脳の信号を、潔くタテに使うか、ヨコに使うか。この二者択一によって、私たち人類はとっさに、遠くの動くものに瞬時に照準が合う人と、近くのわずかな気配までものごとをキャッチする人とに分かれる。

日常は、美しい使命感で目標クリアに専念する人と、多次元気づきの才能を発揮して組織の混乱を防ぐ人によって成立している。

どちらが正しいとか正しくないとか、そういう問題ではない。どちらも生き残るために不可欠のセンスで、脳は、そのとき必要と直感したほうを起動する。

とっさの選択には、優先側がある

そして、ここが大事なこと。

多くの「とっさ」には迷っている暇がないので、脳は、あらかじめとっさの優先側を決めているのである。野球の外野手は、バットがボールに当たる瞬間には、既にタテ型回路を起動しているはず。ボールに当たってから回路を選んでいたら、間に合わないもの。

人はその場の役割で脳の優先側を決めている(画像:イメージ)
人はその場の役割で脳の優先側を決めている(画像:イメージ)

多くの場合、その場の役割で、脳の優先側が決まる。

私は46年間、社交ダンスを楽しんでいるけれど、私たち女性ダンサーは、ヨコ型回路が強く優先されているはず。だって、組んでいる男性の横隔膜の動きひとつで、身体を切り替えるタイミングを察知しているのだもの。社交ダンスは、あらかじめ振り付けの順番が決まっていないので、男性のリードを女性がフォローすることを基本としているからね。

赤ちゃんを抱いて面倒を見る者は、赤ちゃんの体調を察知するためにヨコ型回路を使う。餌をとって帰る必要がある者たちは、狩猟に長けたタテ型回路を優先することになる。太古の昔から、男女が生殖のペアとなったときには、女性がヨコ型、男性がタテ型となることが圧倒的に多かったはず。

そのためだと思う。脳には、特に役割に縛られないときに起動する「基本の優先側」があるのだが、それについては、女性の大半(私のコミュニケーション教育の現場での実感では9割以上)がヨコ型、男性の大半がタテ型である。

誰もが、家族や友人とのフランクな付き合いでは、自然と基本の優先側を使うことが多い。

先ほど例に挙げたように、ふとトイレに立つときとか。あるいは逆に、激しいストレスにさらされたときに、基本の優先側が起動することもある。

『対話のトリセツ』(講談社+α新書)

黒川伊保子
人工知能研究の立場から、脳を機能分析してきたシステムエンジニア。脳のとっさの動きを把握することで、人の気分を読み解くスペシャリスト(感性アナリスト)。コンピュータメーカーにてAI開発に携わり、男女の感性の違いや、ことばの発音が脳にもたらす効果に気づき、コミュニケーション・サイエンスの新領域を拓く。『妻のトリセツ』(講談社+α新書)をはじめとするトリセツシリーズは累計で100万部を超える。

黒川伊保子
黒川伊保子

1959年、長野県生まれ、栃木県育ち。1983年奈良女子大学理学部物理学科卒。人工知能研究の立場から、脳を機能分析してきたシステムエンジニア。脳のとっさの動きを把握することで、人の気分を読み解くスペシャリスト(感性アナリスト)である。コンピュータメーカーにてAI開発に携わり、男女の感性の違いや、ことばの発音が脳にもたらす効果に気づき、コミュニケーション・サイエンスの新領域を拓く。2003年、(株)感性リサーチを設立、脳科学の知見をマーケティングに活かすコンサルタントとして現在に至る。特に、男女脳論とネーミングの領域では異色の存在となり、大塚製薬のSOYJOYをはじめ多くの商品名に貢献。人間関係のイライラやモヤモヤに“目からウロコ”の解決策をもたらす著作も多く、『妻のリセツ』(講談社+α新書)をはじめとするトリセツシリーズは累計で100万部を超える人気