国会では、小泉進次郎農水相が就任後初めて野党党首らからの質疑を受けた。備蓄米の随意契約でコメの価格は本当に下がるのか。今回浮き彫りとなった日本の農政の歪みに対し、どんな改革が必要なのか。「BSフジLIVE プライムニュース」では国民民主党の玉木代表と識者を迎え議論した。

備蓄米放出、随意契約で消費者に届くか

竹俣紅キャスター:
農水省が5月26日に備蓄米を売り渡す随意契約の内容を発表。放出量は2022年産20万トンと2021年産10万トンを合わせ30万トン、需要に応じ無制限の放出を検討するとした。契約先は年間の取扱量が1万トン以上の大手小売業者に限定するとしたが、22年産の20万トンについては約70社から申請が殺到、上限に達する見込みとなり受付を一時停止。21年産の10万トンは対象を中小のスーパーや米穀店に変更し30日から受付を開始する予定。農水委員会では小泉農水相に対し、野党が流通から販売に至るまでの問題点を指摘した。

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野田佳彦 立憲民主党代表(VTR):
備蓄されているのは玄米。精米や袋詰めがネックになり、これまでの売り渡し分はなかなか店頭に出てこなかった。

小泉進次郎 農水相(VTR):
来週コメが棚に並ぶ事業者は、自分たちのグループなどに精米会社を持っている。また、日本酒の業界の方から酒米を精米する設備に活用できる余力があるとお申し出いただいた。町のお米屋さんは店頭に精米機を持っており、玄米のまま店頭に運ぶこともできる。様々な形を検討しながら、スピード感をもって努力を続ける。

前原誠司 日本維新の会共同代表(VTR):
国民が望むのは短期的に2000円のコメを出すことだけではなく、長期的にコメの価格を下げること。物流の見直し、JA(農業協同組合)などが全体集荷量の4割を扱っている点を見直すべきでは。

小泉進次郎 農水相(VTR):
農家からすれば高く買ってくれるところに卸したいだろう。一方で、コメの流通に問題意識を持つ方は非常に多い。流通の透明化、適正化が検討材料の一つであることは間違いない。

竹俣紅キャスター:
秋葉さん、小売の現場からはどう見るか。

秋葉弘道 アキダイ社長:
備蓄米が今後店頭に並ぶ予定はあるのだが、本当に店に並ぶまでは信用できないのが正直なところ。今までに備蓄米が多く放出されたことの実感が私にもない。多くの国民も「どこに行けば買えるのか」と思ったのが現状だと思う。今回の、値段を下げる小泉さんの方針はありがたいが、弊害も考えなくては。一時的に下げても安心はできない。これをきっかけに既存の新米が安くなればと思う。

稲垣公雄 三菱総合研究所研究理事:
政府は最終小売価格をある程度コントロールしたいから小売と契約する。今回これを行ったのはすごいが反面、精米などが可能な事業者しか契約できない。本当に公正なのかという視点はある。ただ、スピード感を重視し従来の常識とは異なるやり方の実験を行っているところもあると思う。物流についても逼迫状態は変わらないが、JAの既存のやり方とは違う声掛けをすることで、今までよりは調整がつく部分はあるだろう。だが、手品のようなやり方はない。いろんな人が苦労してやられていくということだと思う。

農業政策の大転換期を迎える日本

竹俣紅キャスター:
国会で玉木代表と小泉農水相の質疑応答があった。コメの適正価格について繰り返し問いただしていたが、玉木さんは小泉大臣からどのような答弁を引き出したかったか。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
党首討論のときに石破総理から「5キロあたり3000円台に」という発言が出てきた。石破総理は農政に詳しく、一定のイメージを持っての答えだったと思う。小泉大臣にもし違うイメージがあれば担当大臣なりにお答えいただきたかったが、はぐらかされてしまった。その前に「政府があまり価格について言わない方がいい」というやり取りがあったこともあるのかなと思うが。

竹俣紅キャスター:
今回の価格高騰の遠因とも指摘されるのが、これまで政府が続けてきたコメ政策。コメの過剰生産を抑え価格の安定を図る目的で、政府は1971年から本格的な減反政策を始め生産量の調整を行った。減反政策は2018年に廃止されたが、その後も農水省は毎年コメの生産量の目安を提示し、主食用のコメから麦、大豆、飼料作物などに転作した農家に補助金を支給している。玉木さんはまだ実質的な減反政策が続いていると指摘しているが。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
政府は2018年に減反廃止を打ち出したが、結局はコメの価格に国家が関与する政策を続けてきた。消費者負担で農家の所得を支える政策。一定の合理性があったと思うが、インフレになれば途端に限界が来て崩れてしまう弊害がある。また、毎年10万トンずつ需要が減る前提で政策を続けてきた結果、大規模化などを行ってはきたものの生産基盤が極めて弱体化してしまった。特にコメ農家は平均年齢70代。コメは余っているのではなく不足しているとの認識で政策転換を図らないと限界がある。国内できちんと生産基盤を確立して過不足のない供給が安定的にできる生産体制をもう一回きちんと整える。そのための財源も用意する。これが本当の食料安全保障政策だと思う。

