森を追われて山の上にたどり着いたのがオコジョ、水辺に移動したのがミンク。森の奥で冬眠するようになったのがアナグマ。そして、川辺へと移動したカワウソの仲間が増えたことで、海へと移ったのがラッコになる。

毛深くなって生き残った

こうして、北太平洋のカリフォルニア沖などで暮らすようになったラッコ。生き延びていくためにさまざまな進化を遂げることになる。

その一つが「毛」だ。

「寒いところで生き抜いていくうちに、毛深いラッコだけが生き残りました。生き残った毛深いラッコの遺伝子を受け継ぐとさらに、毛深いラッコが生まれて…と続いていくうちに、環境に適応した今のラッコの姿になったのです」

『おいでよ!ラッコ沼への招待状』の監修を務めた動物学者の今泉忠明さん
『おいでよ!ラッコ沼への招待状』の監修を務めた動物学者の今泉忠明さん

「地球上でもっとも毛深い生きもの」といわれるラッコの体全体の毛の数は約8億本。人間の髪の毛は約10万本、つまり1頭のラッコで約8000人分の髪の毛と同じ数の毛が生えているといわれている。

「1センチ平方メートルの範囲で10万~15万本という隙間のない毛の密度は動物界の中でもスゴイ。毛によって冷たい水と肌の間に空気の層ができるため、体が冷えません。他の動物は皮下脂肪で体温を保ちますが、イタチ科は毛皮でそれをしている。そこが不思議なところ」

「おそらく、かなりのスピードで長距離を泳ぐものは、毛が泳ぐときの抵抗となるので厚い脂肪で体表が滑らかなものが進化したのでしょう。頻繁に陸に上がるホッキョクグマは体毛と脂肪で保温しています」

厳しい環境に適応して毛が発達したラッコ。

そのため「ずっと毛づくろい(グルーミング)をしています。古い毛などを掻き出してきれいにするだけでなく、毛と毛の間に空気を送り込んでいるのです」と今泉さん。

1日に5~8時間も行うという毛づくろい。もしやらなければ、毛の間に空気がためられず冷たい水が皮膚に触れて体が冷えてしまい、死につながるのである。