公立の中学校・高校では多くの教師が部活動の顧問を務め、指導に当たっているが、現状に一部の教師が異議を唱えた。「望まない顧問を強いるべきではない」と組合を結成したのだ。その一方で、顧問となって熱心に指導する教師もいる。

やりがいある 子どもの成長みられる

冬場も体育館で練習に励む長野県安曇野市の穂高西中学校ソフトテニス部。 

 「もっと前でしっかり構えて、体の前で、1歩2歩動かなきゃだめだよ」と、声を張り上げて指導するのは、月岡優介教諭(33)。赴任以来、6年にわたって「顧問」をしている。 

月岡教諭は、 「子どもたちの悔しい表情だとか、でも、やり切ったぞという満足感とか、一番は子どもたちの成長が見られる姿がやりがいに感じています」と話す。

穂高西中学校のソフトテニス部
穂高西中学校のソフトテニス部
この記事の画像(17枚)

一方、生徒たちは、 「いい先生です、指導がうまい先生」、「すごく厳しいけど、具体的に技術面を教えてくれてとてもありがたいし、優しい先生」と話す。

長野県教委によると、現在、中学校で8割、高校で7割近く(※2023年5月現在)の教師が「顧問」となって、部活動を支えている。

穂高西中学校ソフトテニス部の顧問・月岡優介教諭(33)
穂高西中学校ソフトテニス部の顧問・月岡優介教諭(33)

顧問強制やめて…負担でしかない

この現状に一石を投じた教師たちがいる。 

2月、教師の有志が「長野県の部活動を考える組合」を結成した。

記者会見で組合の青木哲也代表は、「望まない教員が部活動顧問を強いられない環境を整える、ワンイシューの職員集団」と訴えた。

青木哲也代表(中央)
青木哲也代表(中央)

部活動の顧問は、土日も大会などに出なければならず、「長時間労働の原因」となっており、望まない顧問を強いることがないよう県教委などに改善を求めていくとしている。

青木代表は、 「(大会で)日曜日、炎天下で審判をやっている。授業を自習にして平日出張して駐車場係をやっている。おれ何やっているんだろうという思いをしている教員は多いと思う」と話した。

長野県の部活動を考える組合の会見(2月15日 長野県庁)
長野県の部活動を考える組合の会見(2月15日 長野県庁)

中信地区の高校に勤務する斉藤淳一教諭(41)。 組合に参加した一人だ。

斉藤教諭は、 「(顧問は)負担以外何ものでもない。申し訳ないですけど、授業準備しないで授業したこともありますので、支障は出てくるんですよね、どうしたって」と話す。

顧問は大抵、教師本人の希望を聞いた上で割り振られるが、不本意であっても務めるのが当たり前という雰囲気があったという。 

斉藤淳一教諭
斉藤淳一教諭

結果、斉藤教諭はこれまでさまざな顧問を経験してきた。 

斉藤教諭は、 「野球部の部長であったり、男子バスケ部、男子バレー部、陸上部、バドミントン部。『なんで自分がこれをやっているんだろうな』というのはすごくあって、望まない教員が指導することは、教員側も生徒側も、ある意味不幸になってしまう」と、部活動の顧問は強いられるべきではないという考えだ。

斉藤教諭の妻は「土日も部活に行っちゃったりして、子どもずっと見ていなきゃいけなかったり、帰りも何時になるか読めないことも多くて、結構つらかった。夫は悪くないんですけど、いらいらしちゃいますよね」と話す。

