村田さんによると、まずは大き目の鍋に具が浸るぐらいのだし汁をたっぷりと用意し、下ごしらえした大根、玉子、こんにゃく、牛すじ、ちくわぶ、昆布などを入れ30分ほど弱火でコトコト煮る。
その後、さつま揚やつみれ、ちくわ、餅入り巾着などを加えて15分ほど煮る。

そしてポイントは、はんぺんを入れるタイミングだ。
はんぺんは“温める程度”
「はんぺんは魚のすり身に山芋などを入れてメレンゲ状に空気を含ませています。そのため煮すぎると空気が膨張して全体的に膨らみ、その後はしぼんでしまいます。
フワフワな状態で食べるためには、火を止める直前に加えて汁をかけて“温める程度”で十分です」

いろいろな種類の練りものを入れることも重要だ。
「材料に使っている魚や製造する時の加熱方法が違うと汁に出てくる味も変わるので、できるだけいろいろな種類の練りものを入れた方が複合的においしい味になります。
その中でも『焼ちくわ』は加熱した時にうまみが出やすい魚を使っているのと、焼き目の部分の皮が薄いため、味がしみ出しやすく、程良く汁を吸うためおすすめです」
味がしみ込むのは「拡散」現象
では、どのようにして具に味はしみ込むのか。
調理科学を研究しているお茶の水女子大学の講師・佐藤瑶子さんに紀文食品が尋ねたところ、これは「拡散」と呼ばれる物理現象だという。
物質の濃度が高い方から低い方へと移動し、同じ濃度になろうとする動きで、大根を加熱することでうま味成分や食塩の濃度が高いおでんの汁から大根へと移動しているのだ。

一方、焼ちくわやさつま揚などの練りもの類は、うま味成分や食塩の濃度が汁よりも高いので、汁の方に味が移動する。
練りもの類は煮すぎないほうが良いのはこのためで、煮すぎるとうま味がなくなってしまうのだ。

そしてコトコト煮ることで、やわらかくなる時間をコントロールしやすく、味もゆっくりしみ込み表面と内部とのうま味成分や食塩の濃度差が小さくなる。
強火でグツグツ煮てしまうと、汁が煮詰ったり、具と具がぶつかって煮崩れするリスクがある。