コメをめぐる失言が発端となり江藤拓農水相が辞任した。この事実上の更迭は石破政権にどんなダメージを与えるのか。後任として小泉進次郎氏が選ばれたが、今後の国会運営や参院選にはどのような影響が起こるのか。「BSフジLIVE プライムニュース」では田﨑史郎氏を迎え分析した。

不信任案が出れば可決の公算大、農水相の更迭は避けられず

竹俣紅キャスター:
江藤氏は5月18日の講演で「コメは買ったことがない」などと発言。米価格の高騰が続く中での所管大臣の発言に対し批判が集中した。翌日、石破総理は江藤氏を総理官邸に呼び、厳重注意した上で引き続き職務に当たるよう指示。その後江藤氏は発言を陳謝し修正した。
しかし20日夜、石破総理は江藤大臣を交代させる方向で検討に入り、21日朝に江藤大臣が石破総理に辞表を提出。石破政権で任期中の閣僚の辞任は初となる。続投の方針から一転して更迭となった形だが、なぜ方針転換が起きたか。

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政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
石破さんと話したところ、20日朝の時点では「今大事なのはコメの高騰対策で、そのためにはしばらく続投を」という判断だった。だが、夜になるとガラッと変わった。二つ理由がある。一つは、委員会答弁で江藤さんが野党から厳しく突っ込まれ、ますます批判が強まる結果となり、野党に勢いがついてしまったこと。その野党は20日午後に集まり、まず更迭を求め、更迭しない場合は農水相の不信任案を提出すると決定した。参加したのは立憲、維新、国民民主、れいわ、共産の5党で、衆院議員の合計数が230。自民・公明を合わせた220より多く、過半数の233に対して3つ足りないだけ。その程度なら有志の会や無所属の人たちを集めることができる。もう一つ、立憲民主党が非常に強硬で、単独でも不信任案を出すと自民党に通告した。そうなれば、反対すれば江藤さんを信任することになるから、野党のほとんどは賛成する。すると、可決される可能性が高く、その段階でアウトという判断。

長野美郷キャスター:
すると、石破政権は当初、この発言が国民の皆さんにどれほどのインパクトをもたらしたかという点に対する認識・危機感がなかったか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
僕は、石破さんはしっかり危機感を持っていたと思う。だから、発言翌日に江藤さんに厳しく注意した。江藤さんはそこで初めてことの重大さに気づいたところがあるが。ただ、石破さんは江藤さんを切ることによるコメの高騰対策への影響を考慮してしまった。理想を言えば19日の段階で切った方がいい。安倍元総理や岸田前総理ならそうしたのでは。だが、石破さんはそのような政権の見せ方をあまり意識しない。それより実務面を考えてしまうのが石破さんの弱さ。

長野美郷キャスター:
野党からはタイミングが遅すぎたという批判も出ているが、野党がまとまったのも20日午後。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
政党により違いがあった。立憲と維新はすぐに反応したが、国民民主は玉木代表が「これは不信任案に値するのか」という主旨の話をしていた。だが、20日午後に榛葉幹事長や古川国対委員長が、これは辞任ものだとの論調を強めた。ここで党内に対立が生じたわけではなく、話し合って厳しく対応する方針を固めた。党としての方針はぶれたと言えばぶれたわけだが。

江藤氏の後任に小泉進次郎氏が選ばれた経緯

長野美郷キャスター:
今回の事実上の更迭劇、自民党内や石破政権へのダメージはどの程度になるか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
立憲のある幹部に聞くと、むしろ自民の議員から不信任案を出してくれと頼まれたとのこと。つまり「石破さんが江藤さんを辞めさせそうにないが、これは政権・党にとってダメージだから辞めさせるために不信任案を出してくれ」と働きかけられた。そういう危機感は自民党内にある。江藤さんの発言のダメージは大きい。だが、後任に小泉進次郎さんが就いたことが起死回生の一手になる可能性もあると思う。

竹俣紅キャスター:
その小泉進次郎元環境相は、記者団の取材に応じて発言した。

小泉進次郎 元環境相(VTR):
森山幹事長から打診を受けた際に私から申し上げたことは「今この局面で大事なことは、組織団体に忖度しない判断をすること。私はそういう思いだが、よろしいですか」。「それが大事だと思う」とお話しいただいたので、族とか非主流派といったことを抜きに、コメの価格の高騰、コメが市場に足りているのかという不安を解消したい。農林水産行政は幅広いが、私はもうコメ担当大臣だという思いで集中して取り組んでいきたい。

