2023年11月、内面が日本一かっこいい男性を決めるコンテストが開かれた。北信越代表は、生まれた時に割り当てられた性は女性だが、自ら認識する性は男性の、トランスジェンダー男性だ。その挑戦を追った。
トランスジェンダー男性の葛藤
11月初めに都内で開かれた大会「ミスターオブザイヤー」。30歳以上の男性を対象に、エスコートやスピーチなどの内容で、見た目だけではなく内面が日本一かっこいい男性を決めるコンテストだ。この大会に北信越代表として出場したのが、石川県金沢市の細川藤貴さん(50)。
![細川藤貴さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/9/700mw/img_d9c3073605f702373890a5748a1c06f9103958.jpg)
性的少数者、いわゆるLGBTQ+のうち、Tに含まれるトランスジェンダーで、細川さんは生まれた時に割り当てられた性別は女性だが、自ら認識する性は男性のトランスジェンダー男性だ。「自分自身を自分で証明できないくらい、本当に辛いことはなかったので名前も変えた。自分の長い髪が本当に嫌いで。親戚などからいつも言われます。あの頃は可愛かったのに今は『えっ』みたいな、『何でそんなに短いの?』って」と細川さんは過去の葛藤について話す。
![着物姿の細川さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/6/700mw/img_06531df41a33e2aea5865b01abd432b3119513.jpg)
馳石川県知事に直接訴え
11月に金沢市内で行われたプライドパレード。細川さんもLGBTQ+の当事者としてイベントに参加した。更に馳浩石川県知事のタウンミーティングでも「自分の名前は藤貴と呼びます。前は女性でしたが、今は男性として生きています。石川県の企業や地域の方を巻き込んで、我々当事者が安心して暮らせる人生を送れたらいいなと。だから(県のLGBTQ+に関する)条例を、知事にぜひ頑張って成立させていただきたい」と当事者としての思いを、直接県のトップに訴えた。
![馳知事のタウンミーティングに参加](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/8/700mw/img_5808d22018a109370da0a021ebca9864157035.jpg)
これに対して馳知事は「このまま県議選か知事選に出てもいいような演説の勢いでした。こうした課題は何回も言いますがナーバスです。ですが、この問題はしゃべらざるを得ない、話題にせざるを得ない問題だという風に石川県の方に思ってほしい」と答えた。
![馳浩石川県知事](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/6/700mw/img_9622f57cafa58d07a53511af62d3a7d9170395.jpg)
ミスターオブザイヤーへの挑戦
細川さんの新たな挑戦。それは日本一かっこいい男性を決める大会、ミスターオブザイヤーへの出場だ。北信越大会では他の追随を許さず見事グランプリを獲得し、全国大会への出場を決めた。「この大会で、女性から男性へのトランスジェンダーが出場するのは初めて。周りの男性の方は分からないですけれど、男性として出場できるだけでも嬉しい」。タキシードをかっこよく着るため、週1回のジム通いを1年続けた。
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元々このジムの会員だった細川さん。大会出場のきっかけは2022年にグランプリを獲得したジムのオーナー、浅尾仁さんからの誘いだった。「自分の知り合いを日本大会に行かせたいと思って、一番初めに出てきたのが細川藤貴ですね。これは完全に出さなきゃと思って。彼の覚悟は世の中がもっと知るべきだと」。
![2022年にグランプリを獲得した浅尾仁さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/4/700mw/img_a4f88e94b5644d6119f6bde132ff36e299481.jpg)
歴史が大好きな細川さんは「坂本龍馬も平等じゃないですか。だから坂本龍馬みたいな生き方をしていきたい」と話し、トレーニングに励んだ。エスコートやウオーキングの特訓は場所と時間を見つけては、練習を重ねた。
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母親には心配をかけたくない
細川さんが男性の名前を名乗っていることを知った母親の反応について「『何で親が付けた名前を変えるんだ。親不孝者だ』と言われましたね」と細川さんは話す。「お母さんの気持ちを受け止められなくてごめんね、と思いました。本当に失礼だなって思いと、これで幸せに生きるよっていう葛藤があって。本当に両親には申し訳ないと思いました。しかし高齢で独り身の母に心配をかけたくないと、直接カミングアウトしないことを選んだ。
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“日本一かっこいい男性”の称号
そして11月4日、全国大会が幕を開けた。エイジレス、ボーダーレス、ジェンダーレスを掲げるミスターオブザイヤー。4つの部門のうち、細川さんは45歳以上、60歳未満のグラシアス部門に出場する。ファイナリストは18人で、観客や審査員などの評価を総合して日本一が決まる。初めの採点はウオーキング。そこからポージングを行い、2023年からエスコートも審査基準に加えられた。「持病の膝が痛かったので、ものすごく不安を抱えていた。どう表現したらエスコートするパートナーが和らいでくれるかなって考えながら歩きました」。
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最後の審査はスピーチだ。「私は元々、女性でした。ありのままに生きる。性別適合手術を受け、多くの人の支えで、この舞台に立っています。性別で悩む人に勇気と希望と愛を与える男に、僕はなります。やっとここまで来ました。ありがとうございました!」。気持ちのこもった細川さんの叫びに会場から大きな拍手が送られた。
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そして審査の結果、「グラシアス部門グランプリの発表です。受賞されたのは、細川藤貴さんです。おめでとうございます!」と会場のアナウンスで発表された。
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見事グランプリに輝いた細川さん。華々しい結果よりも、挑戦したこと自体に大きな意味を感じていた。「これまでの生き方が間違ってなかったと。本当に自分は一体何なのか、自分にとって男って何なのか、自分にとってダンディーって何なのか、考えた大会でした」。
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改めて母親への思いについて聞くと「揺るぎないです。自分から母にカミングアウトすることはないし、母を守るのは自分だけっていうことを再認識させていただきました」と細川さんは迷いなく答えた。ありのままの自分で人前に立つ葛藤と戦った細川さん。その勇気は多様性への理解を求める人たちにとって希望の星となるはずだ。
(石川テレビ)