全身の筋肉が衰えていく難病と闘う北九州市の小学校教師。合唱部の顧問を務める先生が全国大会への切符をかけ子どもたちと歩む姿に密着した。
7年前に筋萎縮性側索硬化症と診断
3年生から6年生の28人が所属している北九州市小倉北区の日明小学校合唱部。教室には子どもたちの明るい声が響く。合唱指揮する男性は、顧問を務める竹永亮太先生(35)だ。竹永先生は、筋肉が徐々に衰えていく難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症と診断されている。進行する病気と闘いながらも「合唱に自分の時間を使おうかなと決めて…」と子どもたちの前に立ち続けているのだ。
この記事の画像(10枚)「練習をやりたくないときもあるけど、先生がいたら明るくなって歌いたくなる」(4年生)。「先生がいるからこそ合唱が楽しくなるし、先生がもし辞めたらと考えると寂しくなるくらい大切な存在」(6年生)と子どもたちから慕われる竹永先生が難病と診断されたのは7年前、28歳のときだった。
「2018年の1月に、その2年前くらいに受けていた遺伝子検査の結果が返って来て…、その結果、遺伝子に“異常あり”ということで、これから症状が出て来るかもしれない(と医師から言われた)」と竹永先生は当時を振り返る。
ALS=筋萎縮性側索硬化症は、筋肉を動かし運動を司る神経が冒され、手足をはじめ呼吸に必要な筋肉も衰えていく病気だ。
「家族性ALS」病状は徐々に進行
竹永先生はALS患者のうち1割を占めるとされる「家族性ALS」と診断されている。「祖父の闘病も見てきたし、母も現在、病気で生活している。小さいときからなので、何となく幼いながらに自分もいつかなるのかなと、覚悟じゃないけど、常にあったような…。今年は転ぶことが多くなりましたね。ちょっとした段差でつまずいたり、ズボンが破けて血が出るくらい転んじゃったりとか」と病気について語る竹永先生。病状は徐々に進行し、左足のみに出ていた症状が右足にも見え始めていた。
竹永先生を最も近くで支えている妻の三央さん。「病気が進んでいくと、どうやって介護していくか、まだ想像はできていないので壁にぶつかることはあると思うんですけど、ご両親とか介護の経験があるので相談しながら頑張っていけたら」と三央さんは話す。
子どもたちと目指す全国大会出場
難病と闘う竹永先生がこの秋、合唱部の部員たちと目指すのは全国大会出場だ。「今年のテーマというか課題は心がひとつにならないというか、気持ちが入りきらないときがある」という。部員の半数は6年生。1人1人の力量は十分な一方で、全体で揃えるという意識が薄くなる場面もあるというのだ。
九州大会を前に厳しい指導が続く。居残り練習が続いた。竹永先生は「気持ちが入ったときは、ものすごい力を発揮するので、今年はいちかばちかの年だな」とその頃を分析する。
そして迎えた宮崎市での九州大会。部員たちは本番直前まで息継ぎのタイミングや担当パートごとに音程を確認していた。「3年連続で金賞とりたい」(4年生)。「世界一楽しく明るく心を込めて歌えたらいいなと思います」(6年生)と意気込む子どもたちを。竹永先生は「子どもたちも不安なところとかあるみたいですけど、胸を張って堂々と歌って欲しい」と送り出した。
「何度も足に力を入れなおして…」
しかし想像もできないほどの重圧や疲労のためか、指揮をとる竹永先生の足元がふらつく。「膝が折れて倒れるんじゃないかと後半ずっと続いていて、そのたびに子どもたちが笑顔で一生懸命、歌ってくれていたので、何度も何度も足に力を入れ直して、最後までなんとか立って指揮をすることができました」と話す竹永先生。子どもたちの素晴らしいハーモニーがステージ上の竹永先生を支え続けたのだ。
「とにかく楽しく歌えました」(6年生)。「めちゃくちゃ楽しかった。これは絶対、金賞」(4年生)。
最高の誕生日プレゼントに
そして迎えた結果発表。司会者の声がスピーカーから流れる。「金賞は、北九州市立日明小学校合唱カンパニーゴールド!」結果は見事に金賞。出場した29校中8校のみに与えられる「全国大会」への切符を手にした。
「竹永先生を全国大会へ連れて行ってあげられるのがとても嬉しいです」と素直に嬉しさを口にする子どもたち。竹永先生も「一番、特等席で、一番、近いところで、あの笑顔と歌をきけたから幸せだなと思いながら指揮を振ってました」と喜びを隠さなかった。実は、九州大会の当日は竹永先生の35歳の誕生日。最高の誕生日プレゼントになったようだ。
全日本合唱コンクールは11月17日に福島・郡山市で開催される。竹永先生と子どもたちがともに創るハーモニーが九州から全国へと広がっていく。
(テレビ西日本)