3月21日からカナダ・モントリオールで行われる世界フィギュアスケート選手権。
この舞台に2年ぶりに帰って来るのが、2月の四大陸選手権で今季世界2位の点数(307.58点)を叩き出して優勝した鍵山優真だ。
フィギュア界の勢力図は激動の時代へ
鍵山は去年12月の全日本選手権で、世界で最も熾烈(しれつ)と言われる代表争いを戦い、宇野昌磨、三浦佳生とならんで出場権をつかんだ。
一方、世界に視線を移すと、彼の前にはさらに大きなライバルたちが存在する。
“4回転の神”こと、アメリカのイリア・マリニンだ。

去年のグランプリファイナルでは、宇野を2位、鍵山を3位に退けて優勝。
6本組み込んだ4回転ジャンプのうち5本を成功させ、世界選手権2連覇中の宇野に、17点もの差をつけた(314.66点)。
さらに彼らと同じく300点超えの高得点を叩きだす、フランスのアダム・シャオ イム ファもパワーアップしてこの世界選手権に乗り込んでくる。

今年の世界選手権は、一つのミスが命取りになりかねない、近年まれに見るハイレベルな戦いが待ち受ける。
“300点台をめぐる争い”に、果たして鍵山はどう立ち向かっていくのか。
北京五輪銀メダリストで、世界選手権でも2度、銀メダルを獲得している鍵山の今シーズンの成長と、この戦いに向けた戦略を取材した。
磨いた表現力が評価されるように
「ショートもフリーも、非常に満足のいく演技ができたと思います。
フリップも、しっかりと締めた形で挑戦できたので、すごく手応えを感じた試合でした」

こう四大陸を振り返った鍵山は、今シーズン世界2位の点数が出たことを「驚きましたが、改めてプロトコルスコアを見たら、まあこんなもんかという感じでした。
4回転フリップがステップアウトしても200点を出せたのは、他の技術でしっかりとまとめられたからだと思いました。そこはしっかりと練習通りできて、悪くない点数だったと思います」と自身を評価。

今シーズンから、カロリーナ・コストナーコーチが加入したことにより、鍵山の表現力はさらに向上。それが国際大会での評価にもしっかりと現れていた。
「決まったジャンプをすごく評価していただいたのは、すごくうれしいです。でも、僕としては、ショートもフリーもステップで一番評価が高かったことがうれしくて。
今シーズンはプログラムの完成度や表現力をすごく意識してきた。一番の見どころである、後半のステップシークエンスで加点をいただけてよかったです」

鍵山にとって今シーズンはケガからの復活のシーズンでもあったが、「超進化」ということも掲げていた。
そして、四大陸選手権で優勝した後は「ここからがスタートラインだ」と世界の頂点を見据えていた。
父も予想外だった鍵山の活躍
そしてもう一人、カロリーナ・コストナーコーチが加わったことが「大きな影響を与えている」と語るのが、鍵山の父でありコーチを務める正和さんだ。
「間違いなく彼女の存在は大きいです。技術だけでなく彼のスケートスキルを生かしてステップシークエンスやコレオ、スピンの評価につながってきていると思うので、心強いです」

今シーズン、鍵山の活躍ぶりはそばで見守ってきた正和さんからしても驚きだという。
「まさかここまで彼が活躍するとは全然考えていなかった。ちょっと予想外の展開ですがうれしいこと。
スケートに対する気持ちはずっと変わっていないと思いますが、向き合い方が強く変わったと近くで見ていて感じます」
食事やトレーニングを含めた私生活でも「スケートをやるために他の時間を大切にすることがすごく変わり、一つ一つの行動にこだわるようになった」と話す。

息子の成長ぶりに驚きを隠せない正和コーチ。
シーズン最終戦の世界選手権までの道のりも正和コーチは想定外だったと話す。
「世界で一番になれたらうれしいですし、それが目標でもあります。ですが、今シーズンは世界一を目指せる位置に来ることができるとは思ってなく、あれよあれよという間に出る試合、出る試合でメダルを獲って、GPファイナルにも出て表彰台に立って、全日本も優勝を狙おうかという位置まで来ることができて」
続けて「本当は来シーズンに向けて少しずつエンジンをかけていければ、と思っていた。
世界選手権でも全日本でも優勝を狙える位置に立てるところまでになるとは思っていなかったので、その言葉を言えるだけで僕は満足している。
だから、世界選手権では悔いのないように試合をしてもらって、次のシーズンを迎えられれば」とエールを送った。

一方の鍵山は、世界選手権に向けてエンジン全開だ。
「常に上を見上げて、“挑戦者の心を持つ”ことを意識している。四大陸も全日本もそうでしたけど、変わらず強い気持ちでやっていきたい」
自身を“挑戦者の立場”で戦うと話した鍵山。今回の世界選手権をどう立ち向かっていくのだろうか。
4回転の少なさを加点でカバーしたい
「すごく楽しい試合になると思っています。四大陸は“勝つ”という強い気持ちを意識しながらやって、うまくいった。
自分のやるべきことに集中して、ショートもフリーも揃えるということを意識してやっていきたい」
周囲の選手をあまり意識することなく「周りの雰囲気に飲み込まれないように、自分のペースでやっていきたい」と考えているという。

「僕は他のトップ選手に比べて4回転がまだ少ない。
そこで自分にできることは、4回転の質を上げることはもちろん、ジャンプ以外の技術で全て1位を取るぐらいの勢いで、そういったクオリティーでやっていきたい。
4回転が少ない部分を、他の技術の加点など、そういった点数の積み重ねをしていきたい」

4回転ジャンプの種類は宇野昌磨が4本、イリア・マリニンが6本、鍵山は3本と少ない。
だからこそ、鍵山は一つ一つのエレメンツの加点で勝負すると意気込む。
そして、「目指すは満点です」と続ける。
「もちろん優勝したいし、『優勝したい!』という強い気持ちを持ってやります。でも、常に挑戦する気持ちを忘れずに、120%の演技をして、四大陸に引き続き、いい演技をしていきたい」
極めたスケーターのみが到達できる領域。
完璧な演技によって、技の種類を表現力が凌駕する瞬間が来るかもしれない。
世界フィギュアスケート選手権2024
3月22日(金)男女ショートよる7時~
3月24日(日)男女フリーよる7時~
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html