長野県中野市で4人が殺害された事件から5月25日で1年。住民の女性2人と警察官2人がナイフや猟銃で殺害され、地域に大きな衝撃を与えた。その後、青木政憲被告(32)が殺人の罪などで起訴された。担当の弁護士によると、現在、県内の収容施設で植物の本や車の本を読んで過ごしていて、体調に変化はない。また、両親とは一度も接見していないという。被告は事件についても語らず被害者への謝罪の言葉もないという。現在も裁判の日程は決まっておらず、なぜ事件を起こしたのか真相は分かっていない。一方、被告の両親は突然「加害者の家族」という立場に置かれ、この1年、苦しい日々を送ってきたことが支援団体への取材でわかった。命を絶とうと考えたこともあったという。

青木政憲被告
青木政憲被告
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被告の両親は「憔悴しきった様子」

2023年夏、NPO法人「ワールド・オープン・ハート」の理事長・阿部恭子さんの携帯電話が鳴った。

掛けてきたのは青木被告の家族だった。

「かなり憔悴しきっているなという印象。すごく本当に思い詰めていらっしゃったと思います」と、当時の被告の家族の様子を話す。

NPO法人ワールド・オープン・ハート 阿部恭子さん
NPO法人ワールド・オープン・ハート 阿部恭子さん

加害者家族の支援を目的にNPO設立 

2008年、仙台で設立されたNPO法人「ワールド・オープン・ハート」。当時、大学院生だった阿部さんが有志と共に、加害者家族の支援を目的に立ち上げた。

当初、阿部さんは被害者支援を研究していたが、非難や差別を受ける加害者家族の実情を知り、支援の必要性を感じたと言う。

阿部さんは「多くの方が直接攻撃されたり、加害者家族になったら市民の一人ではないような、市民権がなくなってしまったような感覚になっていて、日常生活を続けてはいけないんじゃないかと。(加害者家族自身が)そういう罪責感を持たれると思う」と話す。

NPO法人ワールド・オープン・ハートのホームーページ
NPO法人ワールド・オープン・ハートのホームーページ

「殺人事件の加害者家族」からの相談

2023年3月までに寄せられた相談は3000件余り。最も多いのは「殺人事件の加害者家族から」で、全体の2割ほどを占める。

相談内容は家族にどのような事態が起こるのか、まず事件後の展開を尋ねるケースが多いという。

実際、事件によって外出が困難になったり、家族関係が悪化したりと多くの場合、生活が一変するそうだ。

「殺人事件」の家族からの相談が最も多い
「殺人事件」の家族からの相談が最も多い

阿部さんは被害者家族がおかれる状況や心情について「事件の大きさに関わらず、外出しにくいと言われる方がたくさんいて、人の目が気になる。なので公の場に出にくいとか、多くの方が報道対応に困っている、いつまで追いかけられるんでしょうみたいな。多くの方は一生追いかけられると思っている。これから自分がどうなるのだろうという不安、将来への不安も抱えると思う」と話す。

相談を受けた阿部さんたちは助言だけでなく、必要に応じて転居や就労の支援、マスコミ対策もしている。

相談内容は多岐にわたる
相談内容は多岐にわたる

青木被告の両親にも助言重ねる

青木被告の両親は、知人から阿部さんたちの活動を教えてもらったという。最初の電話があってから、阿部さんたちは助言を重ね、直接、長野に出向いたこともあったと言う。

阿部さんは青木被告の両親に対し「まずはどうやって罪を償っていくか、どうやって罪を償っていく人を支えていくか。他の大きな事件の加害者家族と会って、気持ちを分かち合ってもらったりしている」などの対応をとっているという。

NPO法人ワールド・オープン・ハート 阿部恭子さん
NPO法人ワールド・オープン・ハート 阿部恭子さん

命絶つことも考えた両親…

自責の念に駆られ、両親は一時、命を絶つことも考えていたという。

「被害者に対して『本当に申し訳ない』という気持ちは拭えない。私たちとしては、自ら命を断つとかそういうことではなく、一緒に前を向いて、『なぜこういう事件が起きてしまったのか』ずっと考え続けていくということが大事」と阿部さんは話す。

その後、両親は被害者への損害賠償も念頭に仕事を始めたという。

阿部さんは「(親として)生きるということが償いという意識は、少し持たれているかなと思う」と感じたという。

事件現場にもなった中野市の「自宅」
事件現場にもなった中野市の「自宅」

事件から5月25日で1年。

住民の一人は、事件から1カ月ほど経ったころの両親の様子を今も覚えている。

「挨拶というか、謝りに『ご迷惑をおかけしました』と一軒一軒回られた。本当に憔悴していた。見ていて、かわいそうなぐらい。でも、それ以上に亡くなられた人の方がもっとひどい」と住民は話す。

現在の事件現場周辺(22日)
現在の事件現場周辺(22日)

供養の「観音様」を建立

5月中旬、両親は自宅近くの敷地に石像を建てた。

立ち会った住民によると、石像は「観音様」で、亡くなった4人を供養するために建てられたという。

両親が建てた「観音様」
両親が建てた「観音様」
これまでの経過
これまでの経過

(長野放送)

長野放送
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