運動部顧問時代 提供:斉藤教諭
運動部顧問時代 提供:斉藤教諭

教員の犠牲の上に成り立っている

公立学校の教師は勤務時間が単純でないため、いわゆる「残業代」の代わりに「調整額」が支給されている。

しかし、部活動が長引けば「ただ働き」の時間が増える。休日は、長野県の場合3時間を超えると2700円の手当がつくがー。 

斉藤教諭は、 「いくら積まれても土日は休みたいですかね」と話す。

教師になって16年。「これ以上、不本意な顧問はしたくない」と、4年前、学校側に「土日は出ない」とはっきり伝え、今は文科系の部活の顧問をしている。

斉藤教諭は、 「今は決して持続可能ではなく、教員の犠牲の上に成り立っている制度だと思うので、そこは是正していきたい」と訴える。

資料 
資料 

自身の経験を子どもたちに伝えたい

一方、冒頭で紹介した穂高西中の月岡教諭は、「部活動顧問の一番の魅力、(子どもたちの)3年間の成長だと思います」と話す。

ソフトテニスでインターハイにも出場したことがある月岡教諭。 勉強を教えるだけでなく自身が部活や競技で得た経験も子どもたちに伝えたいと教師になった。 

月岡優介教諭
月岡優介教諭

月岡教諭は、「自分が経験してきたことを子どもたちのために還元させたい。(顧問を)やりたい人もいて、指導したいと強い思いを抱きながらやっている方々もいる」と話す。

大会などで土日がつぶれプライベートな時間は削られてしまうが、月岡教諭は、「自分が指導できる競技を主体的にやれているので苦には感じない」と、やりがいを感じている。

インターハイ出場 提供:月岡教諭
インターハイ出場 提供:月岡教諭

部活動の曖昧な位置づけが問題の背景

顧問を「やりたい教師」と「やりたくない教師」。 

学校教育に詳しい名古屋大学の内田良教授は、部活動の曖昧な位置づけが問題の背景にあると指摘する。 

内田教授は、 「部活動というのはさまざまな教育的効果がある。だからこそ大事だと考えているうちに、もはや学校でやって当たり前のものになってしまった。ところがほぼただ働きで担わされてきた。そこに対価が支払われないことで非常に先生方の大きな負担だった」と話す。

名古屋大学・内田良教授
名古屋大学・内田良教授

部活動は国の学校指導要領に「学校教育の一環」と明記され、「学習意欲の向上や責任感、連帯感を養うことに役立つ」とされている。

一方で、各校が定める教育計画では「教育課程外」つまり、「範囲外」と記されていて通常の授業と区別され厳密に言えば、教師本来の業務ではない。

資料 
資料 

さらに、採用や人事はあくまで「教科」が中心。部活動の顧問を割り振るとどうしてもミスマッチや過大な負担が生じてしまう。 

こうした現状に照らせば顧問を「やりたい教師」、「やりたくない教師」、どちらも否定されるものではないと言える。

資料 
資料 

長野県教委の内堀繁利教育長は、「部活動指導員や外部指導者を任用できるシステムを構築したりして、やってきている。これからも図らないといけない。対応策については研究していきたい」と述べた。

長野県教委・内堀繁利教育長
長野県教委・内堀繁利教育長

鍵握るのは「地域移行」と「希望制」

部活動の主役は子どもたち。 顧問がいなくなっては部活動をしたい子どもたちが置き去りにされてしまう。 

そこで注目されるのが、少子化への対応と教師の負担軽減を目的に導入された部活動の「地域移行」だ。 

まず中学校で部活動の主体を学校から地域の団体などに移そうとスタートした。 しかし、指導者の確保などが課題となっていて進み具合は地域によって差がある。

部活動の地域移行
部活動の地域移行

内田教授は、 「地域移行は本当に必要性だけははっきりしている。ところが人もお金もないという中でなかなか進まない状況。これはどの自治体でも今非常に地域移行が難しいという課題に直面しています」と話す。

部活動の地域移行
部活動の地域移行

持続可能な部活動には何が必要かー。

内田教授は「地域移行」だけでなく教師の負担が大きかった「顧問」に注目し、する・しないを選べる「希望制」を実現すべきだとしている。 

内田教授は、 「今までは教員のただ働きで何とかやってきた。誰かの犠牲によって活動が維持されるのは、全く持続可能性がない。部活動はそもそも自主的な活動であり、やりたい人がやるべき活動。やりたい人がやれる仕組み、誰にとっても希望性にしていくべき」と指摘する。

穂高西中学校のソフトテニス部
穂高西中学校のソフトテニス部

(長野放送)

長野放送
長野放送

長野の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。