「一体全体、J・D・バンスはどこにいるの? どこよ?」

超保守の論客として知られるマージョリー・テイラー・グリーン元下院議員は9日、テレビ番組でこう声をあげた。

「彼はかつて、海外での戦争も政権交代ももうないと言っていたのに、違うじゃないの」

確かに、トランプ大統領がイラン戦争を始めて以降、副大統領の存在感は薄い。その象徴的な場面が、米軍がイランに空爆を開始した時だった。

マール・ア・ラーゴから作戦をイランへの軍事作戦を指揮したトランプ大統領。バンス副大統領の姿はない。
マール・ア・ラーゴから作戦をイランへの軍事作戦を指揮したトランプ大統領。バンス副大統領の姿はない。
この記事の画像(6枚)

トランプ大統領はフロリダの自宅マール・ア・ラーゴから作戦を指揮した。ホワイトハウスが公表した写真には、トランプ大統領を中心にヘグセス国防長官、ルビオ国務長官、ワイルズ首席補佐官らが中東の地図を横に協議する様子が写っていたが、そこにバンス副大統領の姿はなかった。

バンス副大統領はホワイトハウスで状況を見守った
バンス副大統領はホワイトハウスで状況を見守った

一方、副大統領はホワイトハウスの「シチュエーション・ルーム」にベッセント財務長官ら軍事作戦とは直接関係のない閣僚と会議デスクを間に向き合って座る記念写真のような画像が公開された。つまり、戦争開始の場面で副大統領が中心的役割を担っていないような印象を与えたのである。

その後もテレビのインタビューでは大統領の開戦決断を否定するような発言はしていないが、国民に積極的に戦争支持を訴える姿も見えない。これを書いている時点では地方の大学を回り、学生たちと討論する集まりに参加している。

「彼は、哲学的には私とは少し違っていたと言えるだろう。出撃については私よりもやや慎重だったと思う。しかし最終的には非常に積極的だった」

トランプ大統領自身も、副大統領が必ずしもイラン戦争に積極的だったわけではないことをこう認めている。

イラクでの実戦経験からか?“反介入主義”のバンス氏

バンス副大統領はオハイオ州の高校を卒業後、海兵隊に入隊。2005年から6カ月間イラクに派遣され、実戦を経験している。その過酷な経験からか、政治家として台頭する過程でも一貫して海外介入に懐疑的な姿勢を取ってきた。

2024年の大統領選でトランプ支持を早々に表明したが、その理由をこう説明していた。

「トランプ氏は一期目在任中の4年間、党内や政権内部からの強い圧力にもかかわらず、新たな戦争を一つも始めなかった」

しかし二期目のトランプ政権は、イラク核施設への空爆、ナイジェリアでの対過激派攻撃、さらに今年1月にはベネズエラでマドゥロ大統領を拘束する軍事作戦を実行している。そして今回のイラン攻撃である。

開戦直後、共和党議員や政権関係者が次々と支持を表明する中、SNSで頻繁に発信することで知られるバンス副大統領は約3日間沈黙を保った。共和党関係者の会合では「なぜバンスはツイートしないのか」という声まで出たと報じられている。

その後、FOXテレビのインタビューでバンスはこう語った。

「ドナルド・トランプが、この国を終わりの見えない戦争に巻き込むことなどあり得ない」

つまり、攻撃そのものは支持したものの、「終わりなき長期戦」にはならないという説明を強調した形だ。事態が長期戦に発展した場合の「弁解の余地」を残したとも言える。

関係者の証言を総合すると、政権内部でも当初バンスはイラン攻撃のリスクを指摘していたが、戦争が不可避と判断されると最終的には反対しなかったとされる。これは副大統領という立場を考えれば、むしろ自然な行動とも言える。歴史的に見ても、副大統領が外交や軍事問題で大統領と公然と対立する例はほとんどない。

次期大統領選への影響は

しかし問題は、この判断がバンス自身の政治的将来にどう影響するかである。

トランプ大統領は憲法上、2028年の大統領選には出馬できない。そのため共和党内では早くも「ポスト・トランプ」の争いが始まっている。現時点で最有力と見られているのはバンスだが、国務長官マルコ・ルビオの存在感も急速に高まっている。トランプ自身が共和党献金者に次期候補を尋ねた際、ルビオを推す声が多かったという報道もある。

イランへの軍事作戦で亡くなった兵士に敬意を表するトランプ大統領ら(デラウェア州ドーバー空軍基地・3月7日)
イランへの軍事作戦で亡くなった兵士に敬意を表するトランプ大統領ら(デラウェア州ドーバー空軍基地・3月7日)

こうした状況の中で、バンスは副大統領として大統領を支える必要がある。しかし、将来大統領を目指すなら、自身が掲げてきた反介入主義との整合性も問われることになる。

バンスがトランプ大統領と距離を置くのは政治的に得なのか、それとも逆に不利になるのか。その答えは、イラン戦争が短期で終わるのか、それとも中東の新たな長期紛争になるのかによって大きく変わる――と見る向きが多い。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。