同じダイエット方法を同じように実践しても、人によって効果が出たり出なかったりするのはなぜ?運動量も食事内容も自分とは大きく変わらないはずなのに、あの人が太らないのはなぜ?
そんな疑問を抱いたことはないだろうか。その違いには、それぞれの体質や「肥満遺伝子」が関係しているかもしれないという。
効率良くダイエットを進める手助けになるかもしれない「肥満遺伝子」について、MYメディカルクリニック横浜みなとみらいの山本康博院長に話をきいた。
何タイプ?自分の「肥満遺伝子」をセルフチェック
肥満遺伝子とは、基礎代謝量や、脂質・糖質の代謝に関与する遺伝子タイプのことを指す。
山本院長によると、この肥満遺伝子は血液型のように人によって明確に違うという。タイプによって体脂肪の蓄積やエネルギー代謝に違いがあるため、同じダイエット方法を実践していても、結果が異なることがあるのだ。
肥満遺伝子のタイプは、大きく3つに分けられるという。
お腹周りが太りやすい「リンゴ型」、下半身が太りやすい「洋ナシ型」、手足が細く脂肪や筋肉が少ない傾向にある「バナナ型」だ。
自身がどのタイプなのか正確に判定する「遺伝子検査」については後述するとして、先ずはセルフチェック方法をご紹介しよう。
以下の7つの質問について、自身に最も近い特徴だと思う回答をA・B・Cからひとつ選択してほしい。山本院長によると、どの記号が一番多かったかによって、遺伝子タイプが一定程度、推測できるという。
Q1:通常、あなたが好んで食べるものは?
A ごはん、パン、パスタなどの主食系
B 炒め物や揚げ物、肉などの脂っこいもの
C 野菜や海藻などのヘルシーなもの
Q2:食べる量と太りやすさの関連性は、どれに近い?
A よく食べて、その分太る
B 普通または小食だが、太りやすい気がする
C 小食または大食いだが、どのみち太らない
Q3:あなたの体型の特徴は、どれに近い?
A 上半身がふっくらの逆三角形
B 下半身がふっくらの三角形
C 全体的にほっそりの直線的なかたち
Q4:あなたの性格はどれに近い?
A 細かいことは気にしない、マイペース
B のめり込みやすく、自分の考えは曲げない
C 細かいことまで気になる、完璧主義
Q5:普段の体調で悩んでいることは?
A すぐ太る
B 足がむくむ
C 胃腸が弱い
Q6:「太った!」と感じるきっかけは?
A ベルトやズボンのウエストがきつくなった
B お尻や太もも、脚がムチムチしてきた
C 見た目よりも、体脂肪率が高くなった
Q7:ダイエットにまつわる悩みで近いものは?
A 一時的には痩せるが、すぐにリバウンド
B 結果がなかなか出ず、挫折する
C ダイエットは必要ない もしくは 年齢を重ねると急に太りやすくなった
Aが最も多かった人は「リンゴ型」、Bが最も多かった人は「洋ナシ型」、Cが最も多かった人は「バナナ型」の可能性が高い。最も多い記号が同数だった場合は、2つのタイプの中間の位置にいる可能性がある。
タイプごとの特徴と適したダイエット法は
遺伝子タイプが異なれば、効果的なダイエット方法も異なる。3つのタイプの詳しい特徴と、それぞれに適したダイエット方法を見ていこう。
2つのタイプを持っている人は、両方の対策をバランスよくこなして欲しい。
【リンゴ型】
お腹まわりが太く、内臓脂肪が増えやすい。男性によく見られる。
アドバイス:
糖質分解力が弱いため、食事のコントロールが重要となる。かといって糖質制限は健康に悪影響を与える可能性があるため、バランスの良い献立を意識するのが良い。 野菜やスープから始め、糖質の多いものは最後に食べるといった工夫も◎。
内臓脂肪を効果的に燃焼する、有酸素運動がオススメ。
【洋ナシ型】
下半身に脂肪が集中し、皮下脂肪が増えやすい。基礎代謝が低め。女性によく見られる。
アドバイス:
脂質の摂取を抑えるため、脂肪の多い食事を減らすのが有効。暴飲暴食など、食事の量にも気をつけて。がんや婦人科系の疾患に注意。
筋肉トレーニングと有酸素運動を組み合わせると、効果が高まる。
【バナナ型】
脂肪や筋肉が少なく、手足が細い。ヘルシーな食事好きで、基礎代謝が高め。一方で筋肉がつきにくいため、一度太ると痩せにくい。
アドバイス:
栄養バランスを考えつつ、規則正しい食事を心がける。筋肉をつけるトレーニングが有効。 便秘や低血圧に注意。
筋肉がつきにくいため、適度な負荷をかけたウエイトトレーニングがオススメ。
ダイエット目的の遺伝子検査 注意点は
自分の肥満遺伝子タイプを推定するのではなく、検査をして正確に知りたいという人もいるかもしれない。ダイエットに特化した遺伝子検査は、どうしたら受けられるのだろうか。
「一般的には、専門の機関や会社が提供するサービスを利用します。自宅で唾液や、頬の内側の細胞を綿棒でこすりとるなどして採取し、それを指定された機関に送付する形式が一般的です。
その後解析された個人の肥満遺伝子タイプに基づき、最適な栄養摂取や運動プランが提案されます。この提案を参考にして、自分に適したダイエット戦略を立てられる可能性があるのです」(以下、山本院長)。
良いことばかりに思えるダイエットの遺伝子検査だが、あくまで「可能性」というのには理由がある。まだ肥満遺伝子の研究が始まって間もないため、科学的な裏付けが不十分な場合もあり得るというのだ。
「個別最適化が可能というメリットがある一方で、科学的な裏付けの不足や、結果の解釈が難しいというデメリットが考えられます。『結果の解釈が難しい』とは、具体的に例を挙げると、少人数を集めた研究で『有意である』という結果が出ていても、実はそれはたまたまで、大人数を集めた研究では『意味がなかった』となることも多い、というようなことです。
また、結果の信頼性は検査会社や解析手法に依存し、高い費用がかかることもあります」。
近年は参入業者も増え、「ダイエット」「遺伝子検査」とネット検索すると、そこには様々な会社が提供している検査キットがズラリ。唾液や頬をこすった綿棒を送るだけ、と検査方法は実に手軽だが、お値段はピンキリで、お手軽とは言いがたいものも…。
少しでも信頼性の高い機関や会社を選ぶには、どのような点に気をつければ良いのだろうか。
「まだ肥満遺伝子については黎明期なのであまり確立していませんが」とした上で、山本院長は次の3点をチェック例に挙げた。
・経済産業省のガイドラインに沿った遺伝子検査である
・検査会社内に、倫理審査委員会の設置がされている=遺伝子解析からサービスに至るまでを監視・監督する体制がある
・第三者からの認証を受けている(CAP及びISO9001というもの) など
「また、検査結果は医師などの専門家と共に解釈し、個々の健康状態や目標に合わせたアプローチを検討することが重要です。
個人情報の取り扱いにも十分な注意が必要であり、検査結果に基づくアドバイスは継続的にモニタリングすることが望ましいです」。
効率良くダイエットを進められる可能性もある、遺伝子検査。興味がある人は、メリットとデメリットをしっかり理解した上で、使用を検討してみてほしい。
【イラスト・さいとうひさし】