「脱炭素電源の整備や水素、アンモニアの脱炭素エネルギーのサプライチェーンの構築、次世代の電力送配電ネットワークの整備により、新たな産業集積を目指します」

12月26日に開かれたGX実行会議で、こう強調した石破首相。その上で「日本を再び成長軌道に乗せてまいります」と宣言した。
こうした脱炭素電源の“整備”を含めた、国のエネルギー政策の指針となるのが、今後閣議決定される次期「エネルギー基本計画」だ。計画では2040年度に電源構成比率として“脱炭素電源”として位置づけられる太陽光や風力などの再生可能エネルギーを「4〜5割」、原子力発電の割合は「2割」を目指す。
一方、現在の主力である「火力発電」は、昨年度の電源構成比率で最大の68.6%を占めているものの、2040年度には二酸化炭素の回収貯蔵や水素アンモニアと混ぜて活用するといった、脱炭素対策という条件を付けた上で「3〜4割」まで減らすことを目指す。
「まだだ…」原発依存度の低減を巡る攻防
こうしたエネルギー政策の転換の中でも、新聞各紙で大きく報じられたのが、「可能な限り原発依存度を低減する」との文言の見直しだ。「特定の電源や燃料源に過度に依存しない」と表記されることになった。
この“文言”を巡っては自民党や公明党と「ギリギリの調整」が続いた。私も政府関係者に彼らの「提言」の状況を何度も尋ねたものの、「まだだ…」という言葉を繰り返し聞いた。

関係者によると、そもそも自民党の総合エネルギー戦略調査会の中では、提言に向け技術者を育てることや、原子力産業を国産でやっていくためには、「原発依存度の低減」では“非常に強いメッセージになってしまう”として、文言を見直すべきという意見が出ていた。
一方、支持者の間で原発への影響が強いとされる公明党は結論が繰り返し先送りされ、「将来的に」低減するという方針を提言し、政府の“路線変更”が受け入れられたという。
「脱炭素電源の確保が経済成長に直結」米大手IT企業の“脱炭素”重視
政府が原子力を含めたあらゆる脱炭素電源の確保に走る理由。それは、脱炭素電源の確保が「経済成長に直結する状況」だと分析しているからだ。
世界の電力需要を巡っては、データセンターでの需要や平均気温の上昇、EV需要などで、2035年に向け年約3%で増加し続けるという試算がある。しかもその需要の中には「脱炭素電源」に限定した電力需要が含まれている。

背景にあるのが、国際競争にさらされる産業界で、米大手IT企業などがビジネス展開の基準の一つに「脱炭素電源の確保」を盛り込んでいることだ。
例えばマイクロソフトは、生成AIに不可欠なデータセンターの整備などのために日本に2年で4400億円の投資を行う方針を発表している。しかし同時に「すべての電力消費」をカーボンフリー電力でまかなうという目標も設定している。

さらに、Amazonは日本に2兆円をこえる投資を行う一方、実例でみれば2024年3月には海外で原子力発電所直結のデータセンターを買収し、サプライチェーン全体でのカーボンフリー化を進めている。
とすると、G7の中で火力発電の比率が最高水準の一方、脱炭素電源の比率は最も低い日本が、なぜこのままで世界の名だたる企業に“投資先”として選ばれるのだろうか。
脱炭素進まぬなら日本での生産が縮小も? 産業界の危機感
経済同友会は提言の中で「企業は脱炭素化コストが安く、脱炭素化が進んだ地域に集まり、競争力のある製品やサービスを提供する。日本もそうした地域の仲間入りをし、立地拠点としての魅力も増して、産業活動の場として選ばれるよう、いま動き出さなくてはならない」と危機感を示している。

さらに、政府の会議の中では産業界から脱炭素電源が進まない日本についてこんな踏み込んだ意見も飛び出した。
「脱炭素の実機化は海外で行って、脱炭素に貢献し、国内では生産を縮小することでCO2の発生を削減する。こういった選択にならざるを得ない」
こうした“脱炭素需要”の中で政府が、すぐに使える資源に乏しく、地理的に大きな制約を抱え、エネルギー供給構造上の脆弱性がある日本で、再生可能エネルギーとともに重要だとするのが、発電量が天候に左右されず、大規模かつ安定的に“脱炭素電気”を供給できるという原子力発電だった。

こうして次期エネルギー基本計画では脱炭素電源として、再生可能エネルギーと原子力を「2項対立を越えてともに最大限活用する」ことになった。
日本のエネルギー政策の大きな転換点を迎えた2024年。電力需要の増大が見込まれる中、脱炭素と安定供給の両立は実現するのだろうか。
(執筆:経済部 杉山和希)