(3)人間によるアナログ手法のスキル可視化の限界
長年人事部を悩ませてきたスキルの可視化についてはアナログ手法で行うには限界がきていることも理由にあります。古くはエクセルでスキル表を作り、従業員にアンケート形式でスキル表に入力をしてもらい、回収し把握するという、膨大な時間と作業を伴うものでした。

そして急速なデジタル分野の成長により、新たなスキルが日々生まれ続けている中、それを正確に把握し続けることも事実上不可能になっています。

2023年4月に米国のノースイースタン大学が発表したレポート「UNDERSTANDING THE EMERGING SKILLSTECH LANDSCAPE」において、SkyHive社の創業者兼CEOであるショーン・ヒントン氏は、クラウドコンピューティング市場の例として「アーキテクチャの大規模な更新とスキル需要のシフトが平均4、5ヶ月ごとに起こっている。そして仕事の再定義が必要なペースは、年単位ではなく月単位になっている」と述べています。

人間では把握が追いつかない部分についてはAIを活用してスキルの可視化を可能とするスキルテックを活用すれば、大幅にスキル可視化にかける作業時間が減り、アップデートが簡単になるため、人事部が作業効率化のためにスキルテックを活用し始めているのです。

スキルテックが実現可能にすること

(1)スキルは組織変革に向けた「共通言語」に
AIによる大規模な変革が始まっている中、多くの組織では「将来どんな人材が必要なるだろうか」という答えの出ない問いを突きつけられているのではないかと思います。大事なことは、一旦「えいや!」と暫定で決め、修正しながら実行していくことかと思います。

その際に、全社の中での共通言語が必要になっているのです。どんな人材がこれから必要か、を決める時の目線合わせ、基盤となる情報と言い換えても良いかもしれません。

今まで一部の先進的な企業でスキル・タクソノミーのようなスキル分類を精緻(せいち)に管理しようという試みは継続的にありましたが、これからは外部人材市場と内部労働市場を一元管理し、充足すべき社内のポジションにいち早く投入し、事業を前進させていく必要があるので、全社共通の共通言語をスキルにする必要があるのです。

働き方が多様化すると「スキル」で評価する仕組みが大切に(画像:イメージ)
働き方が多様化すると「スキル」で評価する仕組みが大切に(画像:イメージ)

社内、社外の共通言語を「スキル」にする必要性の1つに、従来の働き方での共通言語では不都合が生じている点が挙げられます。

例えば、新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが全国で広がりました。出社している人、在宅勤務の人で人材評価が分かれるという話も出てきました。出社して苦労している従業員の方が「頑張っている」印象が強くなるのだそうです。

目の前で顔を突き合わせることによるバイアスがかかるわけです。成果やスキルレベルを評価しないこのような会社では、優秀な人材が辞めていきます。また、現在では地方在住でありながら、東京本社の仕事をリモートワークで実施している方なども増えてきました。

顔をお互いに突き合わせていない中、地域や性別、年齢などは仕事の成果を判断する上での共通言語に当然なりえません。そのため、あらゆる働き方をしている方の評価を行う上でのフェアな仕組み、それがスキルに基づく働き方になるのです。