コロナ禍を経験した5歳児は、経験していない5歳児に比べて約4カ月の発達の遅れがある…。
これは京都大や筑波大などの研究チームが、首都圏の全認可保育所に通う1歳または3歳の乳幼児887人の発達状況の調査を行い、明らかになったものだ。
研究チームは、2017年から2019年の間に、1歳または3歳の乳幼児に1回目の調査を行い、その2年後に追跡調査を実施。追跡期間中にコロナ禍を経験したグループと経験していないグループで、3歳または5歳の発達を比較した。分析の結果、コロナ禍を経験した5歳児は、経験していない5歳児と比べ、平均4.39カ月の発達の遅れが確認されたという。
項目別で特に発達の遅れが確認されたのは、「大人とのコミュニケーション」が6.41カ月、「しつけ」が5.69カ月だった。
一方、3歳児は発達の遅れは見られず、むしろコロナ禍を経験したグループのほうが、「運動」「手指の操作」「抽象的な概念理解」「子供とのコミュニケーション」「大人とのコミュニケーション」の領域で発達が進んでいたという。
この結果を受けて研究チームは、「コロナ禍で発達の遅れが生じた子どもに対し、積極的な支援を行うことが求められます。今後の感染状況に留意しつつ、なるべく速やかにコロナ禍前に戻していくことが乳幼児の発達のうえで重要です」と述べていた。
コロナ禍を経験した5歳児は、平均4.39カ月の発達の遅れが確認されたわけだが、その理由は何か?また、この遅れを挽回することはできるのだろうか? 研究チームの一人である京都大学大学院医学研究科の佐藤豪竜助教に詳しく話を聞いてみた。
研究者「3歳児については意外な結果」
――まず、そもそも子どもの健全な発達にはどのような要因が影響する?
保護者や兄弟、保育園の先生、同世代の子どもとの交流など様々な要因が影響します。なお、今回の調査では、「KIDS乳幼児発達スケール」を用いて保育士が客観的に評価を行いました。この調査は、総合的な発達のほか、運動、手指の操作、言語理解、言語表出、抽象的な概念理解、子供とのコミュニケーション、大人とのコミュニケーション、しつけの8つの発達領域について個別に評価を行うことができます。
――これまでコロナ禍で子どもの発達が遅れるといったレポートはあった?
コロナ禍で就学児の学力に負の影響があったというレポートは数多くありましたが、未就学児の発達との関連について定量的に示した研究は、私たちが知る限り初めてです。
――今回の研究結果の感想は?
5歳児について発達の遅れがみられたことはある程度予想していましたが、3歳児については意外な結果でした。いずれにしても発達との関連を定量的に示せたことに、一定の学術的意義があると考えています。
発達の遅れは挽回可能
――5歳児の発達の遅れには、どんな理由が考えられる?
5歳児は社会性を身に付ける時期で、この時期に両親以外の大人や子どもと交流する機会が減ったことが発達に負の影響を与えた可能性があると考えています。
――コロナ禍を経験した3歳児のグループのほうが、発達が進んでいる傾向が見られた。これは、どんな理由が考えられる?
3歳児は大人との1対1のコミュニケーションが重要な時期ですが、この時期に両親の在宅勤務が増え、一緒に過ごす時間が増えたことがポジティブな影響を与えた可能性があると考えています。
――発達の遅れはこの先挽回できそう?
一般的に子どもの発達状況は柔軟で大きく変わるものと言われているため、十分挽回可能だと思います。今後の感染状況を踏まえながらになりますが、なるべく速やかにコロナ前の保育環境に戻していくことが重要と考えます。
コロナ禍を経験した5歳児の発達の遅れは、これから挽回が可能だということで一安心だろう。ただ、新型コロナウイルスの感染が落ち着いている間は、コロナ前の保育環境に戻すことが、子どもの発達に大事なのかもしれない。