ロシアによるウクライナ侵攻はまもなく開始から3年を迎える。「BSフジLIVE プライムニュース」では専門家をゲストに迎え、なおも激戦が続く最新戦況から今後の停戦に向けた道筋までを詳細に分析した。
ウクライナ人同士を戦わせるロシアの非人道的行為
竹俣紅キャスター:
ドネツク州全域の占領を目指すロシア軍はバフムトにおける激戦を制し、その後も支配地域を拡大。現在はウクライナ軍の防御拠点ポクロフスクを目指し進軍を続けている。

岩田清文 元陸上幕僚長:
ロシアは停戦交渉を有利にするためトランプ政権開始までにドネツク州全体を取りたかった。だが思い通りにいかない。ドネツク州への兵站等を途切れさせる形へ戦術を考え直している。おそらくこの作戦は成功しないが、ポクロフスクの包囲はできる。ウクライナ軍がどう防御するか。
小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ロシアはドネツク戦線で大きな犠牲を出して個々の戦場で勝ってはいるが、ウクライナが屈服せず、勝利を戦争目的達成のために役立てられていない。膠着(こうちゃく)状態がまだ続くのでは。

反町理キャスター:
ロシアが占領地域4州の住民を強制徴兵している話がある。拒否した場合、生計手段などを奪われる恐れも。重大な人権侵害だとウクライナは批判。
東野篤子 筑波大学教授:
今回は南部の話だが、東部ドンバスでは戦争の当初から同様の指摘があった。ウクライナ人同士を戦わせ、犠牲が出てもロシア軍は痛まない。悲惨極まりないことが強制的に行われている。これが占領の現実。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
占領地域での徴兵はジュネーブ第4条約で禁止される非人道的な行為。土地に住む人たちがどういう目に遭うかということ。だから土地を諦め、停戦すべしという話になりにくい。
竹俣紅キャスター:
ウクライナ軍は2024年8月にロシア国内への奇襲攻撃を行い、クルスク州で1376平方kmを占拠した。だがロシア軍の反撃でその範囲は800平方kmに縮小したといわれる。
岩田清文 元陸上幕僚長:
東部と同様に激しい戦闘。米バイデン大統領も11月からATACMS(アメリカが供与した地対地ミサイル)使用を許可しており、ドローンも使いながらウクライナは3倍の戦力を持つロシアに対しうまく戦ってきた。停戦交渉時に有利となる唯一の地域であり、絶対に渡せない。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
作戦の目的は3つ考えられる。1つ目は東部エリアからロシア軍の主力部隊を引っ張る陽動。2つ目は「領内に攻め込んでもロシアは核を使えない」というアメリカへのメッセージ。3つ目は停戦交渉が始まった場合に交渉のカードにする目的。
ウクライナは1つ目には負けた。ロシアはほぼ主力を動かさず代わりに北朝鮮軍が来てしまった。2つ目に一定の効果はあり、アメリカがATACMSの使用許可を出した。現状1勝1敗で、3番目の勝負が意味を持つか。これは停戦交渉が始まる時期にかなり依存する。1月いっぱいはもつだろうが、夏に停戦交渉に入るなら厳しそう。
「弾よけ・地雷処理機」北朝鮮兵のむごい現状
竹俣紅キャスター:
ウクライナ政府はロシア西部クルスク州で捕虜にした北朝鮮兵2人の映像を公開。2005年生まれのライフル兵は「ウクライナと戦っていると知らなかった、司令官に訓練だと言われた」「ウクライナで暮らしたい」。1999年生まれの前哨狙撃兵は北朝鮮に戻りたいかと聞かれ「はい」。

岩田清文 元陸上幕僚長:
証言はある意味無邪気で、北朝鮮政府がどれほどむごいことをしているか知らず本音を言っていると想像する。北朝鮮は表向きには派兵しておらず、彼らはロシア軍人として参加させられている。金正恩(キム・ジョンウン)は国内的に派兵も捕虜の存在も認めたくない。捕虜を返してもたぶんその場で抹殺され、北朝鮮に帰れない。北朝鮮の国内的には「訓練に行って死んだ」だけで終わらせると思う。
反町理キャスター:
北朝鮮兵が捕虜になる前に自決を選んでいるとの情報がある。
小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
北朝鮮兵は捕虜になった場合、家族に累が及ぶ可能性を恐れ自殺するという話がある。非常に非人道的で嫌な話。一方、当初ウクライナは捕虜の映像をモザイクなしで出していた。捕虜の取り扱いに関する国際条約上、本来はやってはいけない。かなり問題があると指摘したい。
東野篤子 筑波大学教授:
おっしゃるように後先を考えるとウクライナはそのようにすべきではなかった。ウクライナの従来の主張は「我々はロシアとは違う、人道的に戦っている」。しっかり国際法に則って捕虜を扱わなければ、今後の和平に向けた説得力がどんどんなくなる。

