女性客に高額な飲食代のツケ=「売掛金」を払わせ、借金地獄へ陥らせる「悪質ホスト」をめぐる問題は2024年も後を絶たなかった。その裏では、「売掛金」返済のため、女性に売春のあっせんをする、「風俗スカウト」の存在があった。

2024年、東京・歌舞伎町でホストとして働く兄弟が逮捕された。逮捕容疑は女性客に売掛金返済のため、大分県別府市のソープランドの仕事を紹介した職業安定法違反。この“ホスト兄弟”と共謀して「売春を紹介」したのが、「スカウト」の男だった。「悪質ホスト問題」は、この「風俗スカウト」の存在と、「スカウトバック」という“カネの流れ”を解決しなければ根絶されない。今回、「風俗スカウト」とホストの男の間で交わされたメールの内容を入手。「風俗スカウト」の手口に迫ったーー。

ナンパからデート重ね・・・気がつくと膨らむ「売掛金」

今回立件されたのは、歌舞伎町のホストクラブで働いていた兄弟。そして、「風俗スカウト」の男だ。

きっかけは、2022年10月、ホストの弟が、19歳の女性を歌舞伎町でナンパしたことから始まる。2人はデートを重ねるが、やがて女性に「ホストだ」と打ち明け、店に通わせるようになった。

女性は次第に高額な代金を費やすようになり、店に代金を肩代わりしてもらう「売掛金」は3万円、15万円、65万円・・・と日を追うごとに膨れ上がった。

そして弟は、「売掛金」を返済させるため、スカウトを使って女性を風俗店に送り込むのであるが、その手法はこうだ。

始まりは一通の「営業メール」・・・ホストとスカウトが協力し「風俗斡旋」

この兄弟ホストが売り上げのため、女性客に風俗店などで“出稼ぎ”をさせるようになったのは、3年前、ホストクラブの代表である兄に届いた1通のメールがきっかけだった。

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スカウトの男は「ホストの情報サイト」で、当時ナンバー1だったホストの兄に目をつけ、この営業メールを送信した。

このメールを補足すると、「夜職」というのは、昼の仕事「昼職」とは別に、風俗店やキャバクラなどで働くこと。「出稼ぎ」とは、遠方での接客や売春などをすること。

つまり、このメールは、「風俗店に女性を紹介し、女性が売春をする上でのアドバイスもする」サービスを、男性ホストに対して、アピールしているのだ。男性ホストが、女性の売春を「管理」し、売掛金を支払わせようとしているシステムの上に成り立つビジネスである。

女性が働く限り“永久的に”入る「スカウトバック」

スカウトの男と連絡を取るようになったホストの兄は、弟にも紹介する。弟は早速、スカウトに対し、売掛金がある女性客への風俗店紹介を依頼した。

スカウトは、女性に「希望の報酬金額、稼働する条件、下着姿の写真」などのプロフィールを作成させる。そして「風俗店を斡旋する仲介業者」を通し、複数の風俗店にプロフィールを送信。それぞれの店に「1日あたりの報酬金額」を提示させる“オークション形式”で良い条件の店に女性を斡旋していた。

このような流れで女性を風俗店に紹介すると、店側から紹介料として「スカウトバック」と呼ばれる報酬が支払われる仕組みとなっている。「スカウトバック」は、女性の報酬の15%で、風俗斡旋業者、スカウト、さらには依頼したホストにまで、「山分け」される。スカウトバックは、女性が売春する限り、永久的に入るようになっていた。

女性が売春できない期間は「まぶたの二重整形」まで強制

しだいに、弟は女性の稼働や私生活までもコントロールしていく。女性が売春していた店が閉店するため仕事が入らなくなると分かると、スカウトに「別に直近で稼げる店の紹介をお願いします」と依頼していた。

さらに、女性が体調的に売春ができない期間には「“まぶたの二重整形”をさせようと思う」とスカウトに相談していたことも判明。女性の体調や意志にはおかまいなしで、風俗で稼がせるために手段を選ばなかった。

こうしてホストの男の支配はエスカレートし、女性がホストに通うのをやめた後も残っていた売掛金の回収をしようと「ムショ行きになるよ」「親に言えないならそういうところで借りるしかないんじゃない?」などと、消費者金融の申し込みをさせたが、女性が警視庁に相談したことで一連の出稼ぎの実態が発覚した。

悪質ホスト根絶のため法改正へ 「スカウトバック」規制も

スカウトは「スカウトバック」、ホストは「売掛金の回収」に加えて「スカウトバック」と、互いに収益が得られることから、女性客を風俗に斡旋する行為はホスト業界で横行している。
しかし、女性客がホストの売り上げに貢献したいという思いから、支配されている状況に気がつかず潜在化してしまうケースが多いのが現状だ。

警察庁はこのような「悪質ホスト」や「風俗スカウト」への対策として、「スカウトバック」を支払った性風俗店についても取り締まる対策を検討。さらに、恋愛感情に付け込んで、客を依存させたり、正常な判断ができない状態で高額な飲食をさせる“色恋営業”を禁止するなどとする、風俗営業法の改正案を2025年の通常国会に提出する方針だ。

「悪質ホスト問題」の根底にある“スカウトバック”。法改正も、このビジネスモデルにどこまで迫れるか、実効性が問われている。
【社会部警視庁担当 北山茉由】

北山 茉由
北山 茉由

フジテレビ報道局社会部記者。警視庁クラブに所属し、捜査二課と暴力団対策課を担当。

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