深刻化する薬不足#3 「日本からジェネリック医薬品メーカーなくなる」 “薬価”とコロナ禍で広がる危機感【富山発】
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深刻化する薬不足#3 「日本からジェネリック医薬品メーカーなくなる」 “薬価”とコロナ禍で広がる危機感【富山発】

不正製造がきっかけに…深刻化する薬不足

2021年に発覚した大手ジェネリック医薬品メーカーによる不正製造をきっかけに今、富山をはじめ全国で薬不足が深刻化している。「薬不足の背景とジェネリック医薬品の行方」は…

国が薬の値段を決める日本特有の「薬価」制度から、製薬業界の在り方を考える。

値上げだらけの世の中…しかし薬には定められた「薬価」が

日本ジェネリック製薬協会・澤井光郎会長 (当時):
環境の変化に応じきれないものは、世の中値上げしている。やむを得ずに値上げしている。しかし、われわれの場合、薬価というキャップがあって、それ以上ができない

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5月まで業界団体のトップを務めた、業界最大手「沢井製薬」の澤井光郎会長。

薬の約8割が後発医薬品=ジェネリックに置き換わり、市場の拡大が頭打ちとなりつつある中、澤井会長は「今の制度では、今後メーカーの経営は一層厳しくなる」と指摘する。

薬は、新たに製造するときも製造をやめるときも、国の許可が必要。
さらに、医療機関が患者に処方する際の薬の値段「薬価」は、品目ごとに国が定める。
この薬価制度をもとに、医療にかかる負担の大半を税金と保険料で賄う日本独自の国民皆保険は成り立っている。

その薬価はどう決まるのか。これには、薬の流通が関わる。
薬は、医薬品メーカーから卸売業者を介して、病院や薬局などの医療機関にわたり、患者に処方される。メーカーは製造コストに利益を上乗せし、卸売業者に販売。その卸売業者が医療機関に販売する。

医療機関が患者に処方する際の薬価は、適宜見直される。
その基準となるのが、医療機関の「仕入れ値」だ。

薬価は、この仕入れ値に近づくよう見直される。仕入れ値が薬価を上回ることは原則ないため、薬価は見直しのたびに下がる。
つまり、薬は開発されて以降、次第に安くなる仕組みだ。

国主導のガイドラインで医薬品流通の適正化図るも…

2016年。政府は、それまで2年に1回だった薬価の改定を、毎年にすることを打ち出した。
きめ細かい改定で、より医薬品の価値に見合う薬価を定め、医療費を抑制することが狙いだった。

「改定の頻度が上がると、薬価の下落が加速するのではないか」。
業界で懸念が広がる中、厚生労働省は対策を打ち出した。
薬価の基準となる医療機関の仕入れ値が不当に下がることを防ぐため、過剰な値引き交渉をしないことなどを促すガイドラインを出した。

元厚生労働省医政局長 武田俊彦氏:
市場価格をベースに薬価をつけるとすると、その市場価格がちゃんと決まっているかどうか。ここが一番大きな問題

当時、厚労省の担当局長を務め、ガイドラインの作成を主導した武田俊彦さん。

元厚生労働省医政局長 武田俊彦氏:
なかなか民間の取引だけではうまくいかないという部分があるので、国主導のガイドラインで医薬品流通の適正化を図り、その年に価格差が縮まり、これが進んでいけば、循環的な価格の低下はある程度緩和できるんじゃないかと、当時は考えた

しかし、この目論見は新型コロナウイルスで頓挫した。結果的に、毎年の改定で薬価の下がるスピードが加速した。

元厚生労働省医政局長 武田俊彦氏:
医療機関が(新型コロナの)対応で、てんてこまい。ほかの人が病院の中に入ってくるなということになり、価格交渉ができなくなった。そして、病院が苦しいからといって、値段を下げてくれという話が起きてしまった

元厚生労働省医政局長 武田俊彦氏:
ちゃんと交渉をしようと、適正な価格をつけようと言っていたのに交渉できなくなって、価格も医療機関の力が強くなって下がってしまった

薬価が下がり続ける中で…製造ラインの投資回収はリスク増大

加速した薬価の下落が、富山の中小企業にも重くのしかかっている。
大手ジェネリック医薬品メーカーからの受託製造も担う富山市のメーカー。

前田薬品工業 前田大介社長:
充填機と包装ライン、1ラインで3億円。(工場全体で)30数億円という投資を、どれだけのスパンで返していくか。薬価が下がり続ける中だと、回収できる年数は毎年長くなる、リスクが増大する。安定供給をする仕組みが、国家全体で保証しているかというと、そうではない

8年前、このメーカーは薬の品質試験のデータの書き換えが発覚し、業務停止命令を受けた。当時、請け負っていたのは180品目以上で、納期に追われるプレッシャーを抱えていた。

8年かけて、現在は56品目にまで減らしたが、中には不採算品目もあり、今後も精査が必要だという。

前田薬品工業 前田大介社長:
ここの充填機にかかる人は、ほぼ1人。昔は4人で動かしていた。4人で1分間で40本だったが、今は1人で120本作っている

前田薬品工業 前田大介社長:
そこまでの機械を入れてでも、今のジェネリックおよび薬価制度においては、次(設備の)更新の際、収益性が担保されている保証はない

"毎年改定”は医薬品全体の大きな問題

「このままでは、日本からジェネリック医薬品を作るメーカーがなくなる…」
業界には、かつてない危機感が広がっている。

日本ジェネリック製薬協会 澤井光郎会長(当時):
不採算品がどんどん増えて、原薬が入手しにくい。円安で原薬価格は上がる。そういう状況での製造中止問題が間違いなく起きてくる。
利益があがっている会社も、不採算品目ばかり増え、赤字に転じてしまう。日本からジェネリック企業はなくなってしまう。それだけ、毎年改定の影響は医薬品全体の大きな問題

少子高齢化が進み、薬代を含めた医療費が年々上がっていくことが懸念される中、安い薬 =ジェネリック医薬品は、国だけでなく、わたしたち国民が必要としている。
今後、どうすれば安全で安い薬を安定的に生産できるのか。今こそ、その答えを見つけることが求められている。

医薬品の不正製造は、あってはならないこと。
一方で、不正製造をきっかけに、医薬品を安定して製造できる環境の重要性、そして現状はそうではないことが浮き彫りとなってきた。

(富山テレビ)

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