教員の働き方改革や少子化などを背景に中学校の部活動を地域のクラブに移行させる取り組み、部活動の「地域移行」。長野県教育委員会は2026年度までに休日の活動を完全に移行させる方針だ。ただ、指導者不足や財源の確保の課題などもあり、特に文化系ではなかなか進んでいない。その中、2024年11月に県内で先駆け的に移行した富士見町と原村の合唱クラブでは新たに演奏会も企画された。熱意のある指導者の存在が大きく、生徒のやる気も高まっている。
「合唱クラブ」が発足
ホールに響く美しい歌声。
茅野市で開かれた演奏会で歌っているのは、富士見町の富士見中学校の生徒と原村の原中学校の生徒でつくる「富士見・原合唱クラブ」。3カ月間一緒に活動してきた成果を発表した。

生徒は「地域移行をして、コンサートできる場所が前よりも増えて、いろいろな場所で歌えるということがとても楽しい」と話した。
3月20日の春分の日、午前9時前に生徒たちが音楽室に集まって来た。

合唱クラブは2024年11月、富士見町と原村が進めた「部活動の地域移行」を受け発足した。富士見中学校6人、原中学校1人の1・2年生合わせて7人で活動している。
この日は3年生なども練習に参加した。
県内では先駆け的な取り組み
練習前に「定期演奏会前、しっかり歌える練習は最後なのでいい練習をしましょう」と生徒に声をかけたのは、指導者の富士見町在住の根本崇史さん(39)。富士見町を中心に音楽教室や演奏活動を行っている。
5年ほど前から合唱部の外部指導者としてボランティアで指導していたが、正式に指導者となった。

根本さんは地域移行のメリットについて「私が責任をもってクラブの方向性とか、練習の内容を見ていくことになって、私と子どもたち、親御さんの中で、部活でやっていた頃よりも意思の疎通がスムーズになった」と話す。
生徒にも大きなメリット
県教委によると、これまでのところ文化系の部活で地域移行したのは長野市、松本市、千曲市と坂城町、南佐久地域、そして富士見町と原村のみ。
「合唱クラブ」は県内でも先駆け的な取り組みだ。

生徒にも大きなメリットがある。
原中学校1年生・長田葵さんの通う学校には合唱部がなく、「富士見(中学校)と一緒にやるとなった時に、めっちゃうれしかった。友達とも仲良くなれたし、歌うのも楽しい」と話した。

練習日は平日2日、休日1日で、長田さんはほぼ毎回、富士見中に通い、仲間とも打ち解けている。
この日は2日後の演奏会で披露する予定の「カイト」など3時間ほど練習。初めて大きなホールで歌声を披露する場で、練習にも熱が入る。
富士見・原 合唱クラブ 指導者・根本崇史さんも「(最後の音は)下に落とさないで、カイトなので高く飛んでいくカイトのように」と熱心に指導した。

1年生は「聴いてくれた人が幸せな気持ちで帰ってもらえる演奏会にしたい」と抱負を述べ、原中学校1年生・長田葵さんも「全力で楽しみたいです」と話した。
地域移行の「成功例」
演奏会当日。
根本さんが「あとは楽しむだけ。1年間頑張ってきたことをたくさん表現してください」と生徒に声をかけた。
そして本番。
3年生などと共に「夢の世界を」などを披露し、約2時間、ホールいっぱいに歌声を響かせた。

実はこの演奏会も地域移行のメリットの一つで、学校の枠から外れたことで、イベントなども企画しやすくなった。今回も根本さんが知り合いの企業などに声を掛け、費用などを支援してもらい実現した。
観客は「とても素晴らしかったです、本当に。感動しました」「学校を超えて、本当だったら会わない友達と仲間になってできるというのは、(地域移行の)違う良さかな」と話した。
歌声を披露した富士見中の2年生は「みんなで一緒にできてすごく楽しかったし、1人1人が努力していい演奏会にできて良かった」と話した。
原中学校1年生・長田葵さんは「ソロ、緊張したけどニコニコで歌えた。今までで一番上手にできた気がするので良かった。ホールとかでたくさん歌って、活動が広まっていけたらな」とこれからの活動にも期待を寄せた。
部活動の時よりも生徒のやる気が増した「富士見・原合唱クラブ」。地域移行の「成功例」と言える。

大きかったのは指導者の存在だ。熱意と専門的な知識がある根本さんがいたことで、比較的スムーズに移行できた。
指導者の確保、財源確保が課題
しかし、多くの市町村では指導者の確保が大きな課題となっている。
長野県教委は2024年、指導者とクラブのマッチング制度を始めた。希望者が指導できる分野や活動地域、時間などを登録。各地域のクラブなどが登録者のリストを確認し個別に連絡することができる。

2月末の時点で登録者は281人。これまでに1件マッチングしたという。
また、指導者への謝礼や移動のための交通費などは基本、クラブや市町村がまかなう必要がある。保護者の負担が増す可能性もあり、財源確保も課題の一つだ。
県教委などは県独自のふるさと納税サイトを通じて、全国から寄付を募ることも検討している。
地域にあった移行を
県教委は2026年度までに休日の活動については完全に移行させる方針だ。

根本さんは学校、地域住民、行政がさらに議論を深め、その地域にあった移行を目指すべきだといい、「誰もが快く指導に関われる、子どもたちも前向きにクラブに参加できる仕組み、新しい形をつくっていく必要があると思っています。現場の人間、行政の方、学校の教育のノウハウ、そういうことをお互いにシェアして、みんなで一つの仕組み、新しい形をつくっていくというのが大事な課題じゃないかな」と話した。
(長野放送)