基準を満たした車両なら免許なしで運転できる電動キックボード。福岡の街なかでもあちらこちらで見かけるようになり、普及が進んでいる。時速6キロ以下で歩道も走行可能な手軽さが人気のようだ。しかし一方では、歩行者が“ヒヤリ”とするケースが増えている。
この記事の画像(11枚)福岡県内では2024年3月からシェアリングサービスが始まり、現在、ポート(電動キックボードなどの貸し出しと返却を行う場所)の数は福岡市内で400以上。若者を中心に新たな移動手段として急速に利用が拡大している。
歩行者にとっては危険な瞬間も
利用者に話を聞くと「手軽だし、ちょっと早く行きたいというときに便利」(男性)や「タクシーじゃちょっとお金かかりすぎるなってときに使います」(女性)と誰もが手軽さを強調する。
その人気の一方で、問題も浮き彫りとなっている。試乗した記者は「地面からの振動が伝わりふらふらして、一定のスピードで走るのは難しい」と路面の状況によってバランスが取りづらいことも実感していた。
歩行者に話を聞くと「1回ひかれそうになった。歩いてたら後ろから来てて気づかなくて『わっ!』となった」と話す女性や、「結構、スピード出るじゃないですか。原付だったらある程度、見えるんですけど、幅感も狭いので見えにくくて危ないですね」と話す男性もいた。歩行者にとっては危険な側面もあるようだ。
「逆走」状態で事故 歩行者は骨折
2024年2月、愛知県内で事故が発生した。歩道を歩いていた男性が道路を横断しようとした次の瞬間、後方から走ってきた電動キックボードにはねられ男性は道路に倒れ込んでしまった。
倒れた男性がよろめきながら起き上がると、男は再び電動キックボードに乗って走り去ってしまった。事故があった現場は一方通行の道路で、電動キックボードは「逆走」の状態だったのだ。被害者の男性は骨折などの重傷を負った。
電動キックボードと歩行者の事故について行われた危険性検証の実験によると、時速20キロの電動キックボードと衝突したら、衝突の瞬間、歩行者が受ける衝撃値は『73.7』という値。さらにその後、地面に頭を打ち付けたときの衝撃値は『7000』近くに上ってしまう。重篤なけがにつながる恐れが十分にあるのだ。
歩行者が受ける衝撃について、実験に協力した名古屋大学大学院工学研究科の水野幸治教授は「頭部傷害値が『1000』を超えると重篤なけがを受ける可能性が高くなります。『2000』とか『3000』を超えると頭蓋骨の骨折とか脳挫傷といった障害が発生する」と警鐘を鳴らす。
また運転する人間にとって危険なのは、段差のある場所を走行するケースだ。電動キックボードは、高さ10センチの縁石に引っかかっただけで転倒してしまう。
電動キックボードは、タイヤが小さいために段差を越えられないのだ。どのくらいの段差だと越えられないのか水野教授に聞くと「タイヤの半径を超えると乗り越えられない」という。
後を絶たない交通違反
電動キックボードの危険性が指摘されるなか、利用者の交通違反が後を絶たない。警察庁によると2023年7月からの1年間で検挙されたのは約2万5000件。その半数ほどが、時速6キロを超えるスピードで歩道を走行するといった通行区分に関する違反で、約3割が信号無視だった。
なかでも県内で問題となっているのが、電動キックボードの飲酒運転だ。福岡県警によると県内で2024年8月までに電動キックボードの飲酒運転で検挙されたのは28人で、うち6人が逮捕されている。逮捕された容疑者は「酒は抜けていると思った」などと供述しているという。
福岡県警交通企画課の井上敬警部は「気軽に乗れる乗り物と思って、法を軽視する違反者が多いというのが現状。交通ルールを正しく守らなければ大変、危険な乗り物となってしまう。特に飲酒運転は重大な事故に直結する悪質な行為となりますので、正しい交通ルールを守って運転していただけたらと思います」と話す。
その利便性の高さから普及が進む電動キックボード。一歩間違えれば重大な事故につながるそのリスクについて、いかに認識を高めるかが課題となっている。
(テレビ西日本)