愛知県や岐阜県では、池の水を抜いて特定外来生物を駆除する活動が行われている。数年経つと、別の特定外来生物が繁殖したり復活したりしていて、地道な取り組みが続けられているが、池の水はどのようにして抜いているのか、方法や費用、期間などについて調べた。

専門家に聞いた「掻い堀り」の方法

話を聞いたのは、これまで100回以上、池の水を抜いてきたNPO法人「birth(バース)」の久保田潤一さんと、ポンプなどを扱う丸三興業の亀田英男さん。2人ともテレビ東京の人気番組「池の水ぜんぶ抜く」にも協力している専門家だ。

この記事の画像(26枚)

水を抜くことを「池干し」や「掻い掘り(かいぼり)」というが、実際にどうやっているのか。birthが行った「掻い掘り」の動画を見せてもらい、詳しく聞いた。

「掻い掘り」を行ったのは、東京都東村山市の都立狭山(さやま)公園にある、約0.6haの宅部池(やけべいけ)。

2~3台の電動ポンプで水を吸い上げ、川に流していく。この作業は5日間も続いた。

丸三興業の亀田さんによると、ポンプの水の吸引量は平均で1分間に1トンから2トン程で、比較的小さい公園にある池であれば、1~2日前から抜き、抜いた水は依頼主や自治体と相談し、河川や下水道などに流すという。

水を抜いた後は、魚を捕獲する。装備は胴長と、たも網と、たらいだ。この日は、地域のボランティアなど約70人が集まり、3つの班に分かれた。

birthの久保田さんは「捕獲する人」「捕獲した生き物を陸まで運ぶ人」「運んできた生き物を仕分けする人」の大きく3チームに分けて、捕獲・運搬・仕分けがスムーズに流れるようにして、捕獲した生き物が死なないようにと話している。

捕まえた生き物は外来種の「コイ」に…。

特定外来生物の「オオクチバス」。

そして「ウシガエル」だ。

在来種では、絶滅危惧種に指定されている「イシガイ」がいた。

外来種は処分し、在来種は後で池に放すために、子供が水浴びするプールのような水槽などで一時的に飼育する。

池の水を抜くとゴミ掃除もする。釣り針や釣り糸も多く、水鳥などにとっても危険だ。

重要な「泥の掻き出し」…コストがかかりすぎる

さらに後日も作業は続くが、「泥のかきだし」がとても重要な作業だ。

水や泥には養分が多く、植物プランクトンが増殖しすぎて濁りや水中の酸素不足をもたらし、住みづらい環境になるためだ。泥を取り除くほど、水はきれいになりやすいという。

泥の掻き出しは重労働なため、バキューム車を使ってみるみるうちに泥を吸い上げた。

亀田英男さん:
(バキューム車は)真空の掃除機みたいな感じでホースを伸ばして泥の中に入れて、吸い込む機械です。10トン車で約9トンくらいはとれる

しかし吸い込んだ泥を処分する場合は「産業廃棄物」扱いとなり、処理には費用がかかる。亀田さんによると、処理代は10トン車1台あたり約30万円かかるという。それほど大きくない池でも1,000トンから多いと1万5,000トンの泥があり、処理代は何億円にもなってしまうという。

多額の費用がかかるため、今回の泥の回収はバキューム車2台分に抑えた。

その泥を次はプランターに入れた。泥の中に、眠っている水草の種がある可能性があるためだ。

水草は生き物にとって食料や隠れ場所になるほか、汚れを吸い上げてくれる天然の浄化装置で、池の再生には欠かせない。光が届く浅瀬に入れて、発芽を待つ。

池底にひび割れができるまで約2カ月

その後は、天日にさらす「池干し」だ。土や水の養分が空気中に発散され、水質が改善される。この時は2カ月で池の底にひび割れができた。うまく乾いた証拠だ。

そしてようやく水を戻す。この池は湧き水があるためそのまま放置し、約1カ月後に満水になった。

水は河川から引いたり、給水車で水を入れる場合もあるという。

保護していた在来種を放流し、さらに2カ月が経つと、放流した魚が増え、その魚を食べる水鳥も繁殖していた。

プランターには水草が育っていた。これが池全体に広がると、本来の豊かな生態系が戻るという。

birthの久保田さんの話では、掻い掘りは昔、地域にとって1年に1回の祭りのような楽しい催しだった。

久保田さんは「掻い堀りをきっかけに環境問題に興味を持ってもらうことを進めていけるんじゃないか」と期待している。

理想は数年に1回定期的に…

掻い堀りの費用は一般的に、久保田さんによると人件費や機械などすべて込みで、数百万~1千万円台で、深さなどにもよっても変わるが、直径約10mで数十万円からで、「数年に1度」、定期的に実施するのが理想としている。

 

亀田さんの会社では「池の水ぜんぶ抜く」の影響で、以前は年に1回程度だった依頼が、今では毎月あり、その多くは自治体からだが、神社やゴルフ場など民間からもあるという。

多くのため池がある、兵庫県東播磨地区の「いなみ野ため池ミュージアム」によると、掻い堀りは弥生時代からあるとされていて、川から水を引いて田畑に注ぐため池があったという。毎年川からの取水をとめて水を全部ぬき、水漏れや破損箇所の点検をしたり、魚や貝を取って食べたり、溜まった泥を掻き出して貯水量を確保し、土が減っていく田んぼなどに使われていた。

この掻い堀りが毎年行われていたため、昔はため池がきれいに保たれていたが、農業人口が減って放置され、汚れたため池が増えたということだ。

2010年ごろになって、テレビ東京の「池の水ぜんぶ抜く」の影響で特定外来生物の駆除が注目され、再び掻い掘りが行われるようになった。

ただ、2021年11月に名古屋市名東区の猪高(いたか)緑地で池の水を抜いて外来種を駆除した関係者によると、ポンプや装備は市の施設のものを使い、池干しの間の在来種の保存も市の施設が行ったが、費用面に課題があるという。

この時は市の予算と企業からの助成金で賄ったが、泥を掻き出す費用が大きすぎたため少量しか回収できず、水質は大きくは改善されなかったと話していて、費用や人手に限度があり、思ったようにできないのが現状だという。

(東海テレビ・2023年10月6日放送)

東海テレビ
東海テレビ

岐阜・愛知・三重の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。