長崎に住むウクライナ人留学生が戦争だけではない自国の文化の魅力を知ってほしいと活動している。長崎から100年続く日本とウクライナの文化の懸け橋を作りたいと若者とも交流している。

戦争だけではないウクライナ

長崎に住むウクライナ人のアナスタシア・ストラシコさん(25)は長崎大学大学院で学ぶ学生だ。日本とウクライナの文化の類似点を見つける研究をしている。

ウクライナ人留学生 アナスタシア・ストラシコさん
ウクライナ人留学生 アナスタシア・ストラシコさん
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現地の大学で日本文化を専攻していたアナスタシアさんは戦禍を逃れ、2022年秋、長崎にやってきた。

アナスタシアさんにはもう一つの顔がある。それはウクライナの伝統工芸品や民族衣装を紹介することだ。

もう一つの顔はウクライナの文化発信
もう一つの顔はウクライナの文化発信

「ウクライナは戦争だけではない。ウクライナ人は本当に面白いものを作っている、それも知ってほしい」とアナスタシアさんは話す。活動を通してウクライナの文化を日本に紹介し、戦争のイメージだけでなく、豊かな文化を知ってもらいたいと思っている。

ウクライナからの避難と挑戦

アナスタシアさんは、ウクライナ東部の都市ドニプロ出身だ。ロシアによる軍事侵攻が始まった際、祖母や母、弟と共に一時、隣国のジョージアに避難した。

アナスタシア・ストラシコさん:
ロシアの兵士がドニプロまであと何キロのところにいるとか、10分ごとにスマホで惨劇の状況をチェック。戦争が始まった頃の2カ月は夜と朝がなかったぐらいだった。

ドニプロは空襲警報のアラートが毎日鳴っている。アナスタシアさんの身内の多くの男性は戦闘が行われているバトルに向かったという。

23歳のいとこは戦闘で半年前に亡くなった。

アナスタシアさんはその後日本に渡り、長崎で新たな生活を始めた。

そこで感じたのは「ウクライナの文化がロシアの文化と混同されていること」だ。日本での活動を通じてその誤解を解きたい。同時に「ウクライナ=戦争」としか見られないことにも危機感を感じ、それを払拭するためにも母国の文化を正しく広め、日本人にウクライナのことを好きになってほしいと思っている。

母国文化の発信と経済に貢献したい

アナスタシアさんが目を付けたのは、伝統刺しゅうを施した民族衣装「ヴィシヴァンカ」だ。

多くの人がファンになってくれたらと、オンラインショップ「UA.Designer」を立ち上げたのだった。

ショップでは「ヴィシヴァンカ」をはじめ、ユネスコの無形民俗文化遺産に登録されている「ペトリキウカ塗り」の工芸品の輸入や販売をしている。

ヴィシヴァンカはウクライナの30人以上のデザイナーに依頼。
日本人が着やすいように色合いやサイズ、デザインをアレンジして販売している。

長崎を象徴する「鳩」をイメージ
長崎を象徴する「鳩」をイメージ

ショップはウクライナ文化を広めるだけでなく、経済活性化の一助にもなればと、服に使う素材やボタンなどを現地で調達して作っている。

サポートするのは旧ソ連圏での貿易経験もある高見翔希さん(27)だ。6月には法人化も完了させ、活動の幅を広げようとしている。

高見さんは「ビザの問題はあるものの、今後もっとウクライナ人が日本で活躍できるように彼らを雇用して、より活動しやすい環境を整えていきたい」と話す。

長崎とウクライナの架け橋

アナスタシアさんの活動は、長崎の若者たちにも影響を与えている。

長崎の高校生との交流も
長崎の高校生との交流も

長崎の高校の生徒たちはアナスタシアさんと交流し、ウクライナについての発表を行った。

生徒たちはアナスタシアさんと話したことで「ウクライナを戦地だと思っているのは第三者である私達だけであって、当事者である彼らにとっては何物にも代えがたい故郷だったんだと気づかせてもらった」と発表した。交流で生徒たちがウクライナ文化の魅力を感じ理解を深めてくれたことに、アナスタシアさんは「学生の活動はとてもありがたい」と喜びを隠せない。

このつながりが、さらに嬉しい出来事を呼び込んだ。
発表した生徒が家族を連れてアナスタシアさんの出店にヴィシヴァンカを買いにきてくれたのだ。

母娘は「刺繍やデザイン、色合いがとってもかわいい」と楽しそうに買い物をした。生徒は「ウクライナの現状は最近ニュースでもあまり注目されなくなったから、もっと色んな人が関心を持ってくれたらいいと思う」と話す。

アナスタシアさんもその様子を見て嬉しく思ったのと同時に、選んでくれた服が一番伝統的なものだったことに、自国の文化の良さを理解してもらえたようでホッとしていた。

長崎から平和を祈る

まもなく8月9日の原爆の日を迎える被爆地・長崎。ウクライナでも被爆後の長崎の惨状はよく知られている。

アナスタシア・ストラシコさん:
長崎は二度と同じ悪い経験を繰り返さないと約束した街。ウクライナは核で脅かされる国だけど、私はいつも平和公園に行くと、いまだに世界で戦争が繰り返されていることにたくさんの「ごめんなさい」の気持ちがある。

平和を願い、発信を続けるアナスタシアさん。侵攻が終結したら、日本や長崎の文化をふるさとに輸出するという夢を描いている。長崎から100年続く日本とウクライナの文化の懸け橋を作りたい。アナスタシアさんの活動は、ウクライナの文化を日本に広めるだけでなく、両国の理解と友好を深める重要な役割を果たしている。

(テレビ長崎)

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