3月22日から開幕する世界フィギュアスケート選手権。

今回は4年ぶりの日本開催、さいたまスーパーアリーナで行われる。

“りくりゅう”ことペア・三浦璃来・木原龍一組は、2021年の世界選手権で10位、2022年は銀メダルと成績をあげてきた。

2022年の世界選手権では銀メダルを獲得した三浦璃来・木原龍一組
2022年の世界選手権では銀メダルを獲得した三浦璃来・木原龍一組
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そして今年、この大会で優勝すれば、グランプリファイナル・四大陸選手権(欧州選手権)・世界選手権を制する日本フィギュア界史上初の年間グランドスラムを手にすることになる。

そんな2人に世界選手権に向けての意気込みについて聞いた。

信頼し合う2人とプログラム前のルーティン

2月、アメリカ・コロラドスプリングスで行われた四大陸選手権で優勝した三浦・木原組。

標高の高いコロラドでの試合を乗り越え、「自信になったし、余裕ができた」と振り返る。

2月の四大陸選手権で優勝した三浦璃来・木原龍一組
2月の四大陸選手権で優勝した三浦璃来・木原龍一組

演技後、三浦は「ショートは私のミスがあって、点数もあまり出なかった。今回のフリーは自分のジャンプを克服することができて、自分も演技の中でできるんだと自信がついた」と語る。

四大陸前はリフトのタイミングに不安を拭えなかったことから、その練習を積み重ねてきたという。木原は「絶対に落とさないぞ」という気持ちで耐えたと明かした。

三浦は「落とされたことはない。いつも『落としても絶対下敷きになってあげるから』と言われていたので、信頼を失ったことはない。安全に最後までリフトしてくれて感謝しかない」と話すなど、2人の信頼度の高さが伺えた。

四大陸選手権前、手を取り合ってアイコンタクトを送り合う2人
四大陸選手権前、手を取り合ってアイコンタクトを送り合う2人

プログラムに入る前、2人が手を取り合って言葉を掛け合うようなシーンを目にすることがある。それはいつも通りの“ルーティン”であり、三浦は「“一緒に頑張ろうね”という意味がある」と話す。

四大陸では何か言葉を掛け合うことはなく、「頑張ろう」「最後まで諦めない」とアイコンタクトだけで伝えあったという。このルーティンは、結成当初に決めてから、ずっと続けているようだ。

四大陸選手権後、インタビューに応じた2人
四大陸選手権後、インタビューに応じた2人

「私1人だとすごく弱いのでここまでできなかったと思う。やっぱりパートナーの存在が大きい」と語る三浦。木原も「2人で一緒に頑張ってきて、ぶつかることもあるんですけど、乗り越えてきて今の成績につながっている」と話した。

優勝しても拭えない世界王者への危機感

今シーズン2人は、GPスケートカナダ、NHK杯、GPファイナル、四大陸で優勝と出場したすべての大会で頂点に立った。

四大陸選手権(2023年2月)
四大陸選手権(2023年2月)

かつて、全日本フィギュアでは出場組0にまで陥ったこともあるペア競技。シングルに比べて、練習には広いスペースが必要でその環境も整わなかった。指導者もペアを行える体格の男性スケーターも不足し、問題は山積みだった。

シングルの選手が世界で活躍する一方、好成績を残すことができず、競技人口は増えない悪循環の中、木原がペア転向を決断して10年、いまや日本中から愛されるペアとなった。

そんな“りくりゅう”ペアの強さのポイントは「スピード感と笑顔」だ。

拠点のトロントでインタビューに応じた三浦・木原組
拠点のトロントでインタビューに応じた三浦・木原組

「最初は技にフォーカスしていたんですけど、表現や笑顔、そういうところに気を使えるようになった」と三浦。木原も「技はもちろんですが、シンプルに“スケート楽しそうだな”ということを届けたい」と話し、三浦もうなずく。

技のみならず、表現の幅を広げてきた。そんな2人を強くしたのが四大陸選手権でもあった。そして、優勝を手にしても、2人は怠ることなく、試合ごとに出てきた課題に取り組んでいた。

「良い成績は出せているので嬉しい気持ちはありますが、試合後にある気持ちはもっと改善しなければいけないという危機感。このままじゃいけないという気持ちが強かった」

2022年の世界選手権で優勝したアレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組
2022年の世界選手権で優勝したアレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組

その危機感は、今シーズンのGPファイナルでも生まれた。

GPファイナル2位のアレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組は、去年の世界選手権で優勝している。

りくりゅう最大のライバル、アレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組(2022年世界選手権)
りくりゅう最大のライバル、アレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組(2022年世界選手権)

このカップルは2020年に結成した30代同士のベテランカップル。結成3シーズン目ではあるが互いに経験は豊富、ダイナミックな演技が特徴だ。去年の世界選手権でも、大きなミスなくまとめ、勝負強さを見せた。

1月の全米選手権では、国内参考記録ながら227.97点の今季世界最高得点を記録。四大陸は欠場したため、GPファイナル以来、顔を合わせる。間違いなくりくりゅうの最大のライバルだ。

アレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組
アレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組

木原はグランプリファイナルで優勝できたものの、2位のクリニエム/フレイジャー組とは僅差だったことに触れ、世界選手権で優勝するためには「1つのミスが命取りになる」と気を引き締めた。

りくりゅう節「グランドスラム?山みたい」

2月下旬、2人の拠点であるカナダのトロントを訪れると、世界選手権に向けて最終調整をしていた。

課題の一つ、フリーのコレオシークエンスのブラッシュアップを行い、ブルーノ・マルコットコーチの妹・ジュリー・マルコットとともに時間を費やした。

ブルーノコーチの妹から指導を受ける三浦・木原組
ブルーノコーチの妹から指導を受ける三浦・木原組

ブルーノ・マルコットコーチは、10代の頃の三浦を指導し、木原とペアを組んだ2019年から2人を見ている。

彼は2人の長所を「一つではなく、いくつもある。彼らは練習での安定感が高く、よくコミュニケーションを取り合っている。一緒に滑ることを心から楽しんでいて、パフォーマンスを通して感じられます。エレメンツに入るスピードも素晴らしい。あれほどのスピードでスローやリフトに入れるチームは世界でも彼らだけです」と評価した。

三浦・木原組を指導するブルーノ・マルコットコーチ
三浦・木原組を指導するブルーノ・マルコットコーチ

「2人は非常に勤勉。リンク内で懸命に努力を続けています。私の指導方法の哲学はトレーニングをできるだけ楽しくすることです。そして教え子たちにこう伝えています、『世界選手権で優勝しても興奮は30分しか続かない』。しかしそこまでの道のりは何年も続きます。教え子たちに期待もしますし、多くを求めますが、ポジティブかつ楽しい方法を心掛けています」

「彼らは家族同然」というほど、コーチとの関係も良好なりくりゅうペア。新型コロナウイルスによるパンデミックで、カナダから日本への帰国も難しくなり、落胆した三浦を励ましたのもコーチたちだった。

一丸となって試練を乗り越えてきたチーム“りくりゅう“。今シーズンは無敗で、世界ランキングは現時点で1位だ。

インタビューに応じた三浦・木原組
インタビューに応じた三浦・木原組

それでも木原は「それでメダルがもらえるわけではない。うれしいですけど、そこまでフォーカスしていない」といたって冷静だ。

2人に「日本勢初の年間グランドスラム達成か?と周囲が騒ぎ始めている」と話すと、三浦は「グランドスラム?山みたい」といつもの“りくりゅう節”が炸裂し、気負う様子はまったくない。

三浦は木原に「倒れ込むくらい頑張って」

2022年末の全日本選手権はまさかのロストバゲージによる欠場となるが、世界選手権も日本での開催。2人の準備ももうできているようだ。

木原は「去年は正直、オリンピックで燃え尽きてしまって、そこまでの覚悟を持って臨めていなかった。今シーズンはもう一度、シーズン最後に世界と戦うという気持ちと、今までの自分たちに最後、ここで勝つという気持ちを持って臨みたい」と意気込む隣で三浦もうなずく。

日本初の快挙へ向けて三浦は「母国なので自然な私達らしい演技ができるように頑張りたい」と笑顔を見せる。

四大陸選手権のフリー後、リンク上に倒れ込んでしまった2人
四大陸選手権のフリー後、リンク上に倒れ込んでしまった2人

木原も「世界選手権は倒れ込むんじゃなくて、2人でやりきって笑顔をみなさんに届けたい」と四大陸で演技後に倒れ込んでしまったことに触れると、三浦は「フリーは、男性側は本当にキツイので。でも世界選手権は倒れ込むくらい頑張ってもらいたいのでムリだと思う」と笑った。

終始2人は互いの視線を交えながら語ってくれた。

世界選手権への意気込みを語る2人
世界選手権への意気込みを語る2人

「日本のみなさんの前で滑ることをすごく楽しみにしていますし、僕たちのタオルをたくさんかかげてもらえるのがすごく楽しみ。みなさんの後押しが最後、自分たちの足を動かしてくれる。みなさんと一緒に戦いたいなと思います」

3月22日から開幕の世界選手権。女子は坂本花織、三原舞依、渡辺倫果、男子は宇野昌磨、山本草太、友野一希、ペアは三浦璃来・木原龍一組、アイスダンスは村元哉中・高橋大輔組が出場する。

世界フィギュアスケート選手権
■3月22日(水)午後6時30分~8時54分
女子ショート・ペアショート
■3月23日(木)午後6時30分~9時54分
男子ショート・ペアフリー
■3月24日(金)午後6時30分~9時52分
女子フリー・リズムダンス
■3月25日(土)午後6時30分~9時30分
(※午後6時30分~7時 関東ローカル)
男子フリー・フリーダンス
■3月26日(日)
深夜0時30分~1時30分※関東地区ほか
エキシビション
■3月28日(火)
深夜3時10分~4時10分※関東地区ほか
ペア&アイスダンス
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/index.html

フィギュアスケート取材班
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