5年前に運行を始めた、JR西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」。
一流シェフが監修した食事を楽しめる「食堂車」が人気だったが、新型コロナ感染防止のため、2年半の間 休止となり、“部屋食”のスタイルになっていた。
しかし、9月にようやく再開へ。
その日に向けて、猛特訓の日々を過ごす若きクルーの姿を追った。

採用された新人クルーは「空」から「陸」へ志望を変えた21歳

深い緑に、ゴールドがあしらわれた車体。JR西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」だ。
1泊38万5000円からという特別な旅を演出する列車の呼び名は“走るホテル”。
運行が始まった5年前から、乗車するには常に抽選が必要なほどで、人気が衰えることはない。

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しかし…憧れの列車の”シンボル”は、いまはバックヤードとして鳴りを潜めている。
瑞風の誇る「食堂車」。
新型コロナ感染防止の観点から、この2年半、食堂車は休止し、部屋で食事をするスタイルでの運行を続けてきた。

そんな、コロナによる影響まっただ中の2021年、瑞風クルーになった女性がいる。
酒寄優美さん(21)。乗務を始めて、まもなく1年だ。

乗客の”特別な瞬間”にも立ち会ってきた。

瑞風サービスクルー 酒寄優美さん:
プロポーズをされるお客様がいらっしゃって。成功させたいという緊張感もあって、乗務して、無事に…プロポーズ成功されて。終わってからもお手紙をいただいて

はじけるような素敵な笑顔が印象的な酒寄さん。
実は元々、飛行機の客室乗務員を目指して専門学校に通っていた。

瑞風サービスクルー 酒寄さん:
コロナ禍で募集がなくなってしまったときに、自分が働く軸「なんで客室乗務員になりたかったのか」を考えたときに、お客様と長い間、限られた空間の中で喜んでいただくサービスをするというところで

空から陸へ志望を変えた酒寄さんだが、今ではすっかり「瑞風」に魅了されている。

瑞風が線路を走ると、子どもたちが旗を振る。

瑞風サービスクルー 酒寄さん:
沿線の方々が手を振ってくださるのを見て、私も「ああ、クルーになってよかったな」って

同期の瑞風クルーの経歴も様々だ。

酒寄さんの同期クルー:
新幹線のパーサー(車内販売)してました。ここに来る前は、新幹線のサービスが止まっていて、2~3カ月間くらいは自宅待機していました

苦境の鉄道界…「瑞風」への期待と特別な空間「食堂車」

新型コロナの影響は鉄道業界にも。
鉄道の利用客数は完全に戻らないとみているJR西日本は、”乗ること”自体が目的となり得る瑞風こそが、これからの時代を引っ張る存在になると期待している。

7月上旬、食堂車にクルーが集まっていた。9月から、食堂車の再開に踏み切ることになったのだ。食器の準備などに大忙しだ。

この空間が乗客にとって”特別”であることを、先輩たちは知っている。

瑞風シニアクルー 大壁紀代さん:
ドレスアップされるんです。お着物はもちろんいらっしゃいますし、タキシードで来られる紳士の方とかいらっしゃるので

瑞風 尾﨑勲支配人:
憧れの列車であり、地域活性の力になれる列車であるということを、いつも考えながら乗っていけたらなと思っています

はじめての食堂車“サービス”に向け…若きクルーに先輩が指導

沿線の期待を背負った、本格始動。2年半ぶりに乗客を迎える準備に入る。
ここからは、食堂車を担当したことのないクルーの特訓だ。
とはいえ、1人で部屋食を担ってきた酒寄さん、これまでとそう勝手は変わらないのでは…

酒寄さんの同期クルー:
ペアリングってなったときに、目を合わせて、私に。私、ドリンク持っていくから

食堂車では、チームでいくつものテーブルを見る“ワザ”が必要だ。
酒寄さんは、互いの分担について同期クルーと話すが、随分と緊張の様子…

瑞風サービスクルー 酒寄さん:
お料理とご一緒に、ペアリングドリンクご用意しておりますが、ご用意してもよろしいでしょうか?

さすが、上質な旅を提供するプロのおもてなしだ。同期クルーとのアイコンタクトもバッチリ。

ここで、料理の出し方について指導が。

瑞風 木村暢良支配人:
はい、ストップ。料理は2人で持っていって、2人できれいにお辞儀して、そろえて出しましょう

クルー同士の協力は初めての経験。同じ料理でも、サーブの仕方が違う。

瑞風サービスクルー 酒寄さん:
まだレストラン(食堂車)の経験がないので、不安…とちょっと楽しみがありますね。お食事のナフキンも私たちが準備するんですけど、裏というか、出会う前段階からお客様を迎える準備を始めている

困難な時代だからこそ、きらびやかな別世界へいざないたい…その思いが、クルーたちを突き動かす。

いよいよ訓練大詰め…「2泊3日」実車訓練 乗客役は社員

訓練は大詰めを迎えた。
2泊3日、乗客役を社員が務め、瑞風を実際に走らせて行う貴重な実車訓練だ。
いよいよ、酒寄さんの出番。本番さながらの訓練がスタートだ。
マスク越しでも笑顔は光っている。

列車が揺れて、人にぶつかりそうになりヒヤリ。
限られたスペースの中で、常に背後を意識してサービスしなければならない。

重たい器を慎重に運び、さあ、クルー2人並んで…あれ?
2人同時に出すはずが…1人で先に料理を出してしまった。
焦りが出てしまったのだろうか。ペアのクルーを置いてけぼりにしてしまった。

訓練の後、すぐに集まって全員で反省会だ。

瑞風シニアクルー 大壁紀代さん:
実際どうだった?できたところ、できなかったところ

瑞風サービスクルー 酒寄さん:
うまくできたところは…ない

酒寄さんの先輩クルー:
そうかな?すごくニコニコ楽しそうに料理説明していただいたので

瑞風シニアクルー 大壁紀代さん:
たくさん(食器を)下げてくださってたよ、洗い場の方に。ああいうことも気が付いてやってくださってたなと思いましたよ。いいところもいっぱいある

酒寄さんの目には、こらえ切れない涙が浮かぶ。

瑞風シニアクルー 大壁紀代さん:
2人で一緒に出て、ペコリってして、料理を出す。息を合わせていく。次は絶対できるから。次の目標にされてもいいかなと思いました。まずはお疲れさま!頑張りましたね

瑞風サービスクルー 酒寄さん:
もう10回くらい心折れてました。分かっているのに、動けていない自分がすごい悔しい…くじけそうですけど、この思いがあるからこそ、諦められないというか。皆さんとお会いする時には、一人前のクルーとして、成長したなって気づいていただけるようなサービスをしていきたいなと思います

新しい時代への希望を乗せて。
再始動はもうすぐだ

(2022年8月9日放送)