食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「生のりのポテトサラダ」。
東京・墨田区小村井にある人気酒場「二毛作&」を訪れ、ホクホクの新じゃがに新玉ねぎ、生のりの香りと食感を加えるだけの一味違う一品を紹介。酒飲みにとっての聖地とされる立石にある1号店との違いにも迫る。
小村井は下町情緒あふれる静かな町
東京墨田区小村井駅にある「二毛作&」。JR亀戸駅から伸びる東武亀戸線に乗って3つ目の駅が「小村井」だ。

浅草の東側に位置し、隅田川と荒川に挟まれた一帯で、室町時代の文献には「入江に面した小さな村」という意味の「小村江」と記されていたという。
東京スカイツリーのお膝元で下町情緒があふれる静かな町だ。

すると植野さんは、「関係ないけど小村井に飯と書いて、“オムライス”ってメニューを出している洋食屋さんがあるらしいですよ」と話す。
それが小村井駅から徒歩2分の場所にある「キッチンカメヤ洋食館」の「小村井飯(オムライス)」。地方から訪れる人も増え、小村井の知名度アップに一役買っているそう。
立石の名物酒場で5年働いた店長の2号店
小村井駅から徒歩8分、明治通り沿いにお店を構えるのが「二毛作&」。
ここから荒川を挟んだ葛飾区立石にあるのが二毛作本店。

本店のある立石は、終戦後すぐに闇市が生まれ、酒場や商店が立ち並んだ華やかな街。その面影は今も残り、酒飲みの聖地として飲んべえたちに愛されている。
再開発によって町の風景も変わる中、いまだその姿をとどめるのが「二毛作」。2015年に、店主の日髙寿博さんが開店し、洋酒やワインと一緒におでんが楽しめる店として、女性客でも気軽に来られる人気店となった。

そんな「二毛作」で初めての2号店となるのが、小村井にある「二毛作&」。本店の賑やかな雰囲気に比べるとこちらは落ち着いた空間。

本店で5年間働いた藤田美紀さんが、店長を任されている。ここでも本店と変わらない味のおでんや一品料理の数々もあったり、藤田さん考案の「&」でしか食べられないメニューもあるという。
斬新だったウイスキー×おでん
葛飾区立石で評判の「二毛作」。
実は店主日髙さんの実家は、立石の仲見世商店街にある「丸忠蒲鉾店」。持ち帰り用のおでんが店の看板なのだそう。

「もともとおでん屋の息子だったんですけど、実家の仕事が嫌で。でも就職活動も上手くいかず、このままだとまずいと世界一周に…」と日髙さん。
海外で一年間生活したのち帰国した日髙さんは、父親の体調が良くなかったこともあり、結局実家を手伝うことになる。

ただ、「給料がもらえないのはわかっていました。だったら夜お店終わった後に、『うちのおでんで飲んでもらいたい』という思いがあってスタートしました」と経緯を語る。
それから日髙さんは隣の空いたスペースで、店のおでんが食べられるバーを始めた。昼夜ともに、同じおでんで商売をしたところから「二毛作」という店名に。
その「二毛作」が斬新だったのは、おでんといえばビールや日本酒の時代に、ウイスキーを合わせたことだ。
日髙さんは「ウイスキーが好きだったので、モルトとおでん面白いなと。ラフロイグやマッカランも謎に合った店です。スタートは」と話した。
客として訪れて…5年後には店長
2015年3月に現在の場所へ移転し、より幅広い客層が集まる店になった。
2号店の店主・藤田さんが「二毛作」で働き始めたのは今から5年前。客として訪れた時に見かけたアルバイト募集の張り紙がきっかけだったという。

植野さんが「店長と決まった時はどう思いましたか?」と尋ねると、藤田さんは「やりたいです」と前向きな返事をしたと語る。そして、日髙さんも「彼女がやってくれるって言ってくれなかったら、実現していなかった。やっぱり“人”ですから」と答える。
それでも藤田さんは開店までの道のりは「めちゃくちゃ大変でした。新参者なのですでにある飲食店の方に“仲間に入れて下さい”っていう思いでコツコツと」と振り返る。

本日のお目当ては、二毛作&の「生のりのポテトサラダ」。
一口食べた植野さんは「新玉ねぎと海苔の香りがふわっと浮き立つ、あえ物に近いような鮮烈な感じ」と感動していた。
二毛作&の「生のりのポテトサラダ」のレシピを紹介する。