けたたましく鳴るサイレン。吹きあがる炎と煙。2022年4月19日未明、北九州市の旦過市場一帯を大規模火災が襲った。
この記事の画像(24枚)復興を目指す旦過市場の歩みと、携わる人たちの復興への思いを取材した。
これからも旦過で…火災に負けず店を守る
出火から約1時間。燃えさかる炎を呆然と見つめる1人の女性がいた。
徳岡朱美さん:
隣のラーメン屋さんがドンドン叩いて教えてくれてね。叩き方が異常なので、どうしたのかなと思って
だご汁店「いちべえ」の店主、徳岡朱美さん(86)。店は大きな被害を受けた。火災から19日後の5月8日、被災した店内を整理していると…。
徳岡朱美さん:
うわ~、ありがとう…。いやぁ、焼けてる。もう…
出てきたのは、徳岡さんの祖母の代、明治時代から大切に受け継いできたミシンだった。
徳岡朱美さん:
複雑な気持ちですけど、ありがたいことです。これで落ち込んでもしょうがないし、前向きに受け止めます。また、だご汁店をします!お店ができましたら、よろしくお願いします
旦過市場から約1.5kmの小倉北区砂津。5月2日にオープンした1軒のお店がある。店内からは唐揚げを揚げる香ばしい音が聞こえていた。
唐揚げ店「笑まる」の丸山誠さん(56)。
丸山誠さん:
元々は旦過の方でお店をやっていて、ここで仕込みをしながら唐揚げの持ち帰り販売もする予定だった
丸山さんは旦過市場に隣接する飲食店街「新旦過横丁」で焼き鳥店を営んでいたが、店の目前まで火が襲い、営業ができない状態に…。この唐揚げ店の開業を早めることにしたのだ。
店には旦過店の常連客の姿があった。
常連客:
4人の予定をみんな合わせて、気合いを入れてきました
丸山誠さん:
旦過の「笑まる」も私のおじいちゃんの代からあるお店なので、私が生きている限りは守り続けて、出来たら自分たちの子どもとかが継いでくれるのであれば、それに越したことはないなと。昭和の雰囲気を残したまま、残してほしいです
広がる支援 愛される市場の人々と変わらぬ味
諦めずに前へ進む人たちに、支援の輪が広がっている。
独立リーグの地元球団による募金活動。募金活動は地元の高校でも行われた。
ユニクロとのコラボTシャツも。売り上げの一部は支援金にあてられる。
木下人英さん:
きょうも旦過でお買い物、はい!
「木下茶舗」の名物店主、木下人英さん(75)。いつまでも旦過市場のムードメーカーだ。
木下人英さん:
お兄さん、トマトがあなたを呼んでます!見て!きゅうりとタマネギが新しい。売りよる人は古いけど!インゲンがある?そんなことは誰にもインゲン
小倉名物・ぬかみそ炊きの「ふじた」。店主の藤田崇秀さん(47)。
藤田崇秀さん:
昔と変わらず活気を、これからもずっとこの状態を、後世に伝えられるような市場になっていけば一番良いのではないかな
創業40年の「旦過うどん」。2代目女将の水上桂子さん(56)。
水上桂子さん:
自慢は手打ちうどん、おでんですね
自慢の商品は、リリー・フランキーさんから許可を得た「おでんくん」の巾着。
水上桂子さん:
これから旦過市場を盛り上げてやっていきたいなって。それが今、すごく強いですね。皆さまから愛されるお店になっていきたいです
「看板が残ってうれしい」常連客の激励に
シャリシャリと米を研ぐ小気味よい音。毎朝7時半、ホカホカのご飯が炊き上がる。創業20年の「米夢マイム」だ。自慢の米を使った“特性ご飯”が並ぶ。
来店客:
ほわっとしてね、お米自身が良いわ。なんとなく和やかになる
来店客:
おいしいですね~。手作りですよね
毎日市場に足を運ぶ、創業70年「戸根食肉」の松田角二店主(83)。店は全焼だった。それでも…。
松田角二さん:
(看板が残っていて)うれしかったよ。もう1回やれよと残ったのかもわからん
松田さんを見た常連客たちが声をかける。
常連客:
おいしい肉ゆうたら戸根の肉。どこで買うよりおいしい
常連客:
もう困っとるんよ。みんな言いよるんよ、困っとるって
松田角二さん:
みんな言いよった?
常連客:
早よ、再開できんかねえ
松田角二さん:
できますよー!
常連客:
頑張ろうやね!待っとるけえね
松田角二さん:
やります!
常連客:
お願いします!
常連客からの声に営業再開への決意が強くなる。
松田角二さん:
一歩ずつ、一歩ずつ。もうひと踏ん張りやないよ。もう、ふたつもみっつも踏ん張らないかん。ここでやるけえこそ、ええんよ。アイラブ旦過よ!
多くの人に愛されてきた「旦過」は絶対に止まらない。復興に向けた歩みはこれからも続く。
(テレビ西日本)