長野美郷キャスター:
改めて、小泉氏が後任に起用された経緯は。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
石破さんが後任選定で考えたのは、農水相は全くの素人がやれる大臣ではないということ。党の農林水産部会長または農水相経験者としては最初に頭に浮かんだのが小泉さん、次に齋藤健さん。それをもとに森山幹事長や林官房長官と相談する過程で小泉さんになった。

長野美郷キャスター:
今はどれだけ備蓄米を出しても行き渡らない大変な局面。火中の栗を拾うような状況にも見えるが、これを受けた小泉さんの狙いは。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
進次郎さんはむしろ、参院選を戦うにあたり自民党としてこれをやるんだということを示さなければいけないという意識をずっと持っている。そこで着眼したのが農政改革。これを石破さんは掲げるべきだという考えがあり、この前の週に内々で石破さんにその考えを伝えている。コメの値段は大事だが、構造的に農政改革を進めなければいけないという意識。この点で石破さんとは共鳴し合う関係であり、小泉さんにとっても農水相はやってみたい。そこで最大の障壁になるのは、農林族のドンである森山幹事長。

森山幹事長から言質を取った小泉氏、今後その実力が問われる

長野美郷キャスター:
小泉氏は発言の中で、森山幹事長とのやり取りを明らかにしている。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
経過を見ると、まず、森山さんが小泉さんに電話して、総理との間でこういう合意に達したのであなたに後任をやってほしいと話した。小泉さんは、わかりましたと言いつつ、今の農政を考えると組織や団体の意向を忖度していては何もできなくなりますね、ということを言った。それに対して、そこはわかります、大事なことです、と森山さんが答えた。その話をそのまま、小泉さんが明らかにした。普段はそうした話は表に出さない。それをあえて出したのは、今はコメの値段を下げることに集中するが、次の段階として農政改革がある、それが参院選を戦う旗になる、ということ。もう駆け引きが始まっている。

長野美郷キャスター:
この組織や団体というのは、具体的に言うと何か。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
農協。全農(全国農業協同組合連合会)や全中(全国農業協同組合中央会)。

長野美郷キャスター:
それらに忖度しないという姿勢を貫き通した場合、自民党内に亀裂が生じる危険性はないか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
ある。だから、森山さんから言質を取ったことが大きい。森山さんは農水族のドン。農水族で逆らう人はほとんどいない。全農・全中にしても、森山さんから言われたら、森山さんの姿勢がそうならしょうがないと諦める。だから、この合意は大きなこと。

長野美郷キャスター:
農政改革の指針を出したいという大きな柱もある一方、まずコメの値段を下げることは非常に大切。石破総理からもコメは5キロあたり3000円台でなければならないという発言もある中、7月の参院選を見据えて小泉さんが真っ先にやらなければならないことは何か。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
党首討論で石破さんは、5キロあたり3000円台という目標値を設定した。それに向けて進次郎さんは結果を出さなければいけない。問題は、コメそのものが不足しているのか、それとも流通段階のどこかで止まっているものがあるのかよくわからないこと。農水省も農協も、米の値段が崩れる、下がることを非常に恐れている。備蓄米の放出についても抵抗したのは江藤大臣であり農水省。それを無理やりやらせるわけだが、現段階ではまだ値段が下がっていない。進次郎さんがそれをどういう方法でやっていくか。力量が試される機会だと思う。

長野美郷キャスター:
今回の事実上の更迭劇や小泉さんの就任が、今後の国会運営や政局、また2カ月後に迫る参院選にどのような影響を及ぼすと見るか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
国会運営でも政権の勢いが少し出てくるのでは。参院選に向けてもプラス材料になるのではと思う。

長野美郷キャスター:
コメの価格が下がれば、ですよね。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
下がれば。でも、進次郎さんが後任になっただけで、何かやってくれるのではないかという期待感がある。江藤さんは長くやっても何もできなかった。議員の質を見ていると、江藤さんより進次郎さんのほうが100倍ぐらいまし。進次郎さんがどれほどやれるかはわからないが、江藤さんが続けているよりも遥かに可能性が高いと僕は判断する。

(「BSフジLIVEプライムニュース」5月21日放送)