3月22日から開幕する世界フィギュアスケート選手権。

“代打の神様”と呼ばれ、2度の世界選手権に出場した経験のある友野一希。

さいたまスーパーアリーナで開催される、今年の世界選手権の切符を自らの手で代表をつかみとった。

モットーは見る人を楽しませること

2022年12月、全日本選手権直前に自ら誓ったのは「脱代打!」。

世界ジュニア選手権、NHK杯、世界選手権、四大陸選手権、2022年の世界選手権と代打派遣され“代打の神様”とまで呼ばれるように。前回大会では6位入賞を果たした。

全日本選手権に向けて「脱!代打」と決意を示した友野一希
全日本選手権に向けて「脱!代打」と決意を示した友野一希
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「脱代打!」と宣言して迎えた去年の全日本は、10回目の挑戦で自身初となる3位表彰台にのぼり、世界選手権への切符を手にした。

全日本後のインタビューでは「10回出場して、10回目でのぼれた表彰台。自分の中では『世界選手権に出る』ことが大きな目標だったので、その“過程”だと言い聞かせていました。自分の目標のうち一つを達成できたのは大きな一歩」と、あくまで全日本は目標とする、世界選手権への通過点だったと語る。

友野は出場10回目で全日本選手権の表彰台にのぼった
友野は出場10回目で全日本選手権の表彰台にのぼった

それでも代表に選ばれるか不安がなかったわけではない。代表が発表される際、友野は祈るように待っていた。

「正直ちょっとダメかなと思っていたところもあった。今までの成績などを考慮してもらえて、頑張ってきてよかったなと。最後まで諦めずに演技をしたのがこの結果につながったので、最後までやりきることが大事だと思いました」

友野の唯一無二の武器は「観客を置いてけぼりにしない演技」
友野の唯一無二の武器は「観客を置いてけぼりにしない演技」

そんな友野の魅力は「観客を置いてけぼりにしない演技」だ。

かつて高橋大輔も「演技が人を置いてけぼりにしない」と彼の魅力を語っていた。

友野自身も高橋の言葉を受けて「そう言ってくださって、自分の中でそれがストンと落ちた感じがした。僕はそれをすごく大切にしている」と明かす。

ジュニア時代、友野はリンク上でエアギターを披露
ジュニア時代、友野はリンク上でエアギターを披露

大阪生まれの友野にとって、「人を喜ばせること」は日常で、ジュニア時代にはリンクの上でエアギターを披露するなど、見るものを楽しませることをモットーにスケートと向き合ってきた。

そしてシニアになってからもその道をまい進し、今では「観客を置いてけぼりにしない演技」が唯一無二の武器となった。

2014年の世界選手権、町田樹の演技に衝撃

2月末、世界選手権に向けて最後の実戦「スケートヒロシマ」に出場した友野。この時、初めて広島のお好み焼きを食べて、「混ぜなかった。生地、乗せているだけ。こんなにちゃうんや、とビックリ」と大阪との違いに驚いたという。

昔ながらのラーメンも好きだというが、ダシが好きな友野は「サラッと食べられるのが好きなので、うどんやそばの方が多くなった」と食の好みに変化が起きたと明かした。

この大会では、ショートで欠場者が多く予定よりも早く競技が始まったため、アップ時間は20分という中で準備した。「予想外のことにも対応できてよかった」と振り返り、フリーを終えた後は「全体的にすごく自信になる内容だった」と話した。

大会の会場となったスケートリンクは、友野が憧れる一人、町田樹さんが小・中学生時代に使っていた場所だという。そのことを聞いて「この競技の向き合い方は100%、町田さんを見て学んだ」と憧れの人が使ったリンクで試合ができたことに喜びを噛み締めていた。

2014年、世界選手権で『エデンの東』を披露した町田樹さん
2014年、世界選手権で『エデンの東』を披露した町田樹さん

2014年の世界選手権を会場で観戦した友野は、町田さんのショート『エデンの東』の総立ち演技を見たようで、「ずっと刻まれている」と振り返る。

町田さんの演技に魅了され、会場は総立ちになった(2014年世界選手権)
町田さんの演技に魅了され、会場は総立ちになった(2014年世界選手権)

「いつかこういった舞台でこういう演技がしたいと思っていた。今がその時だと思いますし、僕も町田さんのような人の心に残る“伝説の演技”と言われるくらいの演技ができるように。何より一番、自分が納得のいく、最高の演技をショート・フリーともにできたら」

初の世界選手権で“浪速のエンターテイナー”は、どんな演技を見せてくれるのだろうか。

山本草太、宇野昌磨、3人で行けるのはうれしい

「脱代打!」と掲げ、自らでつかんだ世界選手権の代表。

そんな友野の“代打道”のスタートは、2016年。直前にケガをしてしまった山本草太の代打として、世界ジュニア選手権に出場したことからだった。

2018年、代打で出場した世界選手権
2018年、代打で出場した世界選手権

そして今回、その山本と同じ舞台に立てることを友野は「エモいな」と表現する。

「小さい頃から一緒に練習してきて、草太も苦労してきた。ジュニア時代からずっと追いかけてきました。草太とはシーズン始まる前から『今年は僕たちがやってやろうぜ!』『やってやる!』みたいなことをずっと言っていて。最初のGPシリーズでは草太に先を越されちゃいましたが、こうやって世界選手権に一緒に行けるのは僕もかなりうれしかった。不思議な縁だと思います」

また宇野昌磨のことも「同期でノービス時代から知っていて。ずっと雲の上のような存在で、ジュニアの頃から昌磨くんが1番で僕は3番、4番、5番だったり。シニアになって同じ舞台に立つことも多くて。3人で世界選手権に行けることは本当にうれしい」と話した。

さらに友野の魅力をよく知る一人である高橋も、この大会にアイスダンスで出場する。

「ずっと届かなかった人がまた現役に戻ってきてくれて、感謝しかない。僕も見習って、高橋さんのような“レジェンド”になりたい」

世界選手権への意気込みを語る友野
世界選手権への意気込みを語る友野

2022年の世界選手権では「さいたまで必ず戻ってくる!」と決意を述べていた友野。それを達成できた今、目指すのは「メダル」だという。

「ショート、フリーどちらも過去2大会でスモールメダルを獲っています。もう小さいメダルではなく、大きいメダルがほしい。そこは求めていきたくて、それが言えるのは自分の持つ演技をすれば届くんじゃないかという自信があるから。もちろん、一番は自分が満足のいく最高の演技をショート、フリーですることです」

2023年は「安定して良い成績を残せるように常に自分史上最高を更新し続けられる、そんな選手になっていれば」と話していた友野。自身の“史上最高”を世界選手権で見せられるのか期待したい。

3月22日から開幕の世界選手権。女子は坂本花織、三原舞依、渡辺倫果、男子は宇野昌磨、山本草太、友野一希、ペアは三浦璃来・木原龍一組、アイスダンスは村元哉中・高橋大輔組が出場する。

世界フィギュアスケート選手権2023
3月22日(水)から4夜連続で生中継
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班