ロシアの首都モスクワで5月9日、対ドイツ戦勝80年を祝う式典が行われ、中国の習近平国家主席を含む27の国と地域の首脳が出席し、パレードには13カ国の軍隊が参加した。「BSフジLIVE プライムニュース」では専門家を迎え、中露関係からウクライナ情勢まで徹底検証した。
「習主席は特別扱い」軍事式典から読み解く中露関係
東中健キャスター:
軍事パレードには中国軍など13カ国の軍隊も参加し行進した。また、戦勝80年という節目にあたり、ウクライナ侵攻開始以降の過去3回と比べても多くの戦車や兵器、最新型とみられるドローンなどが披露され大規模なものになった。
髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
実戦配備されている無人機を出してきた。戦車も一定の数で、前の2年よりしっかりしている。ただ、空軍は予想をはるかに下回る数だった。27の国と地域の首脳が集まっており、万一にも大量のドローン攻撃などを受けてはならない。万全の体制が必要だった。

駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
過去2〜3年に比べれば主力部隊がかなり出てきて体裁を整えたが、70周年だった10年前に比べれば非常に見劣りする。当時は赤の広場が見えなくなるほど兵士に埋め尽くされたが、今回はどうしても隙間が目立つ。空軍規模も10年前のほぼ10分の1。なかなか空軍力を誇示できなかった。
長野美郷キャスター:
パレードには中国、エジプト、ベトナム、ミャンマーなど13カ国の軍隊が参加し行進を行った。
髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
軍事パレードでこれだけの国の地上軍が一緒に歩くのはすごい。ただ、2022年の開戦以来何度も行われた国連総会での対ロシア決議で棄権・退席した52カ国には、ロシアとの関係を保っておかなければならない事情がある。ASEANの国々には「大きな魚にぶつからないよう、ゆるゆる泳ぐ」という独特の流儀がある。

東中健キャスター:
式典には中国やブラジルなど27の国・地域の首脳が出席。その他インドからは国防相、北朝鮮からは軍高官が参加したとみられる。10年前よりも出席した国・地域数は増えた。
駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
ベトナム、ブラジル、そしてEUからスロバキア。世界で孤立していないと示すことができ、ロシアは成功したと思っているだろう。ブラジルはBRICsの中でも基本的にロシアのウクライナ侵攻に対し批判的な立場だが、ロシアの訴える世界史的な意義を前向きに受け止めた。一方、直前になって軍事パレードに北朝鮮が来ないことになった。中国が北朝鮮とロシアの急接近と軍事協力を望まず、プーチン大統領は配慮せざるを得なかった印象。

東中健キャスター:
今回、中国の習近平国家主席は主賓・国賓として招待された。
駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
完全に特別扱い。また、9月にはプーチン大統領が北京で中国の軍事パレードに出席する。共催という意味合いもあり、こういう形に。ただ、10年前はロシアが決定的に中国に依存しているわけではなかったが、今は中国にも頼らざるを得ない点が本質的に変わっている。
興梠一郎 神田外語大学教授:
ロシアは中国なしではウクライナ戦争を続けられない状況。兵器の部品や技術の提供、そして一番重要なのは、原油を売る相手としての中国。中国としては安値で買い叩ける。利害関係が一致している。中国は関税に関してアメリカと対抗する上でロシアを求めている。

東中健キャスター:
式典でのプーチン大統領の演説には「ナチス・ドイツや軍国主義の日本に勝利できたのは連合国が団結したからだ。勇気ある中国の人民などすべての人の貢献を忘れない」などの内容が。
駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
今までは非常に多かったアメリカなどへの直接的な批判がなかった。停戦を求めるトランプ大統領に気をつかい、これ以上刺激的なことを言うことを避けたのでは。
興梠一郎 神田外語大学教授:
中国側が発表した会談内容では習近平氏の発言として「外部の妨害を排除してロシアとの協力を安定させる」とある。トランプ氏とプーチン氏の接近を嫌がる中国の離間戦略だと思う。

長野美郷キャスター:
中露首脳の共同声明では日本に対しても「両国は日本が歴史の非人道的なページを教訓とし、靖国神社など歴史問題で言動を慎み軍国主義と完全に決別すべきだと考える」と言及。対日を強調する理由は。
駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
習近平主席をどれだけ味方につけるかという点でロシアが譲り、中国側の書きたいことを書いている。
髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
アメリカの今後の防衛戦略がインド太平洋に集中しそうであることへの警鐘がある。中国はかなり警戒感を持っており、アメリカの同盟国である日本を引き合いに歴史というキーワードで切り込んできたのだろう。
興梠一郎 神田外語大学教授:
中国側の発表では、会談の中でプーチン氏が「中国共産党が指導して抗日戦争の偉大なる勝利を収めた」と言った。だが当時は国民党の中華民国だった。台湾も反発しているが、歴史を書き換えて自分たちの正統性を主張している。
中国と蜜月の様子を示すも分が悪いロシアの事情
長野美郷キャスター:
中露首脳共同声明では、ロシア側は「台湾は中国の一部」として「一つの中国」へのコミットを確認。また「ウクライナ情勢の解決には根本原因の排除などが必要」などとしている。