稲垣公雄 三菱総合研究所研究理事:
農業には一定程度保護しなければいけない面が必ずある。グローバルに見ると、なお日本の穀物には競争力がないので、保護しなければいけない。それは、消費者負担で保護する部分と農家に直接支払いをすることで保護する部分がセット。元々日本は圧倒的に前者だったが、今は同じぐらいになってきていると言われる。コメ以外の作物に補助金を出すことでコントロールするなどうまくやってきたのだが、やり方を変えなければいけない局面に来ている。

秋葉弘道 アキダイ社長:
33年店をやってきた中で生産者からのコメの直接取引の話は2回ほどしかなかったが、この半年ぐらいで4件もあった。生産者には、一生懸命作っているコメをただJAに納めるだけではなくどこで売られているか知りたいという思いがある。「美味しかったよ、評判いいよ」という声を聞きたい。そういうやりがいの面がある。政府の補助金は嬉しいが安心できるわけではないとの声も聞く。生産しやすい環境を整えてほしいということ。それによって、安心して事業継承できるような仕組みを作ってもらいたい。

農家は減っても大規模農家は増加。コメ安定供給の未来は

竹俣紅キャスター:
日本のコメは今後安定供給を維持できるのか。コメ農家は約95%が赤字経営となっており、農家の倒産、休廃業・解散数は年々増加し2024年は過去最多。この状況でコメの生産を維持することは本当に可能か。

稲垣公雄 三菱総合研究所研究理事:
倒産や休廃業・解散数がすごく増えているように見えるが、この間に大規模農家は非常に増えており、このデータは気をつけて見る必要がある。その大規模農家は全体の3%の約2万経営体ほどだが、そこで全体の38%のコメを生産している。農水省が行ってきた大規模農家に集中させる担い手対策。倒産の件数は主にこれらの件数で、中小零細農家が厳しいという話とはまた別の話。また、赤字については、自分が働いた分も労賃とする、地代も入れるなどで決算上は赤字になっている。逆に言えば、赤字に見えるがやるメリットがあるから農業をやってきた。だが、どんどんコメ価格が下がり、もうやっても意味がないような状態になって誰も継がなくなってきた。

長野美郷キャスター:
ビジネスの観点で考えたときにコメ作りの効率化・集約化をどう考えていけばいいか。

稲垣公雄 三菱総合研究所研究理事:
コメ農家といってもまちまちで、規模によって全くコスト構造が違う。その中で大規模農家を基準に考え補助金を寄せていくことはありだと思うが、ではそれよりも小さい1〜10ヘクタールぐらいの規模の農家をどう支援するのかといった点にはいくつか政策の選択肢がある。丁寧に考えて設計していく必要がある。

長野美郷キャスター:
コメ不足・価格高騰対策としてコメの輸入はどうあるべきか。衆議院農水委員会で玉木代表は「備蓄米の供給が十分でない場合は、外国産米を入れるという選択肢が現実味を帯びているのではないか」と発言。小泉農水相は「国民が最低限必要とする食料の供給について、ミニマムアクセス米の活用が可能だ。備蓄米は適正水準の100万トン程度まで回復していく」と答えた。視聴者の方から「アメリカからお米を購入して備蓄米に充てれば、安く上がって貿易摩擦の解消にもなるのでは」という意見も来ている。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
貿易摩擦の解消に使うべきではない。きちんとした農業政策としてどうするか、哲学をもって考えていかなければいけない。安いからと安易に外国から入れようとなるのは食料安全保障の観点からも問題。農家の所得を保障する制度とセットで、国内の増産体制をきちんと考えていくこと。

長野美郷キャスター:
すると、この備蓄米を放出した60万トンの穴をどう埋めていくか。

稲垣公雄 三菱総合研究所研究理事:
令和7年産はなかなかプラスにならないかもしれないが、8〜9年産で埋めるべき。大増産をかけられるかどうか。輸入については、アメリカは480万トンほどの国内需要があり650〜700万トンを作っているが、500万トンしか作れない年もある。主食のコメについてそういう国をあてにするのは危険すぎる。小麦ならば世界中に作っている先進国があるのでリスクは相当低いが、先進国でコメを輸入に頼っている国はない。取ってはいけない選択肢。

(「BSフジLIVEプライムニュース」5月28日放送より)