長野県中野市で4人が殺害された事件から5月25日で1年。住民の女性2人と警察官2人がナイフや猟銃で殺害され、地域に大きな衝撃を与えた。その後、青木政憲被告(32)が殺人の罪などで起訴された。担当の弁護士によると、現在、県内の収容施設で植物の本や車の本を読んで過ごしていて、体調に変化はない。両親とは一度も接見していないという。また、事件についても語らず被害者への謝罪の言葉もないという。現在も裁判の日程は決まっておらず、なぜ事件を起こしたのか真相は分かっていない。専門家は「社会から孤立し、自暴自棄となって凶行を起こす『ローンオフェンダー』の特徴がある」と話している。
「ぼっち」という言葉に敏感
(被告の供述より)
「ぼっちとばかにされていると思った」
ウオーキング中の女性2人を殺害した動機について、警察にこのように話していた青木被告。しかし、女性2人とは面識はなく、一方的な思い込みとみられている。
この記事の画像(11枚)また、担当弁護士によると、収監されていた留置施設でも「監視員からぼっちと言われた」などと話していたという。
独りぼっちを意味する「ぼっち」。
被告はこの言葉に敏感だったという。
自暴自棄型「ローンオフェンダー」
日本大学危機管理学部・福田充教授:
「孤立していく中で地域のコミュニティーの住民から、自分はばかにされているのではないだろうかということを思い込む、妄想として持ってしまったことが今回の事件の背景にあると思う」
テロ犯罪などを研究する日本大学危機管理学部の福田充教授。青木被告の犯行は「ローンオフェンダー」の特徴があると言う。
日本大学危機管理学部・福田充教授:
「今回の犯罪についてローンオフェンダーであることは間違ないが『自暴自棄』犯罪に近いタイプのローンオフェンダーだというふうに思う」
「ローンオフェンダー」は、組織に属さない個人が単独でテロ行為に及ぶことを指す。
福田教授によると、政治的思想が動機になる「テロリズム型」。差別的思想を持つ「ヘイトクライム型」。個人的感情から他者を巻きこむ「自暴自棄型」の3つに分かれるという。
2022年の安倍元首相銃撃事件は「テロリズム型」。
2008年に17人が無差別に襲われ死傷した秋葉原通り魔事件、2019年に36人が死亡した京都アニメーション放火事件は「自暴自棄型」。
「社会に恨みをため込み…」
青木被告の犯行も「自暴自棄型」に分類されるとしている。
日本大学危機管理学部・福田充教授:
「自分自身はどうなってもいい。社会に恨みをどんどんため込んでしまう。自分が悪いのではなく社会、友達、家族が悪い。それに対してどうにかして復讐してやろうという気持ちの中で、過激化して自暴自棄になり、そして恨みを持ち起こした犯行だというふうに解釈することができる」
大学時代にいじめ…
なぜ、青木被告は社会的に孤立し「ぼっち」という言葉に敏感になったのだろうか?
中学校時代は野球部に所属していた被告。
友人もいてチームメートは「中心になるような人ではなかったが、普通のどこにでもいる中学生だった」と話している。
その後、県内の高校を卒業し、東京の大学に進学する。しかし、中退して地元に戻ってきた。
ブドウなどの農作物を育てていたが、近所付き合いはほとんどなかったという。
捜査関係者によると、被告は「大学時代にいじめに遭い人間関係が苦手になった」と話していたという。
被告の母親も「大学時代のいじめの経験から『ぼっち』という言葉に過剰に反応するところがあった」と警察に説明したということだ。
福田教授は、「孤立」を気にする人がローンオフェンダーになる直接的な因果関係はないとした上で次のように話す。
孤立する人が生まれない社会環境を
日本大学危機管理学部・福田充教授:
「ローンオフェンダーというもの自体が一人で行動して、一人で犯行を実行するという傾向があるので結果的に独りぼっちであり、そして孤立している人がローンオフェンダーになりやすいという傾向はあると思う」
ローンオフェンダーによる凶行を防ぐために、福田教授は孤立する人が生まれない社会環境を整えることが重要だと話す。
日本大学危機管理学部・福田充教授:
「コミュニティーがいま希薄化していることが問題になっているが、それは都市でも地方でも起こっている。社会、職場、地域から孤立する人をつくらないということが一番大事なテーマ」
(長野放送)