ドナルド・トランプ前大統領が大統領選挙の遊説のさ中、マクドナルドで働く姿を見せたのは、終盤の選挙の行方に大きな影響を与える「オクトーバーサプライズ(10月のビックリ)」になったのかもしれない。
トランプ氏の“バイト体験”に全米注目
トランプ前大統領は20日、ペンシルベニア州フィラデルフィア市郊外のマクドナルド店舗を訪れ、エプロンをつけてポテトを揚げたり、ドライブスルーの客に対応したりする姿を記者団に公開し、この映像と画像は全米のほとんどのマスコミで大きく扱われた。
この記事の画像(4枚)「トランプのマクドナルドでの天才的な妙技は、投票箱でカマラを(ポテトのように)唐揚げにしてしまうだろう」(ニューヨーク・ポスト紙電子版21日)
保守派のマスコミは当然トップ記事扱いで伝えたが、前大統領に批判的なマスコミもトランプ前大統領がエプロンをかけて働く姿には抵抗できなかったようで画像や映像を多用した。
「ドナルド・トランプがマクドナルドで一日働いたことを誰もが話題に。抱腹絶倒のミーム(改変された画像など)も拡散」(バズ・フィード22日)
リベラル派のこのニュースサイトも、「バイデンの経済政策が成功したので、保釈中の有罪犯を雇えるようになった」などと前大統領を茶化したミームを多数紹介した。
民主党上院議員がマクドナルドCEOに書簡
その論調はともあれ、全米のテレビや新聞に前大統領の非日常的な姿が紹介されたのは、結果的にトランプ前大統領の大宣伝になったわけだが、これにまず反応したのがハリス副大統領の民主党だった。
前大統領がマクドナルドでポテトを揚げた翌日の21日、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議委員(マサチューセッツ州選出)ら3人の上院議員が連名で、マクドナルドのCEO(最高経営責任者)のクリス・ケンプチンスキー氏に書簡を送付したことを明らかにした。
書簡は、マクドナルドの商品価格がインフレを勘案したとしても高すぎて、米国の家庭経済を圧迫していると指摘。それに関わる4項目の質問を提示して11月4日までに回答するよう求めた。
これに対してマクドナルド側は「マクドナルドとそのフランチャイズは商品を手頃な価格で提供できるよう努めている」と反論しているが、マスコミが注目したのはそのやりとりよりもタイミングだった。
「これは復讐だ:上院選で苦戦中の上院議員が、トランプ前大統領訪問直後のマクドナルドへの暴言を非難される」(FOXニュース10月23日)
これが民主党側の報復だったかどうかは定かではないが、報復するに足る影響を選挙戦に与えたのは確かなようだ。
「マクドナルドで働く姿」にZ世代が共感
「ドナルド・トランプのマクドナルド演出はZ世代に好評だった」(ニューズウィーク電子版10月24日)
ニューズウィークは23日、市場調査会社「トーカー・リサーチ」に依頼してトランプ前大統領のマクドナルドでのふるまいについて世論調査を行った。その結果、若い世代の方が前大統領に好意的で、特にZ世代(1997年から2012年誕生世代)の39%が「とても好感を抱いた」「ある程度好感を抱いた」と答えていた。
Z世代は、デジタル文化の中で育ち、環境問題など社会課題への関心が高いとされ、成長重視のトランプ前大統領の主張とは相容れないと考えられてきたが、マクドナルドのキッチンで働く前大統領の姿は若年層の共感を呼んだのかもしれない。
ワシントンに本部を置くキリスト教系の法務組織ACLJのニュースサイトには、こんな論評記事も登場した。
「トランプ前大統領がエプロンをつけて、ペンシルベニア州郊外のマクドナルドのドライブスルーに出勤した。群衆はフライドポテトを提供する彼を気に入ったようだ。トランプ大統領の見事な行動は、再選の可能性を大きくするオクトーバー・サプライズだったのだろうか?」
リアル・クリア・ポリティクスが毎日まとめているトランプ・ハリス両候補の一般投票の支持率を見ると、前大統領がポテトを揚げた20日にはトランプ48.1%、ハリス49.2%で副大統領がリードしていたが、6日後の26日にはトランプ48.4%、ハリス48.3%と前大統領が逆転した。
この調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を上回ったのは、副大統領が民主党の大統領候補に指名されて以来初めてだ。マクドナルドでの「ビックリ」が寄与していると言っても許されるのではなかろうか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン・図解:さいとうひさし】