10月7日に始まる長崎市諏訪神社の大祭「長崎くんち」。2025年に出演する踊町(おどりちょう)の一つ「新大工町」は、詩舞と曳壇尻(ひきだんじり)を奉納する。 10年ぶりの奉納は根曳(ねびき)全員が初参加。町の伝統を守るための挑戦が始まっている。
町の誇り「曳壇尻」屋根飾りには大工の神様
荒々しい掛け声の中、重さ3tの壇尻を豪快に引き回す新大工町の「曳壇尻」。

白采(しろざい)が全体を取りまとめ、4人の添采(そえざい)が根曳(ねびき)に指示を伝える。目指すは、大工の町にふさわしい「見ている人を感動させる、粋で力強い曳き回し」だ。

1641年、「大工」が住む「新」たな「町」として作られた「新大工町」。壇尻には大工の技を示す細工や意匠が凝らされ、屋根飾りに配された白い鹿と鳥居は、大工の神として知られる奈良県の春日大社を示している。壇尻を奉納するのは新大工町が唯一。町の誇りだ。
町の再開発…根曳全員が初参加
現在、町は昔ながらの市場や店は残しつつ、大規模なマンションが建設されるなど再開発が進んだ。

10年前と比べて200世帯増加したが、新しい住民にはくんち文化が浸透しておらず、参加者がなかなか集まらなかった。

2025年は根曳20人全員が初挑戦。しかも半数以上が新大工町以外からの参加となった。

白采の児島正吾さんは「20人全員初参加というのは町として恥ずかしいこと。しかしここから町の歴史を引き継いで、100年、200年続けていくんだという思いでやっている」と語った。
根曳たちをつなぐ副頭・大﨑優希さん
初参加の根曳たちをどうまとめるか。根曳副頭の大﨑優希さんは、根曳同士の「対話」を大切にしている。

気づいたことがあればその場で意見を出し合う。

稽古の後、根曳たちは、白采の児島さんが営む町内のうどん店に集まった。

大﨑さんは「上下関係をしっかりしないといけない部分があるが、初参加者から不満が出ることもある。そこを前向いてやっていこうと気持ちを高める意味もあって集まっている」と話す。稽古後も根曳たち一人一人の思いをくみ取り、全員をまとめている。

根曳たちにとって大﨑さんは頼りになる兄貴分的存在だ。
「大学進学で長崎に来てくんちをあまり知らない中、優希さんが色々教えてくれた」「初対面の人ばかりで馴染みにくいところをフォローしてくれてすごく助かっている」と、根曳たちは口々に話す。
幼い頃からの憧れを叶えた「根曳」
人一倍くんちへの思いが強い大﨑さんの原点は、17年前に囃子でくんちに出演した経験にあった。

町内の不動産屋を父親から継いだ大﨑さんは、幼い頃からくんちを間近で見て育ち、根曳は長年の憧れだった。

「短期間で全てを完成させるこの時の過ごし方がすごく楽しくて、将来絶対根曳になろうと思い描いて、今年ようやく実現した」と笑顔で語る。

運命の巡り合わせか、かつて根曳の真似をして曳いたポジションを、いま担当している。
大﨑さんは現在、根曳副頭で、町の商店街の事務局長を務める。子供から大人まで関わるくんちを通して、町をまとめていきたいと考えている。

「稽古が終わった後飲みに行ったら飲食店の利益が回り、着物を買ったら呉服屋さんが儲かるなど、くんちを通して町の経済が回る。寂れてほしくないし、伝統を引き継いでるっていうプライドを持ってやっている」と、町への思いを語った。
本番へ向けて高まる一体感
新大工町は「町内総参加」を掲げ、女性陣の詩舞(しぶ)から始まる。

明治時代に剣舞(けんぶ)を奉納していた歴史を受け、10人の舞人(まいびと)が扇を手に凛々しくも美しい所作で群舞(ぐんぶ)を披露する。

優雅な舞に続いて登場するのが豪快な曳壇尻だ。長さ4m、幅1.7m、重さ3tの壇尻を引き回すのは容易ではない。囃子が刻む拍子に根曳がどう合わせるか、課題は「根曳と囃子の一体感」だ。

本番の約1ヶ月前。声の大きさも一段と増し、根曳と囃子の息が合ってきた。

仕上がりが高まってきたため、町自慢の大技「5回転半」の稽古も始まった。町全体がまとまり、奉納踊りが完成形に近づいていく。

大﨑さんは「うまくいくことは確信している。ここを”感動”レベルまで引き上げて一体感を出したい。僕たちの仲間なら絶対大丈夫」と、自信を持って語る。

町の歴史を描き、繁栄を願う新大工町の詩舞と曳壇尻。この10年で町の風景は大きく変貌したが、受け継がれてきた奉納への思いは変わらない。全員が一体となって伝統を未来へと繋いでいく姿に、町の底力を感じずにはいられない。
2025年 長崎くんちの踊町
2025年の長崎くんちは、6つの踊町が奉納する。

新橋町「本踊・阿蘭陀万歳」
諏訪町「龍踊」
新大工町「詩舞・曳壇尻」
榎津町「川船」
西古川町「櫓太鼓・本踊」
賑町「大漁万祝恵美須船」
長崎くんちは10月7日から9日の3日間、諏訪神社で行われる。
(テレビ長崎)