厚底時代、膝や足首に代わって増えてきたのが、股関節や仙腸関節に故障を抱えるランナー。

股関節は骨盤の両脇にある脚の付け根、仙腸関節は骨盤背面にある仙骨と腸骨の関節です。厚底シューズの復元力&反発力を制御するには、膝まわりや足首の筋力のみでは不十分。そこから上の股関節や仙腸関節まわりの筋力が求められるようになってきたからです。
具体的にはお尻、太ももの前後、お腹の筋力です。レース途中のエイドステーションでは、以前はヒートアップした膝下に水をかける選手が大半でした。ところが近年では腰から下に水をかけてクールダウンする選手が目立ちます。厚底時代になり、いかに股関節と仙腸関節が酷使されているかを示している現象でしょう。
いま、ランナーが故障なく快走するためには、トレーニングを厚底仕様にアップデートする必要があります。不可欠なのは、股関節周りの大きな筋肉の強化や仙腸関節のケアです。
厚底シューズの履き分け方を知る
●カーボンプレート入り厚底シューズ
ミッドソールに、優れた強度と剛性を持つカーボンファイバープレートを内蔵。ソールのクッション素材の進化により、見た目に反して驚くほど軽いのが特徴。レース本番はもちろん、ペース走、ビルドアップ走のようなスピード練習で活用を。本書では、高反発プレートが使用されているシューズを総称して「カーボン入りシューズ」と呼ぶ。
●カーボンプレートなし厚底シューズ
バネのような反発力のあるカーボンプレート入りシューズは、着地衝撃が大きくなるのと同時に、着地時の衝撃を受け止め、ブレを御せる筋力が必要となる。そこで、ジョグやLSD(Long Slow Distance:長く・ゆっくり・距離を踏むの頭文字)のようなスピードの必要のない練習では、カーボンプレートが使用されていないシューズを履くことが望ましい。
クッション性がありながら軽量なのが、新時代の厚底シューズ。ソールの素材や形状自体にも推進力を生む工夫が凝らされている。本書では、ソールがクッション性のある厚底でも、高反発プレートが使用されていないシューズを総称して「カーボンなしシューズ」と呼ぶ。

金哲彦
プロ・ランニングコーチ/駅伝・マラソン解説者。早稲田大学時代は箱根駅伝で活躍し、2度の優勝に貢献。現役引退後は、リクルートの陸上競技部で小出義雄監督とともに、有森裕子、高橋尚子などの選手を育てる。現在はランニングコーチとして幅広い層を指導するとともに、陸上競技の解説者としてTV・ラジオなどで活躍中