなところっていうのはとても蚊も多いし、外からくる人、いろんな人が集まって来るっていうので感染症が広がる起爆点になりやすい」と警鐘を鳴らす。

蚊による感染症への警戒感が強まる中で始動した『蚊の撲滅作戦』。福岡県や大手殺虫剤メーカーなど、複数の企業と連携し、九州大学が見出した方法の1つが、トラップ内で卵を産ませて、次世代が育たないようにさせるという方法だ。蚊を捕獲するトラップを仕掛けた水たまりを設置する。

蚊は本来、鉢植えの受け皿など小さい水たまりに卵を産みつけ、卵がふ化すると幼虫は水中で成長し1週間ほどで巣立つが「産卵する水たまりに網が張ってあって小さい卵(幼虫)は下に落ちるんだけど、中で産まれた蚊が上に上がってこようとすると、網に引っかかって出て来られない。これを街中に大量に設置しておくと子孫が増えない」(藤田博士)というもの。海外ではすでに導入されている仕掛けで、スペインのバレンシアでは約8割の蚊が減少したとの成果が報告されている。

生態系に問題はない。藤田博士は「実はやぶ蚊は都市化が進む中で増加した。元の状態に戻すという意味で、問題はない」という。鉢植えの受け皿の水や放置されたブルーシートに溜まった少量の水が発生源になっているためだ。

「天然の薬剤」特別なウイルス発見

福岡県は、2026年にも県営公園などでの試験運用を実施する方針だ。福岡県ワンヘルス総合推進課の山住雅之さんは「蚊が媒介する感染症というのは、県内でも発生患者が出ているので、いつ大規模な蔓延が起きてもおかしくない状況かなと思い、県としてできる限りの協力をしていきたい」と話す。

課題はコスト面。実際に設置するとなると、50メートル間隔で1つ。1つの小学校区内に500基程度。1基2000円とすれば100万円ほどかかる。

さらに藤田博士の地道な調査が実を結び、福岡・糸島市で捕獲した蚊の体内から「病原体に打ち勝つ」特別なウイルスが発見された。

藤田博士は「天然の薬剤。蚊同士で感染するウイルスなんですけど蚊の免疫を強くするウイルスなんですね。蚊が免疫強くなると蚊の中で病原体が増えないので感染が広がらない」と話す。

その“特別な蚊”を大量に解き放ち、免疫力を上げるウイルスを拡散することで病原体の伝染を防げる可能性があるというのだ。複数のアプローチを重ね、蚊による感染症から命を守る。

「突然、例えば自分の子どもが或る日、感染症にかかって亡くなってしまう。あるいは障害を負ってしまうっていうのは、もう本当に悲劇ですよね。そういう悲しい事故というかそういったものが起きない世界を作りたいという強い思いはあります」

「日本は他の国と比べて蚊の対策が遅いので、何か手を打たなくてはならない」。人類最強の敵に打ち勝つことはできるのか。藤田博士の挑戦は続く。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。