2010年に神戸市北区で男子高校生が殺害された事件。当時17歳だった元少年が、2021年8月4日に逮捕されてから1年になる。

両親は、元少年に対して、息子の命を奪ったこと、そして11年近くも逃げ続けたこと、「2つの罪」を問うために法廷に立つ準備を進めている。

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「僕らの中では生きてる」息子のために続ける講演活動

2022年6月、徳島で犯罪被害者の声を伝える講演会が開かれた。自身の経験を語るのは、息子を殺害された堤敏さん。

息子を殺害された・堤敏さん:
奪われた命は戻りません。被害者は何年たっても、被害の中にいるんです。私の息子は殺されるために生まれてきたんじゃないんです

2010年10月、神戸市北区の自宅近くで、当時16歳の次男・将太さんがナイフで首や頭などを刺され、殺害された。

講演でも、事件直後の遺族の苦しい”心の内”を訴える。

将太さんの父・堤敏さん:
もう心の中では、「将太おかえり。よう頑張ったなあ。痛かったよなあ…こわかったよなあ…苦しかったよな…辛かったよな。お父さんな、お前守ってやれんかってん。ごめんな」って。もう本当心の中ではそう言いながら、言葉にはならなかった。もう「ごめんな」としか言えませんでした。それが精一杯でした

講演活動、そして突然いなくなった息子に対しての思いを話してくれた。

将太さんの父・堤敏さん:
(講演するのは)息子のためにやろうって思って始めたことなんですよね。息子と一緒にやってると。せやから息子はもう死んでしまってますけども、僕らの中では生きてるんですよね。で、これをやめると僕らの中の息子まで死んでしまうような、そんな思いがあるんですね

将太さんの母・正子さん:
(事件で将太さんが)自分の命を落として、結局自分の人生がなくなってるじゃないですか。(将太は)夢もいっぱい持ってたし、それでなんかもう本当にかわいそうだなと

事件からずっと、家族は”その日”を待ち続けていた。

10年10カ月後、ようやく逮捕…しかし「元少年」の壁

事件直後から、父親の敏さんは犯人逮捕につなげようと、近所の家一軒一軒にチラシを配って情報提供を呼び掛けた。

その後も毎年、事件が起きた10月4日には、現場近くの駅などに立ち、情報を求めた。

そして、ついに事件から10年10カ月…

兵庫県警の記者会見(2021年8月4日):
被疑者を殺人罪で通常逮捕しました。「被疑者は犯行当時17歳のA」、男

逮捕された容疑者はすでに28歳になっていたものの、犯行当時は17歳の未成年だった。そのため”少年法”に守られ、名前などの情報が明かされることはなかった。

将太さんとは面識がなく、動機については「女の子と一緒にいて腹が立った」と述べたという”元少年”。

鑑定の結果、刑事責任を問える精神状態だったとして、2022年1月に起訴された。

しかしその際も、少年として扱われたままだった。

逮捕時は28歳でも法律上は「少年」 ”逃げ続けた罪”訴える両親

将太さんの父・堤敏さん:
1日逃げるごとに罪を犯していっているということやから。僕らとしては、2010年10月4日から事件はずーっと、彼は罪を犯し続けてきたんやと

逮捕までの約11年間逃げたことで成人になったのに、法律上は「少年」として扱われる。

裁判で「被害者参加制度」を利用する予定の堤さんは、”元少年”が10年10カ月逃げ続けた罪を法廷で訴え、納得のいく判決を得たいと考えている。

そのために準備も続けている。

裁判でどのように思いを伝えればいいのか学ぶため、他の事件の裁判員裁判を傍聴するようになった。

将太さんの父・堤敏さん:
神戸地裁の刑事部の裁判を見に行ってみたり…判決を出すのに、裁判官の意見っていうのが、裁判員裁判でも大きく影響を及ぼすのかなっていうところ…

ある日、堤さん夫婦は、25年前にリンチ事件で長男を亡くした高松由美子さんの自宅を訪ねた。

将太さんの父・堤敏さん:
お邪魔します

高松さんは、犯罪によって自身の長男を亡くした経験から多くの被害者・遺族の支えとなり、いくつもの刑事裁判を傍聴してきた。

将太さんの父・堤敏さん:
今の段階で僕の口からは少年法って出したくない。僕はあくまで、いま29歳、29歳として裁いて欲しいと思っているから…

高松由美子さん:
29歳の年齢を考えてほしいと思ったら、はっきり言ったらええと思うし…捕まったら捕まったで、悩むことが出てくるってこと

将太さんの母・正子さん:
どうなるかなって思ってたけど、しんどいなって

将太さんの父・堤敏さん:
自分らで進められへんのが一番しんどいね

逮捕から1年…いまだ謝罪も連絡もなし 「元少年」に問いたいこと

逮捕から1年。

これまで元少年側から堤さんたち家族に、謝罪も連絡もない。

将太さんの父・堤敏さん:
はっきり言ってまだ僕ら会ったこともないし、話したこともないし、声聞いたことすらないです。直接ね…全くまだ知らない人なんですよね。元少年には「何をしたか分かってますか」と。そのことやね、一番先に聞きたいのは…「遠い昔の話じゃないんだよ」と。「この状況じゃ、あなたは今でも犯罪を犯していってることになりますよ」と

母・正子さんは、裁判で意見を述べるため、将太さんとの思い出をまとめた何冊かのアルバムを見せてくれた。

正子さんは、将太さんの写真を見つつ、「反抗期もあったけど、いろいろ話したりとか、そんなこと…」と思い出を話してくれた。

将太さんの母・正子さん:
こういうことがあった、ああいうことがあったって…思い出してしまうともうすごく、最近はすごく悲しいです。やっぱり将太がかわいそう。ほんまだったら、いろんなことを経験して、大人になっていくんやと思うんですけど。将太は16歳で止まってしまってるのに、その人はずっと時間が続いているじゃないですか。そういう大きな罪を犯しているのに

理不尽に“息子の命を奪ったこと”と、“10年10カ月逃げ続けた”「2つの罪」。

なぜ、なにが…“元少年”に法廷で直接問いかけることを待ち望んでいる。

(2021年8月3日放送)