食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「黒酢酢豚」。東京・西荻窪にある創作中華料理の店「スタンドキッチンルポン」を訪れ、まろやかな黒酢あんが香ばしい衣と豚肉の旨みを引き立てる一品を紹介。
対照的なオーナーと料理長の愛される店づくりにも迫る。
お酒×創作中華料理が西荻窪に
植野さんがやってきたのはJR中央線・西荻窪駅。「にしおぎ」と略して呼ばれることもあるこの町は駅の南北に商店街が発展し、生活するのにとても便利な場所。
かつての闇市の風情が残る通りなど個性的なお店やスポットも多く、中央線を代表する街の一つとしても知られている。
その西荻窪にあるのが、創作中華料理の店「スタンドキッチンルポン」。
カウンターとテーブルで26席ほど、黄色をアクセントにしたスタイリッシュな店内だ。

オーナー・鈴木秀輔さんがルポンを開いた最初の理由は「中華料理とお酒を合わせて楽しんで欲しい」から。ここでしか飲めない自家製レモンサワーもその思いからだった。
そして、厨房で腕を振るうのが料理長・井村翔悟さん。オーナーが井村さんの料理にほれ込んだのがルポンを開いた2つ目の理由。

井村さんは中華の伝統を守りつつ、独自の工夫を加えたメニューを生み出す。台湾の屋台料理「胡椒餅(こしょうもち)」をパイ生地で包んで洋風に仕上げた「胡椒餅のパイ包み」や半熟目玉焼きのトロミが溶け合う「焦がしネギの中華和えそば」など、多彩なメニューがある。
そんな店名にある「ルポン」はフランス語で「架け橋」の意味。人と人・料理と人をつなぐ架け橋になりたい、そんな意味が込められているという。
行動力×大黒柱が合わさり良き相棒に
2人が出会ったのは、沖縄料理のお店とのこと。
鈴木さんは、「もともとここは沖縄料理の店で、オーナーさんと仲が良くて、ある日急に料理がすごく美味しくなったんです。(その理由が)彼でした。料理にほれて“ヤバいな、こいつ”と思って」と振り返る。

愛知県出身の鈴木さんは大学卒業後、飲食の道に進むために料理の修業へ。2016年、最初のお店「ビストロキッチンルポン」を開店すると、早くからレモンサワーに目をつけ自家製のものを考案する。
料理も美味しいと評判になり、翌年2店舗目として小さな立ち飲み屋もスタート。これが月に売り上げ170万円を越えるほど大繁盛する。
そこで鈴木さんは手狭になった立ち飲み店を閉め、新たな店を始めようと考え声をかけたのが、北海道出身の有名中華料理店で腕を磨いた井村さんだった。料理長になって欲しいと頼み込み、2人は2023年「スタンドキッチンルポン」を開店した。

井村さんは、営業中でも空いた時間ができれば次々と仕込みをこなす。そんな彼のことを鈴木さんは「人としてほれている大黒柱感があること。同い年ですが、どしっと構えている感じがある」と全幅の信頼をおく。
一方、井村さんは鈴木さんのことを「行動力がスゴイ。思い立ったことをすぐ行動に移すタイプで」と尊敬していた。
大黒柱の安定感と勢いのある行動力。対照的な2人だからこそ、よき相棒になっているのだろう。

本日のお目当て、スタンドキッチンルポンの「黒酢酢豚」。
一口食べた植野さんは「衣はサクサク、豚肉は意外とサッパリ、黒酢あんでサクサクとふわふわをまとめている」と感激していた。
スタンドキッチンルポン「黒酢酢豚」のレシピを紹介する。