日本有数のホップ産地・岩手県遠野市。近年の農家減少を背景に、「ホップの里からビールの里へ」を合言葉に地産地消の取り組みが始まった。駅前にオープンした醸造所「GOOD HOPS」は、地元産ホップの可能性を最大限に引き出す独自製法で、訪れる人々を魅了している。
遠野産ホップの新たな挑戦
岩手県遠野市は国内有数のホップ生産地として知られているが、近年は高齢化と後継者不足により農家の減少に苦しんでいる。
市内のホップ栽培面積は1980年代のピーク時と比べて約7分の1にまで減少した。

こうした状況を打開するため、2025年5月17日、JR遠野駅のすぐそばに新しいビールの醸造所「GOOD HOPS」がオープンした。
主に遠野産のホップを使用したオリジナルのクラフトビールを製造し、その場で味わえる飲食スペースも併設されている。

来店客からは「遠野に来たなって感じがする。香りがあって」「ホップの香りやちょっとした苦みとか、すごく感じられるビールが多い」などの声が聞かれた。

GOOD HOPS代表の田村淳一さんは「ホップや香りにこだわって造ったものが、お客さんにしっかり伝わってすごくうれしい」と手応えを語る。
田村さんがこの醸造所を立ち上げた理由は、遠野のホップ栽培を守るためだった。
ホップの地産地消で未来を拓く
ビールの原料のひとつで、その特有の香りと苦みのもととなるホップは、そのほとんどは海外からの輸入に頼っている現状がある。
盆地で冷涼な気候がホップの生育に適している遠野市では、60年以上前から栽培が始まり、現在は日本一の栽培面積を誇る。

遠野市では「ホップの里からビールの里へ」という合言葉として、地元のホップを使ったビールを生産し、市内での消費を進めることで、ホップ栽培を持続可能な産業にしていこうというプロジェクトに取り組んでいる。

そのプロジェクトのプロデューサーを務めているのが「GOOD HOPS」の田村代表だ。
田村代表は「私たちは日本産ホップの可能性を広げるため、その付加価値を高めるようなビールを造っていきたい」と意気込みを語る。
独自の加工法で“香り8倍”
醸造の責任者を務める村上敦司さんは紫波町出身で、大手ビール会社で長年ホップの研究に携わってきた経験の持ち主だ。

遠野産のホップを使ったヒット商品も手掛けてきた村上さんは、ビール会社を早期退職した後、活動の拠点を遠野に移し、ホップの栽培やクラフトビールの醸造をサポートしている。
「世界的にも初めてのホップの加工方法と、我々独自の品種開発をしている」と村上さんは話す。

通常、収穫されたホップは長期保存のために約60度の熱風で乾燥させるが、この方法では水分と一緒にホップ本来の香りまで飛んでしまい、熱で成分が損なわれてしまう。
そこでGOOD HOPSでは熱風を使わずに自然乾燥させる方法を考案。さらにホップの香りや苦みの素となる黄色い粒「ルプリン」だけを取り出すことで、一般的なホップと比べて8倍の香りの強度を実現した。

村上さんは「この新しい加工方法は、ビール造りをする上で我々の選択肢が広がる。今までにないビールを造り出せる可能性が高い」と期待を込める。
初仕込みから2週間「感慨深い」瞬間
初仕込みから約2週間後、最初に仕込んだビールが完成した。使われたホップは、クラフトビールの中では代表的な「カスケード」という品種で、もちろん遠野で栽培されたものだ。
この日はGOOD HOPSのスタッフみんなで集まり、その味を確かめた。

田村代表は「味自体も香り自体もすごくおいしいビールに仕上がっていると思うが、それ以上にこの取り組みを始めて3、4年経てできたビールということに、ものすごい感慨深く感じながら飲んだ」と感慨深げに語った。

醸造責任者の村上さんも「ただ『おいしい』ではなく『ええっおいしい』というのを目指してきた。その『ええっ』という声がたくさん聞こえてきたので、すごく満足」と手応えを感じている様子だった。
地域とともに育むホップ文化
醸造所のオープン当日、GOOD HOPSには大勢のビールファンが訪れた。
この日は遠野産のホップが使われた5種類のビールが提供され、GOOD HOPSが開発したホップの新品種「アンカウンタブル」を使ったビールも初お目見えした。

訪れた人たちは「全部おいしくいただきました。特徴があるビール」「だれが飲んでもおいしいと思うような、そんな感じのビールの気がする」とそれぞれのビールを飲み比べながら、その香りと味に文字通り酔いしれていた。

来店客の中には、大阪から遠野市に移住してホップ農家になった人の姿もあった。「おいしいですね。ホップの香りが、かーっと広がってくるのが最高。栽培と加工に関わっているので、感慨深くて、ビールになってうれしさがある」と語る姿からは、ホップ栽培に携わる喜びが伝わってくる。

田村代表は来店客の反応に手応えを感じている。「実際にお客さんに飲んでいただき、色々なうれしい感想を頂けてすごくよかった。日本産ホップでも遠野産ホップでも、こんなにおいしいんだと、感動していただけるようなビールを造って皆さんを驚かせていきたい」と今後の展望を語った。

「ホップの里からビールの里へ」-遠野のホップ栽培を守るためにGOOD HOPSのビールが未来を切り開く挑戦は始まったばかりだ。
(岩手めんこいテレビ)