災害が起こる度に、そこで得た教訓を伝える大切さがクローズアップされるが、8月の記録的な大雨では過去の水害の教訓が生かされた。土石流が発生した新潟県村上市の小岩内地区で、犠牲者が出なかった理由に迫る。

家を回り、住民を起こして避難呼びかけ

岸田首相:
区長さんの的確な判断で、より大きな被害を免れた。心から敬意を表します

村上市小岩内地区を訪れた岸田首相
村上市小岩内地区を訪れた岸田首相
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大雨特別警報が出されてから1カ月。村上市小岩内地区を訪れた岸田首相に被災・避難の状況について説明したのは、区長の松本佐一さん(69)。

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
消防団・防災士の方にお願いした。各個々の家庭を回って、眠っていたら起こして。それが早めの決断になったから犠牲者もいなかった

8月3日から4日にかけて、大量の土砂や大木によって住宅が飲み込まれた小岩内地区。松本さんは、1本の避難道に住民を誘導することでその命を守った1人だ。

1本の避難道に住民を誘導 村上市小岩内地区(8月11日)
1本の避難道に住民を誘導 村上市小岩内地区(8月11日)

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
市の情報無線から、小岩内地区を含む神林地区にも避難指示が出たので。まず消防団・防災士を公会堂に集めた

消防団・防災士が集合した公会堂
消防団・防災士が集合した公会堂

小岩内地区に避難指示が出たのは3日午後9時半。午後10時には防災士が防災無線で各住民に避難を呼びかけた。

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
無線での呼びかけは2回は行った

小岩内地区 8月3日の動き
小岩内地区 8月3日の動き

午後10時すぎに消防団が全34世帯を回り、さらに避難を訴え、午後10時半には近くに住む高齢者7~8人が公会堂に避難。

55年前の経験から感じた危険 豪雨のなか高台へ

しかし、松本さんはすぐ近くを流れる大沢川の存在から、公会堂も危険だと判断した。

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
大沢川があるが、そこが55年前と同じような状態。まっすぐ川が流れているので、そこに流木が引っかかると大変なことになると頭にあり、「ここは危険だ」と

公会堂近くの大沢川
公会堂近くの大沢川

1967年に発生し134人が犠牲となった羽越水害。当時、松本さんは中学生だった。羽越水害の記憶が高台への避難を決断させた。

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
避難した午後11時ごろは、もう土砂降り。皆さんカッパを着る余裕もなかった

(Q. 猛烈な雨の中、外に出るのは勇気が必要だったのでは?)

村上市小岩内地区 松本佐一区長:

そんなことは考えない。ただ、避難しなくてはならない。雨がやむのを待っている余裕はないくらい水かさも増してきていたので避難した

階段のない急斜面も「ここが一番安全」 想定をもとに

車いすの住民はビニール袋を雨具の代わりにして、川から離れる方向へ避難。

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
高齢者の足腰が健康な方は、公会堂正面にある階段を上って避難した

公会堂の正面にある階段を使って高台へ
公会堂の正面にある階段を使って高台へ

(Q.ルートは事前にシミュレーションできていた?)

村上市小岩内地区 松本佐一区長:

できていた。迷いはなかった

歩くことができる5~6人の高齢者は滝のような雨の中、高台を目指した。しかし、途中からは階段がなく、手元のロープが頼りの急な斜面に。

階段のない急斜面
階段のない急斜面

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
ここは結構雨が降っても、竹の根があるから崩れない。

ロープを頼りに上っていく
ロープを頼りに上っていく

(Q.普段からこの道は1つの生命線と思っていた?)

村上市小岩内地区 松本佐一区長:

高台に上るには、この道より緩やかなルートもあるが、もたもたしていたら土石流に巻き込まれる可能性が十分ある。ここが一番安全

公会堂から避難した住民は高台の民家に身を寄せた。土石流が集落を襲ったのは、避難から約1時間半後。4日午前1時ごろとみられている。

小岩内地区 8月3日~4日の動き
小岩内地区 8月3日~4日の動き

住民が一時的に避難した公会堂にも大量の土砂が押し寄せていた。

村上市小岩内地区 松本佐一区長:
まず早く、空振りでもいいから避難した。それが一番。災害で亡くなった方もいない、行方不明の方もいない。それが一番よかった

55年前の記憶と経験を今につなぎ、起こした行動。災害の教訓を伝え続ける意味がそこにあった。

(NST新潟総合テレビ)