竹俣紅キャスター:
英タイムズ紙はウクライナ軍中佐を取材。「あいつらは地雷原で3~4mずつ離れて一列に歩いていった。1人が爆破されると遺体を回収し、それを続ける」と驚くべき状況を報じた。
岩田清文 元陸上幕僚長:
ロシア軍と北朝鮮軍の連携が全く取れていない。北朝鮮兵が足手まといだという報道もたくさん出る中、弾よけ・地雷処理機にされている。ある意味かわいそうな使われ方。
東野篤子 筑波大学教授:
ロシアが自国の囚人兵を使っていたとき、ウクライナ国内では全く同じような報道が頻繁にあった。ロシア軍が自国の囚人兵も他国からの兵士も同じように、その命を粗末に扱っていると言いたいのだと思う。
実現性が怪しいトランプ次期大統領の停戦案
竹俣紅キャスター:
トランプ次期大統領はこれまでウクライナ戦争について、就任後24時間以内に停戦を実現させると発言していた。しかし1月7日の記者会見では6カ月、できればそれよりだいぶ前にとトーンダウンしている。

神保謙 慶応大学教授:
現実に合わせようとしている。トランプの2期目は4年のみで力を注ぎ込めるのは中間選挙までの2年。本当に時間が惜しい状況。とにかく早くプーチンに意思を伝え有利な条件で交渉を進めたい。トランプの原則は対外介入で、アメリカの資源が浪費されており最小限にしたいというもの。そして停戦するならトランプ政権に望ましい秩序、つまり秩序維持のためのリソースをアウトソースできる形を作る必要がある。
反町理キャスター:
一方、トランプ次期大統領との電話会談に臨むプーチン大統領の狙いは。
小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
トランプは対外介入が嫌いで、国防総省はインド太平洋にシフトしたい。当然ロシアはアメリカがウクライナ支援を手仕舞いにすることを強く期待している。ただ道義的にも実際の安全保障戦略としてもそれは難しい。

竹俣紅キャスター:
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、米次期政権の案では停戦ラインとして現在の前線に800マイル(約1287km)の非武装地帯を設けることを検討している。だがプーチン大統領は、ウクライナの東部・南部4州全域からの完全撤退を停戦条件として挙げている。ゼレンスキー大統領は、武力での奪還が困難であり外交で全領土回復を目指す必要があると述べた。
神保謙 慶応大学教授:
停戦という言葉には多くの意味がある。ウクライナとしては、占領された領土が確定していない状況を作り出すことが非常に重要。もう一つは安全保障で、NATO(北大西洋条約機構)加盟、武器支援、西側諸国がウクライナの中に入っていくなどいろんな案を考えなければいけない。そして停戦を破ったときのペナルティーをどうするか。これらをまとめなければ包括的な停戦案はできない。年内にできるか疑わしい。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
非武装地帯を誰が維持するのか見えてこない。また、過去のミンスク合意の内容をロシア軍は全く守らなかった。ロシアはあたかもこの地域からウクライナ軍が撤退しNATOに入らないと言えば手打ちだと言っているように見えるが、それは交渉を始める条件だと位置づけている。神保先生のお話の通り、両者が何を停戦と言っているのか位置づけないと混乱する。
東野篤子 筑波大学教授:
ウクライナは苦しいが、今出ている政権移行チームやロシアの条件に乗るメリットは皆無。そして「停戦交渉に乗らないウクライナが一番平和に後ろ向きだ」というロシアのプロパガンダを強化してしまいトランプ次期大統領もそれに乗る可能性がある。それでウクライナは、まずミンスク合意がどれほど守られなかったか確認してから停戦交渉をセットしてくれと言っている。

竹俣紅キャスター:
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、トランプ次期政権の停戦案では、少なくともウクライナが20年間はNATOに加盟しない代わりに軍事支援を継続することを検討している。だがプーチン大統領は将来的な加盟も容認しない姿勢。ゼレンスキー大統領は「拙速な結論は出すべきではない」と述べた。
神保謙 慶応大学教授:
トランプはNATO自体を好きではない。彼の同盟観は、秩序を支えているのが同盟の結束だとするならそれを支えているのは我々の軍事力であり、享受するヨーロッパはもっとちゃんと金を出せというもの。ウクライナの安全を担保する必要があるなら、ヨーロッパ諸国が金を出すべきという発想を前面に出すと思う。
反町理キャスター:
その論理なら、日米同盟の根本的な信頼性が毀損されるリスクもあるのでは。
岩田清文 元陸上幕僚長:
そう考えるべきだと思う。コルビー次期国防次官も、同盟は神聖であり国際秩序の維持が重要だという点を今後アメリカはしっかり守らないと言っている。アメリカ第一主義はトランプもコルビーも同じ。日米同盟がアメリカにとっても有利だと理解させ、アメリカを巻き込んで付き合っていかなければ。
(「BSフジLIVEプライムニュース」1月14日放送)