興梠一郎 神田外語大学教授:
台湾問題ではロシアが中国の立場を支持している。南シナ海の話、関税の話も出た。そしてプーチン氏がウクライナに攻め込んだ理由としているNATOの東方拡大の話。お互いに言ってもらいたいことを言ってもらっているが、特に中国側の希望が全部入っている感じ。
駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
一方、ウクライナの部分では必ずしもロシアが求める内容全てが入っているわけではない。中国はロシアのウクライナでの軍事行動を支持するとは絶対に言わないし、ロシアも容認せざるを得ない。
東中健キャスター:
共同声明でのウクライナ情勢への言及は、「ウクライナ情勢の長期的解決のためには根本原因の排除などが必要」「ロシアは中国の客観的かつ中立的立場を評価し、政治的・外交的手段で解決に建設的な役割を果たそうとする意欲を歓迎する」「中国は政治的解決の条件を整える努力を継続する」など。
興梠一郎 神田外語大学教授:
中国はロシア側だが表向きは中立。ロシアはこれ以上のことを言えない。中国は中国でこれからアメリカと関税の交渉が始まるし、ロシアも水面下でアメリカと取引している。その微妙さが文面に出ている。

長野美郷キャスター:
中露の蜜月姿勢は信頼できるパートナーだからというより、アメリカと向き合うにあたり中露接近が利益になるからか。
駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
基本的にはそう。ロシアは本当に中国にしか頼れない。だが、トランプ大統領が経済的な利益を優先してロシアから石油やガスを買ってくれるかも、アメリカの会社が投資してくれるかもという点で、中国の重みが変わってくる可能性はある。
東中健キャスター:
中露のエネルギーをめぐる連携について、共同声明では「包括的なエネルギーパートナーシップを強化し、関連する越境インフラの安定的な機能とエネルギー資源の円滑な輸送を確保」としている。

駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
中国とロシアで思惑が違う。ロシアはもっと天然ガスを中国に輸出したい。「シベリアの力2」というパイプラインを中国に引く構想を推進している。だが、声明内に中国からの具体的な内容がない。
興梠一郎 神田外語大学教授:
中国は、ヨーロッパにガスを売れず困っているロシアの足元を見ている。中国はエネルギー戦略の多元化を進めており、ロシアは分が悪い。
停戦をめぐるウクライナとロシア、そしてアメリカの駆け引き
東中健キャスター:
プーチン大統領は4月28日、対ドイツ戦勝記念80年に合わせて8日から3日間停戦すると一方的に宣言。しかしロシア国防省は、停戦期間に入って以降、ウクライナ側から488件の攻撃があったと発表。一方、ウクライナのシビハ外相も、ロシア軍からウクライナ軍の陣地に向け586件の攻撃があったと主張している。

駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
攻撃があった蓋然(がいぜん)性は高いと思う。ロシアが一方的に停戦を発表した理由は、アメリカに「ウクライナが信用できないからおいそれと休戦などできない」と示したいため。戦勝記念日を大過なく過ごしたいという動機も強かったのだろう。
長野美郷キャスター:
一方、トランプ大統領は「ロシアとウクライナとの協議は継続中。30日間の無条件停戦を呼びかける」とSNSに投稿。ゼレンスキー大統領は「今日からでも30日間の停戦に応じる用意がある」とトランプ大統領に伝えたと明らかにした。
駒木明義 朝日新聞国際報道部記者:
SNS投稿の前にゼレンスキー大統領とトランプ大統領は電話で協議している。今のところゼレンスキー大統領は「ウクライナはやる気があるが、プーチン大統領はどうなんだ」とすることに成功している。プーチン大統領はやる気がないのでは、という雰囲気がトランプ政権内に広がっている気配もある。

東中健キャスター:
ウクライナ国防省情報総局は5月3日、水上ドローンを使用した攻撃でロシアのSu-30戦闘機2機を撃墜したと発表。水上ドローンで戦闘用航空機が撃墜されるのは世界初としている。
髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
本当に驚いた。この戦争が始まって3〜4年のうちにどんどん技術が進化している。意思決定ではAIも使っているだろう。この戦争は教訓の宝箱みたいなもので、積極的に勉強して取り入れる必要がある。
(「BSフジLIVEプライムニュース」5月9日放送)