3月15日に行われた富山県内の公立中学校の卒業式。ある中学校の卒業式までを追いかけた。
第6波の最中に行われた卒業式には、教職員たちの思いが込められていた。

2月末。
卒業式を2週間後に控えた富山市の芝園中学校では、3年生の担任教師たちが卒業式に向けた打ち合わせをしていた。

この記事の画像(19枚)

教諭:
マスクを外させたい、というのが一番の思いかなと

連日、1日の感染者数が過去最多を更新していたこの時期。
議題の一つとなっていたのは、146人いる3年生全員がマスクを外して式に参加できないか…。その可能性を模索していた。

3年D組 高瀬優子教諭:
去年までは、完全にマスクをつけた状態で卒業式だったんですけれども。やっぱり晴れ舞台なので、少しでもいい顔を保護者の方にも見てもらいたくて、マスクを取れないかという(議論)になっていますね

コロナと隣り合わせの学校生活を送った3年生

3年D組での取材を許されたのは、県立高校の一般入試が終わった3月11日。
卒業式まであと4日だった。

3年D組の生徒:
(試験)終わりました。合格します、気力で。まだ落ち着かないですけど、卒業式はちゃんとやりきろうかなって

(Q.マスクを外すことに抵抗は?)
3年D組の生徒:

ちょっと

(Q.コロナに感染するのが怖いから?)
3年D組の生徒:

普通に鼻から下を見せたくない

2年前、新型コロナウイルスにより突然の休校に見舞われた教育現場。
3年生の生徒たちは当時1年生。以来、ずっとマスクをつけたままの中学校生活が続いていて、14歳の挑戦(富山県独自の中学生職場体験)がなくなり、修学旅行は県内で日帰りとなるなど、常にコロナを意識した学校生活を強いられた。

3年D組 高瀬優子教諭:
(マスク生活は)だいぶ慣れましたけど、最初はマスクしていると(生徒の表情が)分からないなというところはあります。練習の間は(マスクを)ずっとつけていきます

感染者が出てしまえば式の開催も危ぶまれるため、この日も感染対策をしながら合唱の練習。

音楽担当 渡辺優子教諭:
この間隔だったら飛沫は大丈夫。互い違いになっているし、大丈夫だから安心して、最後はマスクとります。みんななら大丈夫だから、もっと息吸おう。みんなの思いを届けようよ。できる、みんななら

学年主任 中川香織教諭:
マスクを外すだけで表情が分かって、相手の気持ちもわかって、言葉では伝えられないものが表情からも本当は伝えられるはずなんだけど、それが今うまく伝えられない。とっても残念な時代ですよね。コロナ禍だからできないんじゃなくて、だからこそできることを精いっぱいやる。マスクを外して、精いっぱい自分の思いを表情と声にのせて届けてほしいと思います

「やらないことは簡単だが…」模索と検討を重ね

2022年に入り、オミクロン株による感染拡大した第6波で感染が目立ったのが、10代以下の子どもたち。保育や教育現場で次々と感染者が確認され、県内でも休園や休校に追い込まれるところが相次いだ。

国は子どもたちの感染拡大を受けて、学校での感染対策強化策をまとめ、合唱や調理実習などの感染リスクの高い教育活動の自粛を要請した。

その頃、感染者が確認されていた芝園中学校。
感染状況を考えれば、対策として欠かせないマスクを外すという判断は難しい状況だったが、教職員たちは模索を続けた。

芝園中学校 高木健吉校長:
何でもやらない方が簡単なんです。これやめよう、あれやめようとか。
やめていけば簡単なんだけど、でも子どもたちの中学校生活って一生に一度しかないわけで。もっというと、今の卒業生って、この2年間で一番行事が制限されている学年でもあると思うんですね。
むやみに恐れるのではなく、正しく恐れていく。そのために、データをきちんと出してもらって、それを我々も確認して、対策を考えていくと

教育現場で猛威を振るう第6波。
マスクなしの卒業式はどうしたら実現できるのか。
中学校長会の会長を務める高木校長が判断を仰いだのが、委員を務める富山市の新型コロナ対策検討会議。

検討会議ではこの2年、教育現場で過度な感染対策によって学びの場が奪われないよう、あらゆる場面における指針を医学的見地から示してきた。

検討会議は、合唱時の飛沫の飛散距離などのデータをまとめ、感染状況などを踏まえた結果、マスクなしでも卒業式が行えると判断した。

3年D組 高瀬優子教諭:
中心線から板13枚とかいろいろあったり、マイクの入れ替えを担当してもらう生徒とか、かなり変わってここまで来ました。あとは子どもたちを信じて、子どもたちが精いっぱい自分たちのことを表現してくれたらと思っていて。
送り出すというのはおこがましいというか、最後の卒業式、みんな揃って晴れやかな顔を保護者に見せて卒業してくれたらなと思います

マスクなしの卒業式…生徒たちに誇らし気な表情

そして迎えた3月15日、卒業式当日。
卒業生たちは、入場から退場までマスクを外して式に臨んだ。

式では、共有するマイクはその都度消毒され、飛沫が飛ぶ場面ではパーティションを準備するなど、感染対策が徹底して行われた。

3年D組 高瀬優子教諭:
いろんなことを我慢していく中で、イラつくというか、「どうして私たちだけ?」という思いもきっとあったと思うんですけど。友達と距離をとって過ごしなさいとか、給食も前を向いてしゃべらずに食べなさいという指示もあるんですけど、まず何よりも命を大事にしてほしい

卒業式前に先生への色紙をつくっていた生徒:
高瀬先生も含めた教職員は、私たちのことを考えて動かないといけないので、私たち以上に大変だったと思う。
私たちの生活にはいろいろと出来ないこともあるんですけど、それでも私たちは受験が控えているし、そういうのを思って言ってくれていたんだなって思っているから。学校生活の私たちを支えてくれている大切な人です

強い絆で結ばれていた、教職員と生徒たち。マスクのない卒業式には、生徒たちのちょっぴり誇らし気な表情が見られた。

卒業式のあと、教室に戻り、卒業生から担任の先生に色紙のサプライズプレゼントも。

3年D組 高瀬優子教諭:
幸せの決め方は自分次第だと思うので、あれが出来ていない、これが出来ていないじゃなくて、みんなが学校行事でやったように、これなら出来る、これなら出来そうだという、自分の中の自信を増やしていって、自分を信じて自分の人生を楽しんでほしい

県内で新型コロナの感染が拡大してまもなく丸2年。
感染対策が続く教育現場で、学びや学校生活のための模索が続く。

(富山テレビ)

富山テレビ
富山テレビ

富山の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。