8年前の米大統領選挙で、唯一トランプ氏の当選を的中させた世論調査会社が、今回もトランプ氏のカムバックを予測した。

スイング・ステート6州で勝利?他世論調査は“真逆”の結果

ジョージア州アトランタ市のトラファルガー・グループがその世論調査会社で、別の調査会社インサイダー社と共同で、8月6~8日の間、選挙の行方を左右するいわゆるスイング・ステート7州で有権者の意向を調査した。

その結果、今選挙が行われれば、トランプ氏はミシガン州は失うものの、残る6州では民主党のカマラ・ハリス副大統領に勝ち、伝統的に勝敗の帰趨(きすう)が決している他州の選挙人と合わせて297人対241人で当選するということになった。

7州の結果は以下の通り。(※かっこ内は選挙人数、敬称略)

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【トラファルガー/インサイダー共同調査】
ネバダ州(6人) トランプ:48% ハリス:45%
ペンシルベニア州(19人) トランプ:46% ハリス44%
ウィスコンシン州(10人) トランプ49% ハリス48%
ジョージア州(16人) トランプ49% ハリス47%
ノースカロライナ州(16人) トランプ49% ハリス45%
アリゾナ州(11人) トランプ48% ハリス47%
ミシガン州(15人) ハリス49% トランプ47% 

しかし、ほぼ同時期に行われた米国の他の世論調査では全く逆の結果が出ている。

【NYタイムズ/Siena大学共同調査】
ペンシルベニア州 ハリス50% トランプ46%
ミシガン州 ハリス50% トランプ46%
ウィスコンシン州 ハリス50% トランプ46%

【ブルームバーグ通信/Mmコンサルタント共同調査】
ノースカロライナ州 トランプ48% ハリス46%
ネバダ州 ハリス47% トランプ45%
アリゾナ州 ハリス49% トランプ47%

【Public Policy Polling調査】
ジョージア州 ハリス48% トランプ47%

ノースカロライナ州以外では全てハリス副大統領が勝ち、選挙人合わせて77人を獲得して全米では296人対242人となり、ホワイトハウス入りを果たすということになる。

他者の調査と異なることに意味

米国での世論調査は主に電話で行われ、あらかじめ準備した「あなたは誰に投票しますか?」などという質問表に沿って回答してもらうが、トラファルガーの質問票は多岐にわたり、電話以外にも電子メールやメッセージでやりとりをしながら回答を得ているという。

トラファルガー・グループはその質問表を公表しないが、「トランプ氏を支持する」とは表立って言うのを控えながらも、投票所ではトランプ氏に投票するような「恥ずかしがりや」の有権者の本音を捉えることや、社会的に望ましい考え、例えば「人種偏見は誤っている」と言いながらも黒人優遇策に反対する候補者に投票するような有権者の偽善を暴く仕組みが組み込まれているのだという。

これで同グループの調査結果が他社の世論調査とは異なった結果を導き出すことになるようだが、それが最も顕著に現れたのが2016年の大統領選挙だった。

この年の大統領選挙は、ビル・クリントン元大統領のファーストレディ、ニューヨーク州選出の上院議員、オバマ政権の国務長官と余りすぎるほどの経歴に飾られたヒラリー・クリントン氏に対して、政治経験のないプレーボーイとも蔑まれたドナルド・トランプ氏では勝負にならないという前評判で、さまざまな世論調査も米史上初の女性大統領の誕生を予言していた。

ところがトラファルガー・グループだけは、トランプ氏の勝利を予測。その根拠としてトランプ氏はノースカロライナ州、アリゾナ州、ミシガン州でクリントン氏を2~3ポイントリードしていることをあげ、トランプ氏の獲得選挙人も306人と的中させた。(ニューヨーク・タイムズ紙電子版・2020年11月8日)

トラファルガー・グループのHPより
トラファルガー・グループのHPより

トラファルガー・グループは予測を的中させた秘訣を明らかにしていないが、いわゆる「隠れトランプ」有権者を見つけたことが正確な予測に繋がったと言われ「トラファルガー方式」の世論調査ににわかに注目が集まることになった。

続く2020年の大統領選挙でもトラファルガー・グループは、民主党予備選挙で当初低迷していたジョー・バイデン氏の圧倒的な勝利を予測して的中させた。しかし、本戦ではトランプ氏がいわゆるスイング・ステートでことごとく勝利して当選すると予測しながら誤るのである。

この時の誤りについてトラファルガー・グループはその原因を明らかにしていないが、トランプ氏がもはや「異端の政治家」ではなくなり「隠れトランプ」有権者が予想以上に減っていたのではないかとも言われた。トラファルガー・グループとしては当然そうした教訓も織り込んで2024年の調査を行ったはずなので、改めてその精度が気になるが、こればかりは選挙の結果が出ないと判断できない。

トラファルガー・グループは“トランプ氏カムバック”を的中させるのか?
トラファルガー・グループは“トランプ氏カムバック”を的中させるのか?

ただ、その結論が出る前に言えることは、トラファルガー・グループの予測は、他の世論調査と異なることに意味があるということではなかろうか。それは、米国のマスコミが特定の陣営を支持して偏った情報を流す中、大統領選挙を複眼的に分析することを促してくれるからだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン・図解:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。