5月8日、新型コロナウイルスの感染症としての位置づけが5類に変更される前に、コロナ禍のこれまでとこれから未来を見つめる。

2020年12月、鹿児島・鹿屋市の中華料理店でクラスターが発生。誹謗中傷を受けながらも店は立ち直り、営業を続けている。そのきっかけは、見ず知らずの人からの励ましの手紙だった。
当時なぜ店名を公表したのか、そして立ち直りの原動力とは?店を切り盛りする夫婦に聞いた。

お客さんのことを考えて…

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笑顔がすてきな岩松和近さん、71歳。故郷・鹿屋市大姶良町の自宅の1階に、「中華料理いわまつ」を構えて47年になる。

笑顔がすてきな岩松和近さん
笑顔がすてきな岩松和近さん

岩松和近さん:
初めのころは、こういう田舎でやっていけるのかと、みんなから言われたけど、今となってはここでよかったなと、いいところを自分で選んだなと

岩松さんは妻・良子さんと2人で店を切り盛りしている。良子さんに、岩松さんがどんなご主人か尋ねてみた。

妻・良子さん:
人間としても、料理人としても立派だと思います

「おー!!いつも言わないことを言ってる」と照れる岩松さん。良子さんは続けた。

妻・良子さん:
思ってるけど言えないです。だけど、こんな立派な人はいないと思います

こんな2人の人柄と本格的な中華料理を求め、店には多くの客が訪れる。

店を訪れた人:
いつもこれですよ、五目焼きそば、決まって

ーーこちらに通うようになってどれぐらいですか?

店を訪れた人:
20年ぐらいですかね。ここ結構、味が濃くてハマる味ですね

「お客さんが喜んで『ありがとう、おいしかった』と言ってくれるのが一番です」笑顔で語る岩松さん。お客さんの顔もほころぶ。

しかし、このお店から笑顔が消えた時があった。未知のウイルスに人々がおびえ、強い警戒心を抱いていた2020年12月、「中華料理いわまつ」で鹿児島県内15例目となる新型コロナのクラスターが発生したのだ。

クラスターが発生した店名が公表されないケースもある中、岩松さんは、店名の公表を決断した。

岩松和近さん:
世間は「何で名前を公表したのか」と。「公表すればマイナスになる」「店がつぶれるぞ」とみんなから言われた。俺はつぶれてもいいけど、お客さんが一人でも早く検査を受けて、(コロナに)かかっていたら重症にならないように早く病院に行ってわかればいいと思って

辛い時期に届いた励ましの手紙

日頃から顔を合わせる町内の仲間と店を閉めて行った慰労会で、クラスターは発生した。感染者はその家族などにも広がり41人になった。当時、店での宴会は中止していて、感染対策もしっかりとっていた。

クラスター発生から1カ月。店は営業再開の準備に入っていたが、当時、妻の良子さんは、鹿児島テレビの取材に対し沈痛な面持ちでこう語っていた。

2022年1月当時 鹿児島テレビが取材したときの良子さん
2022年1月当時 鹿児島テレビが取材したときの良子さん

妻・良子さん:
心が立ち直れないっていうか、人に会いたくなくて、人に迷惑をかけたって言うだけで涙が止まらなかった

夫婦の心を痛めたのは「誹謗中傷」だった。岩松さんは当時のことを次のように振り返る。

2022年1月当時 鹿児島テレビが取材したときの映像
2022年1月当時 鹿児島テレビが取材したときの映像

岩松和近さん:
最初の半年くらいはひどかった。親の代から付き合いがあるところから「来ないでくれ」と言われることもあったし、うちの女房なんか自殺したことになっていた。車がぶつかるんじゃないかというくらいゆっくり指を指して「ここだよここだよ、ここがクラスターのとこだよ」と…

そんな中、2人のもとに届いたものがある。

岩松和近さん:
居酒屋をしている方から「店の再営業を心よりお待ちしています」と(手紙を)頂いて、その中に、「少しですが何か使って下さい」と、その居酒屋の人と、そこに来るお客さんからのお金を送ってきました。涙が出ました

見ず知らずの人から匿名で届いた励ましの手紙。その時のお金は今も使えずにいる。

新型コロナに翻弄(ほんろう)された飲食業界。県からの時短要請や休業要請にも苦しめられた。

岩松和近さん:
どん底ですよ、本当。飲食店はやめた人も多い。やめざるを得ないですよ、お金が入ってこないから。収入がないわけだから。耐えるしかなかったから

戻ってきた2人とお客さんの”笑顔”

クラスターで店を休業してから約1カ月。店は営業を再開した。

厨房のドアを開け「2つ!」と注文する男性客。奥から「はーい!はいよ!第一号」と明るく答える岩松さん。

「長く食べられないと、いつも食べてるものが食べたくなって」うれしそうな男性客。厨房(ちゅうぼう)で自らを奮い立たせるように「やるっきゃない!」と話す岩松さんにも笑顔が戻っていた。

あれから2年半。岩松さんに、店を続ける理由を聞いてみた。

岩松和近さん:
お客さんが私のところに食事に来て「おいしいな」と言ってくれる。それだけで続けられる、お客さんに勇気をもらっている。本当…お客さんが大事だから。お客さんが大好きだから、私は

5月8日、新型コロナウイルスの感染症としての位置づけが5類に変更される。コロナ禍を経て、強くなったと話す岩松さんは、大切なお客さんの笑顔を守るため、厨房に立ち続ける。

(鹿児島テレビ)

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