世界フィギュアスケート選手権が3月22日から開幕する。
この大会に日本勢初の2連覇をかけて挑むのは、世界女王の坂本花織だ。
坂本に世界選手権への思いを聞くと「連覇できたら、そりゃすごいと思うけど、連覇よりリベンジの方が、めちゃくちゃ気持ち的に強い」と語った。
坂本の言う「リベンジ」は、彼女が2019年に出場した世界選手権を指している。
「あぁー」という声、忘れられない
2019年の世界選手権で初めて代表に選ばれた坂本。
会場は、今大会と同じ、さいたまスーパーアリーナで行われた。

大歓声に背中を押されて初のメダルをかけ、ショート2位でスタートする。メダル圏内の絶好の位置で迎えたフリーでは、得点源となる演技後半の3連続ジャンプを成功させる。
このとき、誰もが坂本のメダルを確信したが、得意の3回転フリップが1回転になってしまい、総合5位で終えた。

坂本は「命をかけて、すごい覚悟で行ったのに、フリップでパンクしてしまって絶望を感じた」と振り返る。
3回転フリップをミスしてしまった瞬間の観客のため息も耳に届いたようで、「そのときの『あぁー』という声が忘れられなくて。あの声を聞いただけで泣きそうになる」とこぼした。
自国開催の晴れ舞台で届きそうだったメダルが、こぼれ落ちてしまった。

この日から坂本は、より一層強い覚悟でスケートと向き合ってきた。
2022年の北京五輪では、日本女子フィギュアで史上4人目の銅メダルを獲得。
その1カ月後の世界選手権で、2014年の浅田真央さん以来となる金メダルを手にした。
今シーズン、決して順風満帆ではなかった
今シーズンは「変化」をテーマに掲げ、チャレンジを続けてきた坂本。
髪をショートカットにイメージチェンジし、振付師もショート・フリーともに初タッグとなる2人と新しいイメージのプログラムをつくり上げてきた。

しかし、ここまでの戦いは決して順風満帆ではなく、五輪のメダリストと、世界女王という2つの肩書による計り知れない重圧を感じていたという。
初戦のロンバルディア杯では渡辺倫果に優勝を譲り、GPスケートアメリカこそ優勝するも、GPNHK杯では2位。さらにGPファイナルもフリーで失速してしまい、5位で終わった。
それでも日本のエースとして、12月の全日本選手権連覇は譲れず、「落ちて、泣いて、吹っ切れた」と気持ちを切り替えた坂本は、「戦う気満々」と意気込んでいた。

その全日本ではショート・フリーともに今シーズンのスランプを吹き飛ばす演技を見せ、“自身初”という主要大会での連覇を果たし、全日本女王として4度目の世界選手権代表に選ばれた。
全日本後に坂本は、ファイナルが終わってからスイッチが入ってきたと振り返った。
「『頑張ろう、頑張ろう』と思いながも、ちゃんと練習ができない状況になってしまったり、インタビューで『頑張る』って言うことも苦しくて。でも、ファイナル後からケガもほぼなく、体調不良にもならなくて、元気なまま追い込めて全日本を迎えることができました」

全日本は「ショート、フリーも自分の精一杯なので、あれ以上は今できないですけど、満足できるところまでやりきれた。今の自分に120点をあげたい。(2022年)終わりよければ全て良し!」と前を向いた。
そして2023年は「(2022年が)あっという間、月日の流れの早さが異常。それだけ充実しているのかなとも思うけど、来年も『今年もあっという間やったな』と言えるぐらい充実させたい」と抱負を語った。
ショートで勢いをつければフリーにつながる
2023年に入ると、坂本は4つの大会に出場。2月末の「チャレンジカップ」では、ショート・フリーをミスなくまとめ、世界選手権に弾みをつけた。
坂本にとって「2連覇」と「リベンジ」の舞台となる今大会。

世界選手権を目前に控える坂本が練習するのは、兵庫県・神戸市にあるリンク。
この日坂本は、3回転フリップからのコンビネーションジャンプの練習に取り組んでいた。
4年前に失敗してしまった、あの「フリップ」に力を入れていた。
坂本のコーチを務める中野園子さんは彼女の魅力についてこう語る。

「ジャンプと豪快な滑りが魅力。思い切りのあるひと蹴りが伸びて、力強い。あれだけ走って、あの大きさで振り回されてもジャンプが跳べる。
スピンもすごく早く回れるので強みです。あとは明るさや人柄はプログラムに出るのかなと思います」

代表が決定した際に坂本は「いまだに(フリップを)失敗したときのお客さんの声が頭から離れない。良いイメージの上書き保存をしたい」と意気込んでいた。
3月中旬に改めて話を聞くと「楽しみが8割くらい。(2割は)緊張。緊張はめっ…ちゃします!」と言い、弾けるような笑顔を見せた。

「序盤がすごく悪かったので、そこからよく立て直せたなっていう気持ちと、ここまで立て直せたのであれば、最後は良い締めくくりがしたいという気持ちがあります。
4年前はひたすら、がむしゃらにやっていただけ。上にいるたくさんの人たちを追いかけていた。今は世界ランキング1位にもなって、追いかけるよりも追いかけられる側になった。そこが全然違う」
この4年の変化を語る坂本。リベンジに向けてのポイントは「ショート」だと語る。
「ショートでまず勢いをつけたい。今シーズンはショートに不安があって、最近の練習で3回転+3回転に対しての不安がやっとなくなってきた。このコースでいけば跳べるという確信ができて、試合でも行けるかなって。そこをしっかり決めれば、自然とフリーにもつながると思うので、まずはショートです」

最後には「日本のファンはどの国よりも熱狂的だと感じていて、会場もすごく埋まって、それは同時に緊張にもなるんですけど、その中で滑れるのはすごく楽しみ。4年前のリベンジと2連覇をかけてがんばります!」と笑い、拳を高くあげた。
4年前のリベンジを達成したその先に、日本人初の“連覇”も待っている。
3月22日から開幕の世界選手権。女子は坂本花織、三原舞依、渡辺倫果、男子は宇野昌磨、山本草太、友野一希、ペアは三浦璃来・木原龍一組、アイスダンスは村元哉中・高橋大輔組が出場する。
世界フィギュアスケート選手権2023
3月22日(水)から4夜連続で生中継
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html